妄想シティ 第7話
11
僕はかつて住んでいたアパートへと向かっていた。
そこは僕がずっと住んでいた場所だ。そこは僕にとって大切な場所だ。香織との思い出も、そこにある。だけどもそのアパートはもう無い。僕はアパートの焼け跡を目指しているのだ。
アパートに向かう途中で、僕は再びあの光景を目にした。
一軒家がめらめらと燃えている光景。僕はまるで自分のアパートが燃えているかのような錯覚をする。しかしそれは僕のアパートじゃあないし、実際に燃えているわけでもない。これはあの女の妄想なのだ。
「よく燃えてるねえ」、と僕は女の肩越しに話しかけた。
女は一瞬びくっとしてから振り返り、「何なのよ、あんた」と言って僕を睨んだ。
女は放火魔だ。妄想の中で家に放火をして、楽しんでいる。
「僕らの仲間にならないか?」と僕は唐突に切り出した。
「何よ、仲間って?」と女は訝しげな顔をして僕を見る。
僕はおもむろにきびだんごを女の目の前に出す。
「鬼退治」
二カッと笑う僕。たぶん傍目に見て気持ちが悪い。それをわかっていながら、僕はイケメンのさわやかさを装って言う。
「あなた、頭おかしい?」と女は答える。
「じゃあ、僕とつきあう?」
「馬鹿じゃないの?」
「じゃあ、セックスする?」
「殺す」
女は僕のことを無視してスタスタスタと足早に歩き始めた。僕はそれを追いかけるように小走りで歩く。
「こんなことしても、気分が晴れないだろう? 僕らの仲間になれば、きっと気分がすっきりすると思うよ」、たぶん。と言うが、女は僕を振り切って歩いていってしまった。
僕は女のことは諦めて、本来の目的であるアパートへと向かった。
焼け焦げた建物の前に、僕は立つ。すべて燃えてしまった。
すべて燃えてしまった。僕のギターも、僕と香織の思い出も、何もかも。
でもそれでよかったのかもしれない。
僕は感傷的になっている。
いや、僕はアパートが燃えていても燃えていなくても関係なく感傷的なのだ。
12
「世界征服ってどういうことですかね?」
と須田が独り言のようにつぶやいた。
「世界を自分の思うように動かすってことだよ」と橘博士は答える。
「世界を自分の思うようにって言っても、何だかピンと来ないんですよね。だいたい仮面ライダーに出てくるショッカーとかって、人間たちを襲って何がしたいのかよくわかんないんですよ。世界征服って言っても、具体的にやつらは何をするつもりなんですか?」
僕も和美も須田の話を聞き流していた。だけど橘博士だけは真剣に須田の疑問に答えようとしている。
「須田君は世の中が自分の思い通りになったら良いなあって思わないのかい?」
「そりゃあ思いますよ」
「じゃあ、たとえば何でも自分の思い通りになるのなら、君は何をする?」
「そうだなあ、まずハーレムを作りますね。若い女の子たちが僕の周りに群がって、いつでも僕の思うままになるんですよ」
「じゃあ、それを実現するには何が必要だと思う?」
「金ですね。際限ないほどのお金があれば、ハーレムも夢じゃない」
「そうだ。金だ。世界征服にはまず資金が必要だってことだね。だからやつらはまず資金調達が思うままにできるシステムを作ろうとするだろう」
「よくわからないんですけど」
「搾取だよ。人に働かせて、それで得た利益をピンハネするんだよ」
「それじゃあ、暴力団みたいじゃないですか」
「同じようなものだよ」
「そっかあ、確かに」
「で、ハーレムができれば、君は満足か?」
「いや、結局のところ、女を金で買っても、心までは買えませんからね。空しいです」
「じゃあ、どうしたい?」
「だから、心は金で買えませんからどうしようもないですよ」
「もし人の心が自分の思い通りになるのなら?」
「え?」
「洗脳だよ。人の脳波を受送信できるということは、人の心の中に入ってゆくことができるということだ。金で手に入るものは搾取によってすべて手に入れ、金で買えない心は洗脳で手に入れる。搾取と洗脳、それが世界征服だよ」
「なるほど」と感心する須田。
「猿でもわかる世界征服講座だな」と僕はつぶやく。
「エロでもわかるでしょ?」と和美が言い直した。
第8話につづく。
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