妄想シティ 第18話
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翌日、僕はレベル3へと向かった。
以前働いていた職場は無断欠勤した前例があるから別の工場に勤務することにした。
まあ、工場なんてどこも代わり映えがしない。だいたいにおいて、半田付け、ネジ締め、組立て、などの作業に決まっている。
僕がレベル3に戻ってきた理由は、あの子に会うためだ。
妄想ルームで香織になってくれた名前も知らない女の子。僕の心は彼女に救われた。
だから僕はどうしても彼女にもう一度会いたかったのだ。
僕は数日働いてポイントを貯めると、妄想ルームへと向かった。
もう二度と借金はしないと僕は心に誓った。だから無理をしない。
自分をしっかりと持って、自我を見失わないようにしなければならない。
僕は妄想ルームのリクライニング・チェアーに座り、目をつぶる。
するといつものように香織が僕の目の前に現われた。
「香織、また会えたね」と僕が言うと、香織は「うん」と頷いた。
「僕は、本当の君に会いたいんだ」
「本当の私?」
「そう、僕の記憶の中にいる香織じゃなくて、本当の君、本当の君に会いたいんだ」
「どういう意味?」
「妄想じゃなくて、現実の君だよ」
僕の言葉に、香織は困った顔をした。
「それは、できないわ」
「どうして?」
「そういう規則なの」
「僕は君に感謝をしているんだ。僕は香織を忘れなければならない。そのために、現実の君に会わなければならない。記憶や妄想を捨てるために、現実の君に会いたいんだ」
「そんなことしても、何もならないわ」
「頼むから、僕と、ここ以外で会ってくれないか? 僕はもう、妄想ルームには来ないと決めたんだ」
しばらく沈黙が続いた。
香織は相当迷っているようだった。
それほどまでに規則は厳しいものなのか?
それとも別に何か理由があるのか?
僕が諦めかけたとき、香織は口を開いた。
「わかったわ。会ってあげる」
僕は香織の指定した時間に、教えられた場所に出向いた。
それは、レベル2にあるマンションの一室だった。IDカードのポイントにマイナスが無いので、レベル2へは問題なく行くことができた。
香織の部屋は高級マンションの最上階だった。
部屋のチャイムを鳴らすと、スーツを着たイケメン男性が僕を出迎え、部屋の中へと案内した。
案内された部屋で、彼女は待っていた。
僕は彼女の姿を見て、驚いた。
「君は、、」
僕が驚いた理由は二つある。一つは彼女がアイドル・グループ「リアル・エンジェルス」の岩下久美だったこと、そしてもう一つは彼女に両手両足が無かったことだ。
久美の体はキャスターのついたスタンド状の台の上に乗せられていた。
イケメン男性の使用人が久美の体をサポートしていた。
「どう? 満足した?」
久美は僕にそう言った。
「君は、岩下久美だったのか。それにどうしてこんな体になってしまったんだ?」
「私のことを知っているの?」
久美は驚いた表情をして僕に訊ねた。
「ああ、僕は「リアル・エンジェルス」のデビューイベントに行ったからね」
「そうだったの、、」
久美は自分がアイドルだったこと知っている僕に、少しだけ気持ちが緩んだように見えた。
そしておもむろに話し始めた。
「事故だったのよ。ライブツアーの移動中にバスが崖から転落して、、。なおこは全身に焼けどをおって、私は両手両足を切断、友子は死んだわ」
「妄想ルームでなおこに会ったけど、焼けどなんてしていなかった」と僕はつぶやく。
「それは妄想世界だからよ」と久美が言うと、目の前の久美の姿が急変した。
「私だって、妄想世界では五体満足よ」
目の前の久美は、両手両足のある、魅力的な女性になっていた。
「私は妄想世界でしか、生きられないの。現実の私は、使用人の世話になって生きている孤独な女。誰も私を愛さないし、私も誰も愛さない」
「そんなことない」
「そんなことあるのよ。嘘の世界にしか、幸せは存在しないの。でもね、それで幸せなのよ。幸せの種類は、人それぞれに違うと思うの。誰がどう思おうと、自分自身が幸せだと思えば、それで幸せなの」
僕は複雑な気持ちでアパートに帰った。
僕は彼女が僕の心を救ってくれるのでは無いかと期待していた。
だけど彼女は僕が想像していたような天使ではなく、とても重たい現実を背負って生きている存在だった。
僕の考えは甘すぎた。
それに他力本願だ。
こんなんじゃいけない。
だけど僕は人に頼らないと生きてゆけないのだ、
僕はベッドに寝転がり、ぼんやりと今後のことを考えた。これからどうすれば良い?
第19話につづく。
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