第十一章 心の声 ― 文字の向こうのぬくもり
社会復帰の道を歩みながら、
少しずつ、またインターネットの世界にも戻っていった。昔のYahooチャットの頃とは違って、
ネットはもう、まるで別の世界になっていた。
その中に――アメーバピグというサービスがあった。
サイバーエージェントが運営していて、
自分の分身のような“アバター”を作り、
仮想の街や自分の部屋を歩かせることができた。
文字だけではなく、アバターが笑い、動き、
相手の存在を少し“感じられる”ようになった。
僕はその世界で、たくさんの人と出会った。
けれど、その中でひとり、特別な人がいた。
――2013年11月1日。
彼女と出会った日だ。
今日、2025年11月1日。
あれから、ちょうど12年になる。
彼女は僕より2歳年上だった。
とても頭の良い女性だった。
小学校の先生をしていた。
最初は、ただのチャット仲間。
でも、話すうちに分かった。
彼女もまた、苦しい過去を抱えていた。
それでも穏やかに笑うその姿が、
どこか僕に似ていた。
ある日、彼女が言った。
「岡田さんって、頭いいね」
――驚いた。
誰かにそう言われたのは、いつ以来だろう。
ずっと“出来損ない”だと思っていた僕に、
そんな言葉をくれた人は、ほとんどいなかった。
正直、嬉しかった。
心の奥がじんわりと温かくなった。
ネットの世界というのは、
現実よりも不思議な優しさがある。
顔も見えない、声も直接聞こえない。
でも、なぜか心の距離が近い。
夜、パソコンの前でアバターが並んで座っている。
文字が流れ、笑いの絵文字が弾む。
現実では誰とも話せない夜でも、
そこには“僕を見てくれる人”がいた。
僕はその頃、ようやく少しずつ人を信じられるようになっていた。
信じることが、また怖くもあったけれど。
彼女との出会いは、僕にとってただの偶然ではなかったと思う。
六万寺の住職・今雪さんが言っていた言葉が、また頭に浮かんだ。
――「世の中は縁でできているんですよ」
きっとこれも、仏縁のひとつだったのだ。
彼女と話しているとき、僕は“誰かのために生きたい”と思えた。
そんな気持ちを持てたのは、本当に久しぶりだった。
つづくhttps://note.com/mitsuhiro_swim/n/naf907f5658d8?sub_rt=share_b
