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妄想シティ 第11話

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 目が覚めると、僕は病院のベッドの中にいた。
 口には酸素マスクがつけられ、腕には点滴の針が刺さっていた。
 看護婦さんが僕の様子に気づき、僕に話しかけた。
「早坂さん、わかりますか?」
 僕は瞬きをしてそれに答えた。

 僕の意識が戻ったという知らせを受けて、橘博士が僕を見舞いに来た。
「気がついたか」
 と言った橘博士は妙に疲れているように見えた。いや、疲れているというよりもくたびれていると言った方が良いだろう。何か変だ。僕はそれを不思議に思う。
 橘博士と一緒に見知らぬ若い女性がいた。誰だろう?
「君が眠っている間に、色々あった」
 静かに橘博士は話し始める。
「眠っている間って、どのくらい僕は眠っていたんですか?」
「三年」
「三年!?」

 橘博士と一緒にいた女性は、当時女子高生だったあのときの女の子だった。
 橘博士がくたびれて見えたのは、三年間年をとったせいだった。

「和美や須田はどうしているんですか?」
 と僕は訊ねる。
「栗山くんも、須田くんも、梅田くんも、今は北海道にいる」
「北海道?」
「大友が北海道に『妄想シティ』を作ったんだ」
「そこで潜入捜査をしているんですか?」
「いや、そのつもりだったんだが」
「何ですか?」
「ミイラ取りがミイラになった」
「ミイラ取りがミイラになった?」

 三年間も昏睡状態だった僕は、すぐに退院することができなかった。
 筋肉が落ち、体が自由に動かなかったのだ。
 僕はリハビリを行いながら、体の自由を取り戻そうとしていた。

 体が思うように動かなくても、僕は特に不自由さを感じなかった。
 足りない部分は妄想で補った。妄想世界があれば、何でもできた。
 だからと言って、実生活を無視することはできない。
 僕は体力を取り戻して、北海道に行かなければならない。

「大友はアイドルビジネスを発展させて、北海道に新しい街を作ったんだ」
 橘博士は僕に、あれから三年間に起こった出来事について説明をしてくれた。

「それは実に良くできたビジネスプランだ。砂漠にラスベガスを作るように、何も無い北海道の広大な土地に大友は総合娯楽施設を作ったんだ。アイドルの劇場、オリジナルの映画を上映する映画館、演劇会場、コンサートホール。そこでしか観れないプレミアムなイベントを行ってたくさんの人々を集客し、金をもうける。しかもそれだけじゃない。さまざまな商品を安い労働力で生産し、販売も行っている。飲食店やクラブやキャバクラなんかも充実している。大友はこの三年のうちに、巨額の富を手に入れている」

 数ヶ月のリハビリのおかげで、僕はなんとか元通りの体力を取り戻していた。
 僕はついに北海道にある大友の街に乗り込む時が来たのだと思った。

「君の妄想力はとても大きなものだが、君は心が弱い。それが心配だ」と橘博士は僕に言った。
「一番手ごわいのは自分自身だ。敵に勝つ前に、まず自分に勝たなくてはならない。そしてそれが何よりも難しい」
「和美たちは、自分に負けたと言う事なんですか?」
「さあ、どうかな? 勝ったのか負けたのか、それはわからない。何が正しくて何が正しくないのか、何が幸せで何が不幸せなのか、人はわからなくなってしまうものだ。正解なんてどこにも無いのかもしれない。自分を信じるしかない。自分が信じたものが、たぶん正解なんだと思う」
「成り行きにまかせるっていうことですね」
「そうだな」
「ともかく、僕は北海道に行って、そこに何があるのかを見て来たいと思います。正解が何かはわかりませんが、事実をこの目で見てきます」
「グッドラック」
 橘博士は「君とはもう会えない気がする」という表情をして、僕にそう言った。

 僕が意識を失った日に電車の中で出会った女子高生。彼女の名前は真鍋雪子と言った。
 雪子は目の前で僕が大怪我をしたことを気にかけていて、何度も僕に会いに来てくれた。そうしているうちに、僕は彼女に好意を持つようになり、彼女も僕に好意を持っていた。
 僕は覚悟を決めていた。妄想シティに行けば、僕はもう戻って来れないかもしれない。僕もまたミイラになってしまうかもしれないし、あるいはもっと酷い状態に陥ってしまうかもしれない。だから雪子とは別れなければならない。
 僕は雪子に別れを告げたが、雪子はそれを受け入れなかった。

 結局、雪子と別れることはできなかった。僕と雪子は飛行機に乗り、北海道へと向かった。
 空港から妄想シティへは特別バスが出ていた。僕らは予約していた特別バスに乗る。

 バスは満席だった。
 実際のところ、妄想シティ行きのバスは常に満席で、予約を取るのも一苦労だったのだ。
 金額も高く、飛行機代と変わらないくらいだ。
 妄想シティに行く客しかいないのだから無料にしても良いくらいだと思うのだが。

 でも乗り心地はとても良いものだった。
 飛行機のビジネスクラスのようなゆったりとしたシートとサービス。各席に液晶モニタがあって映画やビデオが自由に観られる。ドリンクと軽食のサービスもある。
 こうして僕らは妄想シティへと3時間のバスツアーをするのだった。
 3時間、、、。

第12話につづく。


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甘野充 言葉だけでは伝わりません。 コメントはチップとともに。 「謎解きはディナーの後に、みたいに言うな!」