風まかせ文芸部|鬼
とある村では鬼籍に入った人が蘇る日があるという噂を聞いた。
眉唾物の噂かもしれないが、蘇った人と酒を酌み交わしたとか、床を同じくしたとか、噂の中身には興味を惹かれるものが多かった。
だから半信半疑ながら少し調べてみると、蘇りには条件があり、毎月晦日に村の奥にある神社を参詣し、一年以上継続している者のみに権利が与えられ、さらに鬼籍に入られた方の喉仏の骨が現存することが必須となるそうだ。
また、甦った者をほかの者に紹介してはいけないとか、陽の光に当ててはいけないなどの細かな注意事項もあるそうだ。
それでは蘇りの証拠とならないと思うのだが、噂が絶えないことを思うと本当の出来事なのかもしれないと思わせられる。
噂が広がるに従い、山奥の寒村に訪れる人も増えてきて、いつの間にやら高級ホテルや旅館が立ち並ぶ一大観光地となったようだが、それでも訪れる人が減らないのは不思議な現象と言わざるを得ない。
表向きは「再会の村」と銘打たれ、亡き人にもう一度会えるという触れ込みが功を奏したのか、富裕層や著名人までもが足を運ぶ。
だが村人は多くを語らない。
神社の名も、祀られている神の名も、由緒なども曖昧なまま、ただ「晦日の参詣を怠るな」とだけ告げる。
私もまた、条件を満たすため一年通った。
山奥の石段は苔むし、拝殿の奥には重い扉がある。
晦日の夜だけ、その扉がわずかに開く。
扉が開くと、一年を経過して参詣を続けた者だけが、順に奥へ通されるのだ。
私が蘇らせたかったのは三年前に亡くなった妻だった。
喉仏の骨は、火葬の折に僧から特別に分けてもらい、桐箱に納めていた。
約束の夜、神職は骨を受け取り、奥の闇へ消えた。
しばらくして白装束の影が現れる。
俯き加減に立つその姿は確かに妻に似ていた。
「あなた」
かすれた声に胸が締めつけられる。
私は名を呼び、手を取った。
氷のように冷たいが、確かな重みがあった。
神職は念を押す。
「陽に当てるな。他言するな。来月も必ず参れ。途絶えれば、縁は切れる」
私は頷き、夜を妻と過ごした。
妻はあまり食事を摂らず、水ばかり欲しがった。
時折、喉を鳴らすような音を立てる。
そして、異変は三か月目に起きた。
ホテルや旅館には晦日を目指して訪れる客が多く、顔なじみにもなる。
その中で隣室の客が突然姿を消したのだ。
宿の者は「急用で帰った」と言うが荷物は残ったまま。
夜更け、廊下の奥から複数の足音と、低い呻きが聞こえた。
晦日。
拝殿の奥へ再び通された私は、扉の隙間から見てはいけないものを見てしまった。
そこには、無数の人影が蠢いていた。
白装束、黒装束、観光客の服装のままの者もいる。
どれも虚ろな目で、喉元を不自然に動かしている。
その中心に、山のように積まれた骨。
喉仏だけを抜き取られた骸が、幾重にも重なっていた。
神職が囁く。
「縁は循環するのです。蘇りを望む者が増えれば、糧もまた必要となる」
振り向いた妻の顔は、もはや妻ではなかった。
口元から血が滴り、歯が覗いている。
私は意味の通らぬ言葉を喚きながら逃げ出した。
村のあちこちには晦日の参詣を待つ人たちで溢れている。
あの人たちもきっと…………。
村そのものが、ゾンビの巣窟と化しているとも知らずに。
お題:「鬼」がテーマ
iさん お世話になります
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鬼の宴 / 友成空
