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ナイトバードに連理を Day 4 - A - 6

【前 Day 4 - A - 5】

(1528字)

「門石を見てもいいかね、冶具」

 気まずい沈黙の接近を察知したように甘が口を開いた。冶具は早矢に対するより気軽に頷いた。

「もちろんです。特に面白いことはありませんが」
「我々素人からすればそうでもないさ。水取引の調子は?」
「この図体で水1サイにつき2900ソエンの距離を稼いでいますから、さすがにモッカ製です。神経の損耗も見られませんし、この悪辣なレートで安定するというのはなかなか」

 早矢は甘の手招きに促されるまま灰色の箱の前に立った。荷台で耳を付けた時に聞いた音は、なぜかこの距離に立っても聞こえなかった。

「これが、門石……」
「いいえ、夜目様。これはただの外装、鉄板です。門石そのものはこの中の断熱材の、さらに中にあります。開ける分には少々時間をいただければ可能ですが、出して見せるとなると我々には直せませんので、ご容赦を」
「外装、ですか」
「はい。供出する水の量を調節するためと、事故を防ぐためのものです」

 倍以上年上である冶具の丁重な口調に、早矢はどうしようもなくたじろいだ。

「……すみません、夜目なのに何も知らなくて」
「とんでもない。夜目様の記憶については頼から聞いていますし、それでも我々は感謝しているのです。貴方が居なければ、我々西方商会はこの地に戻ることもできなかったのですから」
「僕たちは君の従者兼、道案内兼、労働力。君は資金集めの看板で、先に雇われて門石を採掘している狢のための気慰みだけどね。手段を選べる立場じゃないさ」

 頼の口調は過剰に明るかった。早矢はその助け舟にありがたく飛び乗った。

「気慰みってなんだよ」
「心の拠り所が必要なのさ。今モッカにいる狢には、ね」

 早矢は首を傾げた。咄嗟には気付かなかったが、頼の話には他にも引っ掛かる部分があった。

「……待て、つまり門石はもう見つかってるのか?」

 清心の予想では、茶賣が早矢を雇った理由は門石を捜索させるためだった。それを実現して夜目としての価値を認めさせることが、早矢が胎金界を生きるための計画だった。だが茶賣がすでに望みを叶えているとすれば、預言と称して清心のノートを掘り返す必要はなくなる。

 早矢の楽観を見抜いたように頼は表情を硬くした。

「確かに門石を採りたいだけなら、現地を知っている狢を雇えば済む話だよね。現に茶賣はもう鉱山に辿り着いているわけで、いまさら夜目の力は必要ない。気慰みにしてもやりすぎだ」
「頼、口が過ぎるぞ」

 冶具は諌言を口にしたが、早矢が真面目な顔でいると見て押し黙った。頼は話し続けた。

「だから茶賣が本当に、夜目に存在すること以上の効果を期待しているとしたら、その狙いはただの門石じゃない。君が探すことになるものは、このボートみたいなモッカ製コーデックだと思う」

 早矢は間を置いてから頷いた。驚きはしなかった。頼の話の途中ですでに同じ結論が見えていた。

「こんな兵器、持ち出そうとしたらさっきみたいな検問で止められるんじゃないのか?」
「逆だね。門石でもコーデックでも、買うのはカナンみたいな周辺国だから。モッカにコーデックが残っていることは彼らも分かっているけれど、大々的に侵攻するには他国との折衝に時間がかかる。だからそれぞれの国が静観という体で茶賣みたいな連中に回収させて、お互いに見て見ぬふりをしている。そういう仕組みの中に飛び込んだのさ、僕たちは」

 頼は微塵の明るさもない、疲れ切ったような笑みを浮かべた。

「モッカを支えた石工たちは伝統的に首都の近くに住んでいたから、みんな一夜で吹き飛んでしまった。生き残った狢にその技は遺されていない。こんな怪物みたいなボートはもう二度と生まれない。だから門石はともかく、コーデックは貴重だ。夜目の力を使ってでも探す価値があるってわけさ」 【Day 4 - A - 7に続く】



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