NPU:究極の生命単位④生命の互換的状態
↓の続き
2.2. NPレベルでの生命の定義:「静止生活状態」と可逆的な「活性生活状態」(不可逆的な「死の状態」)への変換
この節では、NPのエネルギーとエントロピーの概要を簡単な無生物モデルを用いて説明する。1969年に初出のこのモデルは「釘-鉄屑-磁石 モデル」と呼ばれ、図4にはその一部を複製している[1]。

[1]Ling G. N. (1969). A new model for the living cell: a summary of the theory and recent experimental evidence in its support. International review of cytology, 26, 1–61.; p.37 https://doi.org/10.1016/s0074-7696(08)61633-2
このモデルの核心は紐で両端を繋いだ軟鉄釘の鎖である。釘の鎖周辺に鉄屑が敷かれている。ここで第三の道具に馬蹄 形磁石を持ち込んで実演しよう。磁石の一端を鎖の端の釘に当てると最初の釘が磁性化され、これが隣の釘を磁性化し、鎖の全ての釘が強磁性状態になるまで続く。釘は磁性化しながらランダムに散らばる鉄屑を回収し、そのランダム性を下げながら強制的に秩序的な分布にしていく。
熱力学で言えば、馬蹄形磁石は隣り合う釘と鉄屑の間に広がる吸引(負)エネルギーを齎したのである。また、釘と鉄屑のランダム性やエントロピーを喪失させた。つまり、馬蹄形磁石が全体的に相互作用した結果、系全体が低(負)エネルギー/高エントロピー状態から、高(負)エネルギー/低エントロピー状態へと変化した。ではこの無生物モデルを図5の生きるNPUと比較しよう。

図5のNPと図4の釘-鉄屑-磁石モデルには根本的な共通点がある。馬蹄形磁石と同様、制御剤であるATP(詳細はp136)もまた、拡散性の(負)エネルギーとエントロピーを生み、周辺の水分子とK⁺に影響を及ぼす。この場でのみ、高(負)エネルギー/低エントロピー状態のNPを「静止生活状態 」と呼ぶ。逆に低(負)エネルギー/高エントロピー状態のNPを「活性生活状態 」或いは「死の状態 」と呼び、前者の活性生活状態はその可逆性を特徴とし、後者はその不可逆性を特徴とする。
無生物系の対比となる釘-鉄屑-磁石モデルと同様、2つの互換的状態の移行は「全か無 」であり、この現象はp.140で詳細に説明している。
静止生活状態での存在がAIHに於ける「生命」「生きている」状態の定義となる。静止生活状態から活性生活状態への可逆的転換が生命活動を構成する。「生きている」ことと「生命活動への関与」は生命の二面性である。この概念は、アリストテレス、デモクリトス、ヒポ(クラテス?)、後のラマルクやレペシュキン の構想にまで遡り、根底で調和している[2]。
[2]Ling, G.N. (2001) Life at the Cell and Below-Cell Level: The Hidden History of a Fundamental Revolution in Biology, Pacific Press, New York.; p.271
次節では、生命だけが生み出す「長距離を橋渡し 」する分子構造…ポリペプチド鎖…を詳述しよう。また、ポリペプチド鎖が静止生活状態の維持および生命活動で果たす中心的役割を簡潔に述べておこう。
2.3. ポリペプチド鎖- 情報とエネルギーが交差する生命の"ハイウェイ"
ペプチド結合(CONH)の存在により、凡有るポリペプチド鎖とタンパク質を構築するブロックのモデルと言える最小分子はN-メチルアセトアミドである。1950年、水島(※三一郎)らは、この分子のN原子とC原子の結合が通常のN-C単結合に比べて遥かに短いことを示した[3]。この結合距離の短縮は、以下2つの互換構造の間に共振現象か極めて迅速な変化が生じることを示唆している。

[3]Mizushima, San-Ichibo, Masamichi Tsuboi, Takehiko Shimanouchi, and Yoshizo Tsuda. “Spectroscopic Investigation of the Strength of Hydrogen Bonds Formed by Amides.” Spectrochimica Acta 7 (January 1, 1955): 100–107. https://doi.org/10.1016/0371-1951(55)80012-4.
共振の結果、C-N結合は40%が二重結合、60%が単結合となる(そして平坦/平面構造となる)。
このペプチドCN結合の部分的二重結合の性質、これを生み出す共振がポリペプチド鎖の高い分極率 に貢献している。この高い分極率により、ポリペプチド鎖は長距離の情報伝達やエネルギー伝達における独自の機能を果たすことが可能となる[4]。
[4]Ling, Gilbert. A Physical Theory of the Living State: The Association-Induction Hypothesis. Edited by Gross Paul R. New York: Blaisdell Publishing Co., 1962. ;p.93
ではポリペプチド鎖にある2つの最近接β-/γ-カルボキシル基を考えてみよう。両者はポリペプチド鎖の鎖長に加えて、メチレン基(-CH₂-)にある2つの短いセグメントで互いに隔てられている。メチレン基(-CH₂-)nを介した誘起効果の伝達は、効率面でポリペプチド鎖による伝達に劣るものの、メチレン基ぞれぞれを介した伝達率は最大0.333である。中には0.48という高い伝達率の報告もある[5-7]。
[5]Taft, Robert W. Jr. “Linear Steric Energy Relationships.” Journal of the American Chemical Society 75, no. 18 (September 1, 1953): 4538–39. https://doi.org/10.1021/ja01114a044.
[6]Ling, G. N. “The Role of Inductive Effect in Cooperative Phenomena of Proteins.” Biopolymers Symposia 13 (1964): 91–116.
[7]Ling, G.N., Zodda, D. and Sellers, M. (1984) Quantitative relationships between the concentration of proteins and the concentration of K+ and Na+ in red cell ghosts. Physiol. Chem. Phys. & Med. NMR 16: 381.
PDFリンク:Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR
ポリペプチド鎖の高い分極率は、タンパク質鎖に沿う2種類の伝達メカニズム…1962年に提唱し、それぞれ「直接F効果 」「間接F効果 」と命名[8]…の支持基盤となる。2つの造語の根底にある「単純F効果 」とは、介在原子を通じて伝達される誘起効果(I効果)と、介在空間を通じて伝達される直接D効果の合計を表す[9]。
[8]Ling 1962, p. 92-102.
[9]Hermans, P.H. (1954) Introduction to Theoretical Organic Chemistry (edited and revised by R.E. Reeves), Elsevier, Amsterdam, New York.; p.374
直接F効果は、あるタンパク質鎖の特定部分に作用する因子と、離れた位置にいる同一(別の)タンパク質鎖の標的官能基との間に生じる。この通り、直接F効果は静的である。現時点で、直接F効果の長距離作用を支持する証拠が最低でも4セット程集まっている。具体的には、3つのペプチドから成る鎖と、鎖の両端にある短いメチレン基まで網羅できるのである。
[10]Ling, G.N. (1992) A Revolution in the Physiology of the Living Cell, Krieger Publishing Co., Malabar, FL; p.132
[11]Ling, G.N. (2001) Life at the Cell and Below-Cell Level: The Hidden History of a Fundamental Revolution in Biology, Pacific Press, New York.; p.161
間接F効果は直接F効果の連鎖に基づく。2.1節の最後でβ-/γ-カルボキシル基の重要性に触れたが、それは互換性のイオンを吸着する能力、豊富な生理学的活性なタンパク質(図3)、ポリペプチド鎖との近接等に由来する。ここで読者諸君には思い出して頂きたい。β-/γ-カルボキシル基と同様、骨格NHCO基もまた様々な吸着体の吸着サイトとして機能するが、ポリペプチド鎖の一部を構成する為により近接していることである。さて、間接F効果が如何にして情報とエネルギーを長距離伝達する目的を達成するか、簡潔に説明する準備が整った。
研究初期の理論解析により、正と負の電荷を交互に持つ長い分子鎖には通常と異なる機能が宿ることが解明された。最適な条件下では、こうした分子鎖は無限に等しい長距離の地点までメッセージを伝達可能である…無限に等しい長さのドミノ倒しとは似て非なるものである。一方通行にしか倒れないドミノとは異なり、間接F効果を介する伝達は双方向性である。
実際、独自の生ける構造であるポリペプチド鎖はまさにそうした系であり、正と負に交互に帯電する部位とはNH基とCO基の反復配列に他ならない。ここで優先的吸着体のペア…それぞれ正と負に帯電…が吸着すると、隣接の吸着サイトに類似の吸着体ペアが吸着する傾向が生じる。この近接領域に「全か無」の相互作用が伴う傾向の吸着に対し、私は自己協同的相互作用 と命名した[12]。これは統計力学の標準的な用語である「強磁性型協同相互作用 」に類似する。
[12]Ling 1962, p. 102
自己協同的遷移 が如何に作用するか。先ずは電子的摂動 や誘起効果がβ-/γ-カルボキシル基の優先的パートナーを如何に変化させるか知る必要がある。
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