要件通りに作ったのに「思っていたのと違う」と言われる理由—— SIerが見落とす「翻訳」の工程
顧客から「こういうシステムが欲しい」と言われる。
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ヒアリングして、要件を整理して、提案書を作って、見積もりを出す。
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受注できれば、設計して、作って、納める。
まっとうな仕事の流れに見えます。実際、プロジェクトは回っている。
でも、納品した後にこんな声を聞いたことはないでしょうか。
「思っていたのと違う」
「使いにくい」
「結局、前のやり方に戻った」
要件通りに作ったはずなのに、顧客が満足していない。
その理由を、
「要件定義が甘かった」
「顧客側の意思決定が曖昧だった」
と説明していないでしょうか。
「設計図通りに建てました」で終わっていないか
建築に例えると、この構造が見えやすくなります。
施主が「広いリビングが欲しい」と言ったとします。
その言葉をそのまま設計図に落とせば、確かに広いリビングはできる。
でも、施主が本当に望んでいたのは
「家族が自然と集まる場所」だったかもしれません。
広さだけでは、人は集まらない。
動線、光の入り方、キッチンとの距離感。
施主自身も言葉にできていない
「暮らしの想い」を汲み取って、初めて住む人に合った空間が生まれます。
SIerの現場でも同じことが起きています。
顧客の
「こういう機能が欲しい」という言葉は、
施主の「広いリビングが欲しい」と同じです。
その裏にある
なぜそれが必要なのか
その機能で本当は何を実現したいのか
という Why を、誰が翻訳しているでしょうか。
要件をそのまま設計に落とすのは、施工者の仕事。
顧客のWhyを引き出し、仕組みに変換するのは 第1回で述べた「設計者」の仕事です。
その設計者の役割が
多くのプロジェクトで誰にも担われていません。
「提案力がある」と「翻訳力がある」は違う
SIerの強みは、技術力と提案力だと言われます。
最新のソリューションを知っている
事例も豊富にある
だから、顧客の課題を聞けばすぐに
「こういう技術で解決できます」と提案できる。
でも、その提案は本当に
顧客の「想い」から出発しているでしょうか。
顧客が「DXを推進したい」と言ったとき、
どんな組織になりたいのか
どんな価値を届けたいのか
こうした問いを引き出す前に、
ソリューションの話を始めていないでしょうか。
ある修了生はこう語っていました。
「すぐにソリューションを探すのではなく、
なぜ起こっているのかを深く見つめる思考習慣がついた」
この言葉は、技術に強い人ほど陥りやすい落とし穴を突いています。
提案力は「What」と「How」の力です。
翻訳力は「Why」を引き出して構造に変える力です。
後者がなければ、どれだけ優れた提案も、顧客の想いとズレます。
しかも、この「翻訳」の工程が抜けるのは、個人の能力不足ではありません。SIerのビジネスモデルは工数と単価で成り立っています。見積もりの中に「顧客のWhyを引き出す時間」は入らない。翻訳の工程は、ビジネスの構造そのものが排除してしまっているのです。
あなたの提案に、この問いは答えられますか?
いま手がけているプロジェクトに、こう問いかけてみてください。
「この提案は、顧客のどんな想いを実現するためにありますか?」
「こういう機能を作ります」ではなく、
「あなたの組織がこう変わるために、この仕組みが必要です」
と言えるでしょうか。
もし答えに詰まるなら、足りないのは技術でも事例でもなく、
顧客の想いを仕組みに翻訳する力かもしれません。
この連載では、DXの推進に関わるすべての人が直面する「構造的な盲点」を、隔週で掘り下げています。
次回もお読みいただけたら嬉しいです。
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