Data and Digital Insights Vol.5:人事労務におけるAI活用と個人情報の取扱いの留意点③(各事業者共通編)
人事労務とデータプラクティスをテーマに全3回の連載企画として「Data and Digital Insights Vol.3:人事労務におけるAI活用と個人情報の取扱いの留意点①(EU・AI法及びAI法から見る、人事労務におけるAI活用への評価及び留意点)」、「Data and Digital Insights Vol.4:人事労務におけるAI活用と個人情報の取扱いの留意点②(雇用仲介サービス編)」を取り上げてきました。
第3回となる本稿では、多くの企業で検討が不可避となる人事労務におけるAI活用と個人情報の取扱いについて、採用段階と雇用段階それぞれの代表的な活用事例を取り上げながら、実務上の留意点を解説します。
1. 人事労務におけるAI活用事例
「Data and Digital Insights Vol.3:人事労務におけるAI活用と個人情報の取扱いの留意点①(EU・AI法及びAI法から見る、人事労務におけるAI活用への評価及び留意点)」においては、採用の場面や雇用関係におけるAI活用例について、一部紹介しています。
AIの活用事例については、採用などを支援するAIシステムの活用が広がりつつあるとされています(*1)が、雇用関係におけるAI活用事例も踏まえると、代表的なものとして以下のものが想定されます。
【人事労務におけるAI活用事例】

2. 採用段階における個人情報の取扱い
採用段階にある求人企業は、個人情報の保護に関する法律(以下「個情法」といいます。)による各種規制に加えて、職業安定法(以下「職安法」といいます。)5条の5及び職業紹介事業者等に係る指針(*2)に基づく個人情報の取扱いの規制の適用を受けます。各規制の概要をまとめると次のとおりです。
*2 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(最終改正 令和六年厚生労働省告示第三百十八号)

*個情法との対比で考えると、同法では正確かつ最新の内容に保ち、不要なデータは消去する努力義務(同22条)とされている一方で、職業紹介事業者等に係る指針第5-2(1)イ(正確かつ最新の内容に保つための措置)及びニ(不要となった個人情報の破棄等を行うための措置)は個情法22条に係る努力義務に基づく措置を講じることを前提にその措置の内容に関する説明義務が課されており、同指針の規制は上乗せ規制との指摘があります(倉重公太朗・白石紘一 編『実務詳解 職業安定法』(弘文堂、2023)391頁)。
上記1.で前掲の表【人事労務における活動上のAI活用事例】で例示した採用ケース①・②において、各規制との関係で主要な留意点をまとめると次のとおりです。
<採用段階における個人情報の取扱いの留意点>

*厚生労働省『事業主啓発用パンフレット「公正な採用選考を目指して」』(令和7年度)6頁参照
(1)採用段階と雇用段階の大きな相違点
採用段階においては、新たに求職者の個人情報を取得して利用するという側面を有するためにAIサービスの導入時の留意点を意識して対応することで比較的柔軟に対応することが可能です。他方で、雇用段階においては、既に取得している従業員の個人情報をAIサービス導入のために利用するという側面を有するため、取得時に特定した利用目的の制限を受け、場合によっては再同意が必要になるという大きな相違点が存在します。
(2)採用段階のケース①と②への対応方針
ア 取得・利用に伴う個情法上の規制
利用目的を特定・通知等する義務は個情法及び職安法のいずれにおいても共通していますが、個情法においては以下のような特色があります。
令和3年9月、「いわゆる『プロファイリング』といった、本人に関する行動・関心等の情報を分析する処理を行う場合には、分析結果をどのような目的で利用するかのみならず、前提として、かかる分析処理を行うことを含めて、利用目的を特定する必要があります。」(*3)と個人情報保護委員会の見解が示された点が重要です。利用目的の特定に際しては個人情報を利用した結果を特定すれば足り、その手段の特定までは不要と考えていた方も多いかと推察しますが、かかる個人情報保護委員会の見解によって、自らの個人情報がどのように取り扱われることとなるかを利用目的から合理的に予測・想定できるようにすることが必要であることが明らかになりました。採用面接等におけるAIサービスの導入に伴う個人情報の利用目的について、例えば「提出いただいた応募書類、ヒアリングシート及び面接内容並びに面接時の動画に含まれる情報を分析して、採用の判断のために利用します」といった内容が考えられます。実務的には「採用の判断のために利用します」ということだけを特定している例が比較的多いですが、今後、AIサービスの導入に伴い、採用候補者にとっての予測可能性を確保するという観点からの対応が重要となります。
また、採用後の配転先や就業上の配慮の内容について検討するために、採用時点で、病名や症状といった個人情報を取得することを検討する場合があります。この場合、病名や症状は要配慮個人情報(個情法2条3項、同法施行令2条2号及び3号)に当たるため、原則本人の同意を得て取得することが必要となります(個情法20条2項)。また、後述のとおり、職安法上の規制の適用もあるため、更に留意が必要となります。
*3 個人情報保護委員会『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A』(令和7年7月1日更新版)(以下「ガイドラインQA」) Q2-1
イ 取得・利用に伴う職安法上の規制
職安法の観点からは、公正な選考を目指すため差別の原因となる情報等の取得には慎重になるべきというのが厚生労働省の考え方であり、AIサービスを利用する場合も同様です。厚生労働省は職業紹介事業者等に係る指針及び職業紹介事業の業務運営要領(*4)において、以下の差別の原因となる情報(以下「差別原因情報」といいます。)を原則収集してはならないとします(同指針第5-1(2))。
*4 厚生労働省職業安定局『職業紹介事業の業務運営要領』(令和7年4月)113頁

*厚生労働省職業安定局『職業紹介事業の業務運営要領』(令和7年4月)113頁
差別原因情報は「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」(同指針第5-1(2)但書イ)も含まれるところ、当該事項の範囲は職業紹介事業の業務運営要領でも明示されていません。この対象範囲について、要配慮個人情報の定義が「本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するもの」(個情法2条3項)とされていることを理由に、要配慮個人情報に含まれるものは「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれるとの見解があります(*5)。一方で、同指針第5-1(2)但書で明記されている情報が要配慮個人情報に列挙されているもののうち、人種、社会的身分及び信条だけをあえて明記していることを理由にそれ以外の要配慮個人情報は含まれないとの見解もあります(*6)。
差別原因情報については①「特別な職業上の必要性が存在することその他業務目的の達成に必要不可欠であって」、②「収集目的を示して本人から収集する場合」には収集も許容される旨の規定(同指針第5-1(2)柱書但書)があります。その上で、明確には同指針第5-1(2)柱書但書に「本人の同意」が要件として規定されていないものの、同指針第5-1(6)においては同指針第5-1(2)が「本人の同意」を要する条項として規定されていることもあり、同指針第5-1(2)においても、③本人同意の取得する場合の手続きが必要とされています(同指針第5-1(6))(*7)。
また、これに加えて、「公正な採用を目指して」において、応募者に広く門戸を開くことと本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすることが公正な採用であるとして、就職差別につながりかねない事項に関する情報(以下「就職配慮情報」といいます。)を次のとおり定めた上で、エントリーシートに記載させることや面接時に尋ねること等で就職差別につながらないよう配慮することを求めています(*8)。

*5 共編/木下潮音他『ケースでわかる 成功する募集・採用の最新ノウハウ-適正な対応と法律実務-』(新日本法規出版、2021年9月)64頁
*6 前掲『実務詳解 職業安定法』305頁
*7 厚生労働省の「令和4年職業安定法の改正について」という表題のウェブページで掲載されている「募集情報等提供事業者向け」のリーフレットでは「特別な職業上の必要性から、国籍や思想・信条等の個人情報を収集する場合」にも本人の同意が必要と明記されているため、求人企業も同様と解するのが自然でしょう。また、筆者が東京労働局需給調整二課に対し、職業紹介事業者に係る指針第5-1(2)柱書但書の適用にあたって「本人の同意」が必要であるか否かを照会したところ、同指針第5-1(6)において同指針第5-1(2)についても同指針第5-1(6)による必要がある旨規定していることもあり、「本人の同意」が必要であることを前提として解釈及び運用しているとのことでした。一方で、職業紹介事業者に係る指針第5-1(2)では「本人の同意」は明確に要件として規定されていないことから、①同指針第5-1(6)から「(2)」を削除するか、②(2)において本人から同意を得る場合には、という趣旨の追記が必要であるという見解もあります(前掲『実務詳解 職業安定法』387頁)。
*8 対象は差別原因情報と重複する事項やそれ以外の内容も含みますが、このような取扱いについて、個情法や職安法の根拠やそれらの規制との関係性が言及されていないとの指摘がなされています(前掲『実務詳解 職業安定法』322頁)。このような整理からすれば、要配慮個人情報や差別原因情報に該当しない限りは、その該当性を前提とした個情法や職安法に基づく取得規制を直ちに受けるわけではないように解されます。もっとも、就職差別につながるという誤解を避ける意味でもその目的を適切に伝えることは重要となると考えます。
人事の観点からは、取得しようとする情報の必要性を精査するとともに、AIサービスを利用することによって差別原因情報や就職配慮情報を取得しないようにあらかじめ設計しておくことが重要です。必要性の精査の結果として、例えば病名や症状について、採用後の配転先や就労後の配慮の要否を判断する等を理由に取得する必要があると判断して取得しようとする場合(*9)や、各業法上の欠格事由該当性を判断するために本人の資産状況等を取得しようとする場合もあり得ます。
まず、病名や症状が差別原因情報に当たるか否かについては、現在、上記のとおり「その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」の対象範囲が不明である以上、要配慮個人情報である病名や症状が差別原因情報に当たるとの見解に留意し、差別原因情報を取得する場合の規制にも対応することが適切と考えます。そのうえで、差別原因情報を取得するためには、上記のとおり、①「特別な職業上の必要性が存在することその他業務目的の達成に必要不可欠であって」、②「収集目的を示して本人から収集する場合」、③本人の同意が必要となります。病名や症状については、現実的には病名やその症状の具体的な内容に応じて会社における配転先、業務上の配慮の内容を決定する必要があることから、病名等の情報を確認することは①の要件を満たすと整理することが可能であり(*10)、あとは、要件②を満たすために採用後の配転先や業務上の配慮の内容を決定するために取得しているという目的を示し、要件③として本人の同意が必要となります。
次に、本人の資産状況等は差別原因情報に当たるため、その情報の取得に当たっては同様に要件①~③を満たす必要があります。警備業者が業法上の欠格事由該当性を判断するために、差別原因情報である本人の資産等の情報に該当する破産手続開始決定や復権の有無(警備業法3条1号)を確認することは①の要件を満たすと整理することが可能であり、あとは、要件②を満たすために欠格事由該当性を判断するために取得しているという目的を示し、要件③として本人の同意が必要となります。
*9 「公正な採用選考を目指して」の中の「採用選考時の健康診断」の章立てにおいて既往歴の質問を行うことが就職差別につながるおそれがあるという問題事例として紹介されており、就職配慮情報に該当するものと考えられることから、採用段階において取得することの必要性について慎重に検討することが求められます。もっとも、本文の記載のとおり、病名や症状について取得することは採用目的を達成するために必要不可欠と整理できるものであり、取得することは許容され得るものと考えます。
*10 同様の見解として、前掲『ケースでわかる 成功する募集・採用の最新ノウハウ 適正な対応と法律実務』(新日本法規出版、2021年9月)66頁があります。
ウ 個情法及び職安法を踏まえた対応方針
以上のとおり、個情法の観点からは利用目的の特定が重要となり、取得する情報が要配慮個人情報に当たる場合には本人の同意が必要となります。
職安法の観点からは差別原因情報や就職配慮個人情報の取得の要否や利用目的の通知等が重要となります。また、このような対応を経た上で本人から同意を取得する場合には、募集要綱、ヒアリングシート等の書類や電子フォームでその情報項目が具体的にどういった目的で利用されるのかを示した上で記入を求めるなど、個人情報を事業者に提供する本人による適切な判断を担保するための施策が重要であり、同意を取得する場面においては以下の案内を遵守する必要があります(職業紹介事業者等に係る指針第5-1(6))。
・同意を求める事項について、求職者等が適切な判断を行うことができる
よう、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること。
・業務の目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を収集し、保管し、又は
使用することに対する同意を、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供
又は労働者供給の条件としないこと。
・求職者等の自由な意思に基づき、本人により明確に表示された同意(*11)であること。
*11 厚生労働省「令和4年 改正職業安定法Q&A」の問3-6では、「例えばインターネットサイトにおいて、求職者等の同意を取得する方法として個人情報の利用規約を示した上で、それらの事項を示した上でインターネットサイト上のボタンのクリックを求める方法によって同意と扱うことは許容されます。一方で、単に利用規約を示した上でサービス利用開始したのみでは本人の同意の意思が明確に表示されたとまではいえず、許容されません。」と記されています。
エ AIサービス提供事業者と求人企業との関係(第三者提供規制)
最後に、求人企業とAIサービス提供事業者との関係性に関する個情法上の建付けを確認しておきます。求人企業が取得した個人データがAIサービス提供事業者によって編集・分析など処理される場合、個人データの第三者提供として本人同意を取得する(個情法27条1項)又は委託(個情法27条5項1号)するといった対応が考えられます。採用の場面において新たに個人情報を取得する場合、取得の際に掲示するプライバシポリシー等を通じて同意を取得するということもあり得ますし、取得後にAIサービスの活用を希望するに至った場合は委託構成を採用することもあり得ます。委託構成を採用する場合、求人企業による採用活動という目的を達成するために個人データが利用される必要があるため、AIサービス提供事業者による機械学習などのために利用されないことを確保することが重要となります。また、求人企業は委託先の監督責任を負うため、委託の目的を超えて委託先が個人データを取り扱わないよう監督することが必要です。
(3)採用ケース①と②の相違点
採用ケース②においては、採用候補者の個人情報に加えて在籍従業員の個人データを活用することになります。以上の点に加えて、次項で検討する「雇用ケースにおける個人情報の取扱い」についても併せて対応する必要があります。
3. 雇用ケースにおける個人情報の取扱い
雇用段階においては、過去に集積された個人情報を含む各種データを活用するという点がポイントであり、当該データの取得過程に問題がないか、当初の利用目的の範囲内で利用することが可能か、という点が主な問題となります。上記1.で例示した雇用ケース①~③(以下「各雇用ケース」といいます。)において共通する主な留意点をまとめると次のとおりです。

(1)取得規制
雇用ケース①のように従業員の性格に関する情報を取得する際には、従業員の会議における言動や振る舞い、社内コミュニケーションの多寡や内容、メールの記載内容等に関する行動観察(いわゆるモニタリング)が行われることがあります。このような従業者に対するモニタリングについて個人情報保護委員会が以下の留意点を示しています(*12)。
〇モニタリングの目的をあらかじめ特定した上で、社内規程等に定め、従業者に明示すること
〇モニタリングの実施に関する責任者及びその権限を定めること
〇あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること
〇モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと
*12 ガイドラインQA Q5-7
このうちモニタリングの目的については、例えば人事評価や配置転換等の雇用管理のために利用することを明記することが考えられるでしょう。そして、モニタリングの手法によっては過度な情報を取得することになりかねず、プライバシー侵害が生じる場合もあり得るところです。そのような事態を回避するためにも適切な範囲でモニタリングのルールを定め、そのルールを遵守し、その実施状況も定期点検するということが重要となります。
モニタリングが行われた場合にプライバシー侵害であるとして民法上の不法行為責任を問われる場合があり、過度な監視は違法と判断されたものもあります。具体的には外回りの多い従業員について、その勤務状況を把握し、緊急連絡や事故時の対応のために当該従業員の居場所を確認することを目的に、GPS衛星の電波を受信することによって携帯電話等から、位置を常時確認することができるナビシステムを利用した業務上の行動観察を行ったこと(早朝、深夜、休日、退職後の労務提供義務がない時間帯に及んでいる)について、その目的自体は相応の合理性があるとしつつも、本件の場合には早朝等に行動観察を行う必要性がなく、違法であるとして不法行為責任が認められているものがあります(*13)。このようにモニタリングの目的は合理的であるとしても、対象時間等にも配慮する必要がありますので、モニタリングのルール設定にはその点も考慮しなければなりません。そして、このようなモニタリングに係る社内規程を整備する場合には、上記の個人情報保護委員会による留意点においては、「モニタリングに関して、個人情報の取扱いに係る重要事項等を定めるときは、あらかじめ労働組合等に通知し必要に応じて協議を行うことが望ましく、また、その重要事項等を定めたときは、従業者に周知することが望ましい」との見解も示されていることから、この見解も踏まえて従業員に対する説明会等の実施を検討するべきでしょう。
*13 東京地判平成24年5月31日労判1056号19頁
(2)利用規制
取得の際に特定した個人情報の利用目的を変更する場合、変更後の利用目的が変更前の利用目的からみて、社会通念上、本人が通常予期し得る限度と客観的に認められる範囲内である必要があります(*14)。
<想定される利用目的の変更例>

この表にあるように、①360度評価を実施した際に特定していた利用目的が人事評価や配置転換であった場合に、新規採用の計画等に利用することを新たな目的として追加することが許されるかといった点を検討する必要があります。上記表①にある「配置転換」のためには配置先の人員数、業務、各従業員の年次、職能成熟度、業務理解度、人事評価等の多要素を多角的に分析する必要があります。例えば、A氏の配置を検討する際に、配置検討先の管理職であるB氏やC氏の人材育成能力やリーダーシップ能力・指導力に関するスコアや同僚となるD氏やE氏のコミュニケーション能力のスコアも参考にし、その配置検討先においてA氏が年次や業務理解度と適合する指導を受けて、業務を遂行できる環境にあるのかどうかの参考にして、配置転換を実施するということもあろうかと思います。このような場合では、A~E氏それぞれの情報のみを用いて各人の配置を決めるのではなく、複数人の情報を多角的に分析して各人それぞれの配置を決めることは予測の範囲内であるといえるかもしれません。そして、このような検討が必要な点は新規採用の計画時においても同様であるため、変更後の利用目的が変更前の利用目的からみて、社会通念上、本人が通常予期し得る限度と客観的に認められる範囲内であるといえ、利用目的の変更は認められる可能性もありそうです。
他方で、上記表の②にあるように、防犯、安全管理をモニタリングの目的として特定している場合に、人物評価や配置転換といった利用目的を追加することは認められないでしょう。防犯や安全管理を目的とするとして取得された情報が自身の評価、雇用管理に利用されることを従業員が想定することはできず、社会通念上、変更後の利用目的は本人が通常予期し得る限度と客観的に認められる範囲内といえないためです。
利用目的の変更が難しい場合には従業員から同意を得ることが必要となります。同意を得るための例としては、人事部による説明会を通じて同意書を取得することや、各部署の管理職が部下から同意書を取得することが挙げられますが全従業員から同意を取得することが困難であり現実的でないケースも少なくありません。
このような困難性を意識して、一定期間内に回答がない場合には同意したものとみなす旨の電子メールを送信しその経過をもって同意を得たことにしようとする例がありますが、個人情報保護委員会の見解では是とされていません(*15)。このような方法が許容されないことを前提に、どのようにすれば同意を取得することができるのかという点を模索することが実務上よくありますが、必ずしも明確な基準があるわけではなく不確実性を払拭しきれないことが多くなります。そこで、本人から同意を取得することの困難性に鑑み、就業規則の不利益変更(労働契約法10条)を用いるという方針もあり得ます。この場合、不利益変更として許容される範囲内において就業規則変更の手続を履践することで、変更後の目的に基づく利用を正当化することになります(*16)。
他方で、個情法における本人の同意については、本人の権利利益の保護を目的とする個人の自律的判断を前提とするものであり、集団的処理による利用目的の変更を許容せず、就業規則の不利益変更という方針の採用は難しいという見解も存在します(*17)。
この点は答えのない悩ましい点になりますが、本人の予見可能性や生じる不利益の程度を徹底的に検証した上で、新たな利用によって得られる利益との比較衡量を実施する等、利用目的の変更の適正を慎重に評価し、場合によっては就業規則変更の手続きを通じて利用目的の変更を実現することもあり得る方針であろうと考えます。
*14 ガイドラインQA Q2-8及びQ2-9において利用目的の変更が認められる例及び認められない例が紹介されています。
*15 ガイドラインQA Q1-60「本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければなりません。したがって、一定期間回答がなかったことのみをもって、一律に本人の同意を得たものとすることはできません。」
*16 就業規則を通じた利用目的の変更を肯定する見解として、板倉陽一郎「HRテクノロジーで人事が変わる」(労務行政研究所編、2018年)157-159頁があります。
*17 個別同意が必要であり、就業規則によって代替できないとする見解として、城塚健之「AI時代における労働法実務の課題」『季刊労働法』(2021年)275号86頁があります。
4. 人事労務におけるAI活用の留意点
日本法に関する検討は以上となりますが、人事労務上のAI活用については世界中で議論されています。The EU Artificial Intelligence Act(以下「EU・AI法」といいます。)でも、人事労務においてAIを活用する際にはプロファイリングを通じて差別が助長される可能性もあるとされており、EU・AI法の存在を多かれ少なかれ意識している日本においても以下のリスクが指摘されています(*18)。

今後、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律13条に基づき整備される指針において、「AI開発者が、学習データから偏見情報を除外することや、AIが差別を助長する出力をしないかどうか、市場に出す前及び出した後にも確認し、必要な修正を行うことなどを明記する方向」で検討中とのことであり、各企業が人事労務においてAIを活用する際の参考になる指針が出されることが期待されます。
*18 PwCコンサルティング合同会社「令和6年度厚生労働省労働局委託調査 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書」54頁
5. まとめ
日本では人事労務におけるAI活用は依然として限定的な範囲に留まっています。今後、AI法に基づく指針が公表され、活用が進む過程で新たな論点や対応策について議論が集積されることが予想されますので、引き続き、人事とデータプラクティスに係る内容を発信してまいります。
Authors
弁護士 清水 裕大(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2014年明治大学法学部卒業、2016年早稲田大学法科大学院修了、2017年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、2020年社会保険労務士登録(東京都社会保険労務士会所属)。高井・岡芹法律事務所(~2021年4月)を経て、2021年5月から現職。2022年3月から2024年6月までデジタル庁に出向し、2023年にはデジタル規制改革推進の一括法、2024年にはベース・レジストリの整備や利用促進を実施するデジタル手続法等の改正に関し、制度設計から施行準備まで従事。現在は、弁護士として、データの取扱いや人事労務に係るプラクティスに広く関与している。
弁護士 滝本 真希(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2022年弁護士登録。大江橋法律事務所、東証プライム市場上場企業の企業内弁護士を経て、2025年10月から現職。
M&A、人事労務、IT・個人情報に関する案件を中心に幅広く企業法務全般を取り扱う。直近では労働分野における個人情報の取扱いや有料職業紹介事業に関する案件にも注力している。
弁護士 中山 貴博(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録以降、2025年3月まで大江橋法律事務所所属。カリフォルニア留学、ドイツ法律事務所勤務、大江橋法律事務所パートナーを経て2025年4月より現職。
個人データ、AI、ITといった分野に加えデジタルマーケティングやサイバーセキュリティ、データセンターの運営等に関して専門性を有しつつ、M&A・紛争案件を幅広く取り扱う。近時の主な対応案件として、2025大阪・関西万博における大阪ヘルスケアパビリオンやドイツパビリオン等の複数パビリオンの顧問弁護士、NTT西日本株式会社に設置された顧客情報不正持出しに関する調査委員会の主任補助者等がある。
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