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灯火 1章 声に包まれて 

彼女は、僕が戯れに発行していたメールマガジンの読者だった。
気まぐれに彼女が返信してくれた事で
僕と彼女との他愛もない付き合いが始まった。
たまの週末に食事をしながら世間話をする、そんな関係だった。

彼女はどこか育ちの良さを感じさせる佇まいだし、着ている服も浮ついたところが無い。
正直、お硬い印象をもったけれど
僕の下らない話にも屈託なく笑う姿に好感がもてた。

彼女との会話は楽しかった。
いつしか週末は彼女に会いに出かける頻度が増えていく。
僕が望んだからだ。

年の瀬をむかえ、イルミネーションでキラキラと飾られている街並み。
街の喧騒から逃げる様に裏道に歩みをかえるとポケットの携帯電話が鳴った。
彼女からだ。
考えてみると彼女との通話は初めてだった。

『ごめんなさい』
電話から聞こえる彼女はそう呟いた。
何かがあった そんな事を思わせる声だった。
彼女は何かを言い出せないのか
もう一度小さくごめんなさいと呟いた。

『ゆっくりでいいよ』
歩みを止めてそう言った。

彼女はポツリと話し始めた。
彼氏に携帯電話を見られたと。

もうこの電話を最後に連絡をとるなと約束させられたのだと。
いつしか目を閉じ彼女の声に聴き入る。

『ごめんなさい さようなら…』

彼女はちいさな声でそういい電話をきれないでいる。

ふたりの関係の終息を伝える言葉に
揺らいでしまう僕の心を包みこむような優しい彼女の声。
僕に対する想いのようなものが伝わってくる。
僕はこの会話が最後になるというのに
その声に心が少しだけ満たされる。

『今までありがとう』
そう言い僕から電話をきった。
優しい彼女は自分から電話をきれないのをわかっていたからだ。

路地裏の角に青いイルミネーションがチカチカと光っている。
それを避けるように僕は目を閉じ
『ゴメンナサイ サヨウナラ』
彼女の声を追うようにそう呟いた。


彼女との別れから10日程も経っただろうか。
慌ただしい年末も過ぎさり
暖かい陽射しをうけ呆けている時、電話が鳴った。
『!?』
彼女からだった。

『来ちゃった』
彼女の住む街からは90キロ程も離れてるこの街の駅に降り立ったと言うのだ。

急いで車を走らせ駅に向うと
にこにこ笑って手を降っている彼女がいた。

最期が電話だったのが自分の中で納得出来ない、そんな事を彼女は言ったが
『それってどうなの?』
そう僕が言うとふたりで笑った。

今日を最期にふたりは逢わない。
言葉には出さないけれどそういう事なのだ。

『初詣に行こうか』
そう言うと彼女は嬉しそうに頷いた。
限られた時間。
それでもふたりはいつもと変わらない。

やがて落ちていく夕陽は劇場の暗幕の様に影を落としていく。
切なさに呑み込まれるように、少しづつかける言葉を失っていくふたり。

言葉を失った唇が探すようにふたりを引き寄せ、こわばっていた心をゆっくりと溶かしていく

彼が頬に添えた親指をそっと滑らすと、
お互いを受け入れるように重ねた唇は開いていく。

やがて彼の唇は彷徨うようにゆっくり降りていく
右手と左手は交差するように闇を探り
ふたりは確かな繋がりを求め合う

もつれあう糸のようにもっと深くへと

彼女の解き放たれた甘い声は
赤いベルベットのように優しく僕を包みこんでくれる。
これからのふたりの行く先は、決して穏やかなものにはならないのだろう。
それでもふたりは繋がりを求めあう

今だけを見つめて











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