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妄想シティ 第6話

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 その日は朝からTVのニュースが賑わっていた。
 「謎の怪物が渋谷に現れた」と言うのだ。
 ついに奴らが動き出したのか?
 僕らはニュースに釘付けになった。

 ニュースによると、渋谷駅前のスクランブル交差点で、数人の人々が突然『怪物が現れた』と言って騒ぎ出したのだという。
 しかしながら大多数の人々には何も見えず、奇妙な集団幻覚事件として話題になっていた。

「見える人、見えない人。その違いは妄想力の違いから来るものなのか?」
 僕は呟く。
「いや、一概にそうとも言い切れない」
 橘博士は僕らを見た。
「早坂くんと栗山くんは、これから渋谷に調査に行ってもらえないか?」
 橘博士の言葉に、僕と和美は顔を見合わせた。 
「出動命令ですか?」
 和美が言う。橘博士は静かに頷いた。
 僕と和美は渋谷へと出動した。

※     ※     ※

 橘博士から受けた指令は、渋谷の大気成分を計測器で測定することと、ビデオカメラでスクランブル交差点周辺を撮影することだった。
 僕らは渋谷の駅前に立ち、ハチ公前からスクランブル交差点に向けて調査を開始した。
 和美が計測器で大気成分を測定し、僕がビデオ撮影を担当する。僕らは極力目立たないように行動したが、明らかに挙動不審だ。

 僕は渋谷の街行く人々を撮影する。
 渋谷の街はたくさんの人々で一杯だ。この大量の人々はどこから来て、どこに行くのだろうか?

 橘博士はビルの壁面に設置されたスクリーンの映像を撮影するようにと言っていた。そんなものを撮ってどうするのかは分からなかったが、命令には素直に従うことにする。

 スクランブル交差点の周囲にはいくつものスクリーンが設置されている。
 いつの間にか随分と増えたものだ。これだけたくさんの人々が通過するのだから、宣伝効果は絶大だということだろう。
 スクリーンを撮影する都合上、どうしてもカメラを上の方に向けなければならない。かなり小型のビデオカメラを使用しているのだが、その姿は異様に見えるだろう。そうは思いながらも、いつの間にか僕は撮影に集中していた。そんな僕の腕を、何者かが突然に捕んだ。突然の出来事に僕は慌てた。奴らに捕まった、と僕は思った。

 僕は気持ちを落ち着かせ、ゆっくりとビデオカメラを持っている手を下げた。
 目の前には二人の男が立っていた。和美はいつの間にか姿を消している。
 あいつ、逃げやがったな、と僕は思う。

 片方の男が僕の目の前に警察バッチを見せた。私服の刑事か、と僕はほっとする。いや、ほっとしている場合ではない。 
「二、三、質問させて頂きたいのですが」
 男は丁寧な口調で僕に話しかけたが、その眼差しには隙の無い威圧感があった。

「何でしょうか?」と僕はそんな威圧感には負けずに、冷静さを装った。
「ここで、何をなさっているのですか?」
「何って、観光ですが(普通に)」、と僕は答える。男は更に不信感を高めたようだった。
「逃げるのよ」という和美の声が聞こえてきた。
「どうやって?」と僕は心の中で答える。

 僕らの会話は目の前の二人には聞こえていないようだった。
 こいつらの妄想力はあまり強くないのかもしれない。だとしたら妄想で逃げられるかもしれない。しかしながら僕には妄想力しか戦うすべが無い。
 一か八かだ。僕は全身全霊をこめて、妄想した。

 その瞬間、渋谷の街はパニックになった。
 僕が妄想したのは、今話題になっている怪物だ。
 無数の怪物たちが現れて、人々を襲い始めた。地面から這い出す怪物、空を飛ぶ怪物が、次々と人々を襲っていった。
 僕自身、その光景に愕然とし、立ちつくした。
 和美が僕の腕をつかんだ。
 僕らはこの混乱に乗じてその場から姿をくらました。

※ ※ ※

 和美はかんかんに怒っていた。
「あなた、やりすぎなのよ。物には限度ってものがあるでしょ?」
 僕らは小田急線に隣り合わせに座りながら、小声でいがみあいながら研究所へと戻った。
 研究所に戻ると、橘博士と須田明彦が僕らを待っていた。

「また騒ぎになっていますよ」
 と須田邦彦がTVを観ながら言った。
 TV画面には渋谷のスクランブル交差点が映し出されていた。
 レポーターは盛んにパニック状態になった渋谷の街をレポートしていた。
 和美はそれを観て頭をかかえた。

「警察はビデオカメラを持った不審な人物を探しているみたいだけど、それって早坂くんたちだよね?」と橘博士。
 僕は渋々うなずいた。
「え、これ、姉さんと兄さんたちがやっちゃったんですか?」
 と須田。
「誰が姉さんと兄さんやねん!」

 僕らは事情を説明し、調査データを橘博士に手渡した。
 橘博士はさっそくデータの分析にとりかかった。

「まさかあんなことになるとは思わなかった」と僕が言うと、和美はあきれた顔をして僕を睨んだ。
 橘博士は「思った通りだ」と言うと、僕らの方を観た。

「栗山くんからもらった大気データからは、通常に比べてかなりの不純物濃度が引くなっていることが分かった。しかも脳波伝達の妨げになっている不純物だけがだ。それからこれを観てくれ」
 と橘博士はTVモニタを指差した。そこには、例の怪物の姿が映し出されていた。
「これは、早坂くんが撮ってくれた渋谷の大型スクリーンの画像だ」と橘博士。
「え? こんなの映ってませんでしたよ」と僕は驚く。
「これは、サブリミナル効果だよ」
「サブリミナル効果?」
「ビデオの映像は、一秒に25コマの静止画の連続で成り立っている。そのうちの1コマだけにこの映像が映っているんだよ。一瞬のことだから人間の脳はそれを観えたと判断できない。しかしながらその情報は脳裏に記録され、潜在意識の中に取り込まれる。だから渋谷の街にいて、この映像を観た人々には、同じ怪物の姿が見えてしまうというわけだ」
「なるほど」と僕は言った。よくわからないけど。
「ともかくこれで、奴らが渋谷で実験を行ったことがわかった」と橘博士。
「悪との戦いが始まったというわけですね」と目を輝かせる須田。


第7話につづく。


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甘野充 言葉だけでは伝わりません。 コメントはチップとともに。 「謎解きはディナーの後に、みたいに言うな!」