半分過ぎて|風まかせ文芸部
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風まかせ文芸部・第59回お題企画
お題:”半分、過ぎて”
締切:6月29日(月)23:59
私が手続きを半分終えたところで窓口が閉まりそうになった。
「え?」
思わず声が出た。
いや、正確には声ではない。
そもそも私は幽霊なので声帯がない。
だが、驚いたことは確かだ。
窓口の向こうにいた職員は申し訳なさそうな顔をしている。
「本日の受付は終了しました」
「いやいやいや、あとちょっとですよね?」
「お気持ちは分かります」
「分かるなら通してくださいよ」
「規則ですので」
職員は慣れた口調で言った。
見れば窓口の上には札が下がっている。
『成仏手続課 受付時間 午前九時~午後五時』
死後の世界にまで営業時間があるとは思わなかった。
「私は三日前に死んだんですよ?」
「はい」
「三日も待たされたんですよ?」
「込み合っておりご面倒をお掛けしておりますが、三日でしたら通常の状態です。お盆前などは一週間や十日程度はお待ちいただくことになりますから」
「これで通常?」
「その通りです」
職員は即答した。
なるほど、と納得しかけて、いや納得してはいけない。
「で、今日はどこまで進んだんです?」
「未練確認書の提出が終わり、後悔精算票の記入が完了しております」
「それで半分?」
「半分です」
「多くないですか?」
「人生は複雑ですので」
そう言って職員は分厚いファイルを取り出した。
そこには付箋がびっしり貼られている。
「あなたの場合、『あの時言えなかった一言』が百三十七件、『買おうと思って買わなかった物』が五百二件、『別にどうでもいいけど、たまに思い出して悔しい思いをする出来事』が二百九十三件ございます」
「そんなに?」
「これでも平均より少なめです」
周囲からどよめきが起こった。
待合室を見れば、無数の幽霊が順番待ちをしている。
番号札を握ったまま百年くらい経っていそうな者もいる。
「ちなみに今何番ですか?」
「あなたは317番ですね?」
「今呼ばれてるのは?」
「52番です」
「絶望しかないじゃないですか」
職員は気まずそうに咳払いした。
「手続き途中ですが現世への一時帰宅は可能です」
「えっ?」
「ただいまキャンペーン中でして、手続きは必要ですが、盆、彼岸、夢枕などの制度をご利用いただけます」
「それって……」
「いわゆる幽霊活動の一環ですね」
役所だった。どう考えても役所だった。
死後の世界はもっとこう、光とか、雲とか、花びらが舞ってたりとか、雅やかな音楽とか、薄布を纏っただけのお姉ちゃんとか………皆がそういうものを想像していたんじゃないのか?
まさか整理券を握って順番を待つことになるとは………。
ふと壁を見た。そこには大きな張り紙があった。
『成仏手続の電子化について』
「オンライン化するんですか?」
「百五十年前から検討中です」
「まだ??」
「システム担当が成仏してしまいまして」
「いやいや、死後の世界でしょうが!」
職員は静かに首を振った。
「だから困っているのです」
午後五時を告げる鐘が鳴った。
窓口が閉まり、照明が落ちた。
幽霊たちは一斉にため息をついた。
明日はどこまで進むことができるんだろう。
夢枕に立って愚痴でもこぼしてこようか?
これも手続きが煩雑なんだろうなぁ。
成仏できない理由って、案外こういうことなのかもしれない。
APRIL WINE / Roller
