妄想シティ 第20話
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ダイヤモンドを手に持ったルーシーが空を飛んでいる。加藤和彦も飛んでいる。
マックスウェルが銀のハンマーで頭をかち割る。
ノルウェーの森で、僕は紅茶を飲む。
誰かが僕の頬を殴っている。
いったいなんでそんなことをするんだよ?
僕は気持ちよく眠っているんだ。ほうっておいてくれないか?
「いい加減に起きろよ、早坂」と何者かがなおも僕を殴り続ける。
「いったいいつまで寝ているつもりだ?」
「ずっとだよ」
「ふざけるな! 奴らは俺が倒したから、早く起きるんだ」
「奴らって?」
「君をずっと眠らせていた奴らだよ」
「誰?」
「誰でも良いから、早く起きろ!」
僕はだんだんと目が覚めてきた。
まぶたがひくひくする。僕はまぶたを開き、目の前を見る。
ぼやけていた景色が、だんだんと焦点があってゆく。
僕の目の前にあいつがいた。
あいつは僕の頬を殴りながら僕の目をじっと見つめている。
あいつ、ひとりぼっちのあいつ。
「ノーホェアマン?」
「まったく困ったものだよ。君は永遠に眠り続けるつもりだったのか?」
とノーホェアマンは僕に訊ねた。
「わからない」
「わからないじゃないよ。僕がいたから君は助かったけど、もし僕がいなかったら君は一生ここでこうしている嵌めになっていた」
「ここはどこだ?」
「ここはまだ君の妄想世界だけど、君の意識がはっきりしてきたら、本当の現実に戻れるよ。あまり見たくないだろうけど」
「どういうことなんだ?」
「つまり君は、君の体を動かしている君の意識のスイッチを切られてしまい、変わりに奴らが君の体を動かしていた。幸い奴らは僕の存在を知らなかったから油断していたんだ。僕はタイミングを見はからって奴らを追い払った」
「さっぱりわからない」
「さあ、あまり時間が無い。そろそろ現実世界に戻るぞ」
真っ暗闇の中から、僕の視界が突然に開けた。
僕の目の前には、巨大な工場の生産ラインがあった。
ベルトコンベアで流れてくる製品。
その両脇にたくさんの人々が並び、もくもくと組立て作業を行っている。
人々の目は死んでいた。ただただロボットのように目の前の作業をこなしている。
僕はその中の一人として組立作業を行っていた。
まったく身に覚えが無い。
無意識の内に僕は作業を行っている。
僕の隣にノーホェアマンが立っている。
もちろん彼だけは僕の妄想の一部だ。
「ここはレベル5だ。レベル5では自我を失われた人々が決められた仕事をこなしてゆく。早くここから逃げ出そう」
「いや、ちょっと待ってくれ。もしかしたら須田もここにいるかもしれない。あいつを探しだせないか?」
「あまり時間がない。奴らに気づかれる前にここを脱出しなければならないんだ」
「須田が仲間にいれば心強い」
「わかった。ちょっと待っていてくれ」
ノーホェアマンは目を閉じて深呼吸をした。
数十秒後、ノーホェアマンは目を開け、僕の手を握った。
「こっちだ」
ノーホェアマンに連れて行かれた先には、須田の姿があった。
須田はまったくの無表情でもくもくと組立作業をしていた。
僕はノーホェアマンの顔を見る。
ノーホェアマンは黙ってうなづいた。
須田が意識を取り戻し、僕を見た。
「あ、兄さんじゃないですか。お久しぶりですね」
と須田は暢気なことを言う。
「挨拶はいいから、早くここから抜け出すぞ」
「え? ここってどこですか?」
須田はきょろきょろと周りを見回す。
「レベル5だ」
「レベル5?」
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僕と須田はレベル5を脱出し、無事レベル3へと逃げ込むことができた。
レベル5から抜け出す人間がいるだなんて想定外だったのだろう。
そこには警備らしい警備も無く、僕らは難なくレベル3へと到着した。
しかしレベル3に来れたからと言って安心はできない。
IDカードを持っていない僕らはここから出ることが出来ないばかりでなく、飯さえも食えないのだ。
「さて、これからどうしたものかな」と僕はつぶやく。
「いったい何がどうなっているんですか?」と須田。
須田にはまだこの状況が飲み込めて無い様だ。
まあ無理も無い。
「僕らはやつらによって洗脳され、レベル5で強制労働をやらされていたんだ。無意識の内にね」
「洗脳?」
「そうだ」
「それじゃあやつらはやっぱり悪者だったっていうことですか?」
「ああ、そうなるね」
「じゃあやることは一つですね」
「え?」
「やつらをやっつけるんですよ」
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「だけど腹減りましたね」と須田。
すると僕の目の前にとんかつ、須田の前にラーメンが現われた。
「やっぱり兄さんはとんかつですよね、僕はラーメンが食べたいです」
ん、何か変だな、と僕は思う。
「お前、俺に触ったか?」
「なんすか突然。僕そんな趣味ないですよ」
「そうじゃなじゃなくて、どうしてお前の妄想が俺に見えるんだ?」
何か変だ。
少し前から静まり返っていたこのレベル3の雰囲気が騒がしく感じられるようになってきた。
緊迫した空気が、やわらいで感じられる。
明らかにこのレベル3で変化がおきている。
「本当に大丈夫なのか」と僕は須田に訊ねる。
「大丈夫ですよ。僕に任せてください」と須田。
僕と須田は中国料理店に来ている。
そしてさっきから食べたいものを手当たり次第に注文し、食べているのだ。
「こんなに食いきれないよ」
「残せば良いんです。食べ残すのが中国式です」
回転する中国式丸テーブルの上にはたくさんの料理が置かれている。
「残ったものはドギーバックにして持ち帰りましょう」
「ドギーバック?」
「折り詰めです」
おなか一杯に料理を食べ、残ったものをドギーバックに詰め終わった僕らはふうと一息をついた。
ここからが須田の出番だ。
須田の妄想によって水着姿の美女が現われた。
美女はモンローウォークで魅力的に腰を振りながら歩いて店主の前まで来た。
中年の店主はその水着美女を見て鼻を伸ばした。美女は魅力を振りまく。
「さあ、今の内にここを出ましょう」と須田は言った。
「何?」
「いいから」と須田。
僕らは静かに店を出た。
「作戦成功!」
最終話につづく。
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「謎解きはディナーの後に、みたいに言うな!」