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ナイトバードに連理を Day 4 - A - 7

【前 Day 4 - A - 6】

(1790字)

「……そんな気はしてたが、つまり俺は犯罪に加担しているのか」
「犯罪。猩々みたいな考え方だね」

 頼は声に滲む冷笑を隠そうともせず、早矢の目をじっと見つめた。

「モッカ狢の法は鵺の教えだけだ。僕らを助けなかったカナンの法がどうだろうと、自分の国に戻って、自分たちの遺産を回収することを止められる筋合いはないよね」

 そう迷いなく言い切る頼の視線には、早矢が異質な存在であることを非難するような雰囲気があった。早矢は言葉を失い目を泳がせた。

「……とはいえ、今回のことについては生き残った狢の間で解釈が割れていることも確かです。モッカを襲った災厄は門石を利用し続けた狢への天罰であり、国に戻ることなど言語道断だ、と考える狢もいます」

 冶具は思わず漏れ出したような低い声で言った。早矢は驚いたが、頼は肩を竦めて言葉を継いだ。

「むしろそっちが圧倒的に多数派だね。だからそういう意味では、僕や冶具さん、この先で待つ狢たちは、狢族全体の判断に逆らう罪人に違いない。どうだろう、鵺は僕たちを責めると思うかい?」

 頼の問いかけは突然だった。その真剣な表情に、早矢は気慰みが必要だという言葉と自分を生かそうと思考を振り絞る少女の顔を思い出し、声を詰まらせた。口だけで同調することはできる。夜目として振る舞うにはそうするべきでもある。だが本心から預言を求める相手に虚構を突きつけることは簡単ではなかった。早矢の追い詰められた無表情を見て、頼は数秒間の沈黙をふっと笑ってかき消した。

「もちろん、答えは聞くまでもない。君が助かった結果として僕らがここにいるんだから。ね、冶具さん」
「……モッカに入った今も天罰など起こってはいない。その事実が何よりの証拠です」

 二人は励ますように言った。その本音は早矢にも分かった気がした。

 天井を外から叩く音が車内に響き、そう思った時にはボートは静かに動き出していた。早矢が咄嗟に手をついた箱に変化はなかった。

「……上の話は済んだようですね」

 冶具が見透かすように天井を見上げながら言った。

「では、私たちは行くよ。仕事の邪魔をしたね、冶具」
「夜目殿と話しただけでも子孫に一生自慢できます。それに仕事といっても、ただ見ているだけですから」

 あくまでも好意的な姿勢を崩さない冶具の顔を、早矢は直視することができなかった。早くその場から立ち去りたいと思い、無意識に一歩下がりさえしたが、しかし状況がそれを許さなかった。頼と甘は、当然のようにさらに車両の後部へと一歩進んでいた。

「アマフリ殿にもご挨拶ですか?」

 早矢より早く冶具が二人の意図を訊ねた。

「折角だからね。とはいえ御機嫌はどうかな」
「さて、あちらは私には何とも。眠っておられるようにも見えますが」
「それはどうだろう。いや、そうだとしてもあまり変わりはないだろうが、まあ、行ってみるよ」
「はい。何かあればいつでも」

 冶具の最後の言葉は明らかに早矢に向けられていた。早矢は頭を下げつつその隣を抜け、甘と頼に続いた。もとより大した距離もない車内にあって、背後に感じる冶具の視線を振り切ることはできなかったが、それでも早矢は追いついた頼に小声で話しかけずにはいられなかった。

「悪い、助かった」

 頼は正面を向いたまま、しかしはっきりと頷いた。

「預言はどうやって与えられる? 鵺の声はどう聞こえる? 外見は?」

 頼もまた声を落として言った。甘は明らかに聞こえる距離にいたが、職業的習慣によるものか、ちらりとも振り向かなかった。

「キミがこれから聞かれそうなことだ。今言った通り、この先に待つ狢はみんな、信仰が歪みかかっている。僕や冶具さんみたいに物分かりが良い狢ばかりじゃない。質問を想定して、それなりの答えを用意しておくべきだ」

 その詰問こそ明らかに自覚を促すものだった。早矢は歯を食いしばった。

 準備も緊張も、覚悟も足りなかった。夜目という立場は無知であることは許されても、無用であることは許されない。狢の信頼を失い、全くの役立たずだと判断されれば、今度こそ茶賣は犬吠早矢を捨てるだろう。生きることを許されるために、自身の価値を証明しなければならない立場。早矢はようやくその意味を理解した。

「……分かった。何とかする」

 そう言い終えた瞬間、早矢の視界に現れたさらなる異物がその覚悟を打ち砕いた。それは、膝を抱えて車内最後部に身体を押し込んだ、目鼻のない巨人の彫像だった。 【Day 4 - A - 8に続く】



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