文字を持たなかった昭和 七十七(田植え、その二)
昭和の田植えの続きである(これも主にわたしの記憶を頼りに書くので、思い出話めく)。
そうやって横一列になって田んぼに苗を植えていく。前に進むときはすでに植えた苗を倒さないよう気をつけながら。
と書くのは簡単だが、ぬかるむ田んぼに入った経験がある方はご存知のとおり、柔らかめの粘土の上に水を張ってあるようなもので、足を取られそうになる。土の力に抵抗しつつ少しずつ前進するのだ。しかも、横で植えている人たちとペースを合わせながら。感触もけして気持ちいいとは言えない。汚れる、動きにくい、ヒルがいる!
(いまどきの田んぼにもヒルはいるのだろうか? 念のため補足すると、ヒルはミミズと同じ環形動物だが動物の血を吸って栄養にする。)
腰の痛みにも泣かされる。田植えでは前かがみの姿勢を保ちつつ左右を植えては前進して行く。ちょっと植えては腰を伸ばし、とやっていたらスピードが上がらない。
だが、少しずつでも前進していけば、やがてゴールに到達する。つまり一枚の田んぼを植え終わるのだ。植えた苗を倒さないように畦に出て、ずっと曲げていた腰を伸ばしながら田んぼを眺めるときの達成感はやはり一入だった。水を湛えた田んぼは、まだ細い苗が整然と並んで水面を薄っすらと緑に染め、田植え前の表情から一変する。
それもこれも一人ではできないこと。みんなで協力することの偉大さとありがたさを、子供心にも感じたものだった。
