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ナイトバードに連理を Day 5 - B - 2

【前 Day 5 - B - 1】

(1629字)

 近衛は早矢の手をすぐに振りほどき、また勢いよくソファに座った。乱暴な振る舞いだが、ともかく話は早く進むかと早矢は努めて前向きに捉えることにした。近衛の掌の小ささと冷たさ、微かな湿り気がそう思わせたと自覚できるほど、早矢は冷静ではなかった。三人はそれぞれの緊張を抱えたまま――清心と近衛が隣に並び、斜め向かいに早矢が――腰を下ろした。

「カラオケってのは、いい考えだな」

 早矢が何気なく言うと、近衛は見透かしたように鼻で嗤った。

「何のお世辞? 図書館の方が断然いいでしょ」
「いや、あっちは遠いだろ」
「けどここより安い。それともJK二人はべらせて、カラオケに入り浸りたかった?」
「分かった。俺の負けだ」
「賢明な判断ね。次からはあっちにしましょう。何か飲む?」
「俺、コーラ」
「清心は?」

 早矢と近衛は全く同時に清心を見た。早くも打ち解けたように話す二人の姿に清心は困惑していた。

「ええと、ジンジャエールを」
「おっ、私とおそろいー……。よし」

 近衛はタッチパネルを置き、顔を上げた。

「で、そもそも私、自分がどこにいるのかよく分かってないんだけど」

 唐突な導入だった。早矢は清心と目を合わせ、すぐ近衛に視線を戻した。

「あー、ああ、知ってる。場所はこっちで目星がついてるから大丈夫だと思うが……茶賣には会ってるんだよな?」
「茶賣って人と、甘とかいう人には会った。ってか他は誰にも会ってない」
「じゃあ、夜目として扱われてはいるのか」
「うん、その辺は清心にも聞いた。なんか人身売買の果てに酷い目に遭いかけてたらしいよ、私。あんたは?」
「俺は死にかけてた」
「シンプルー」
「軽く言うな」

 薄ら笑いを浮かべる近衛につられ、早矢は肩を竦めた。

「で、あんたが助けてくれるかもって清心が言うから来たんだけど、違うの?」
「違わない。もしそっちが出たくなくても、こっちに助けなきゃいけない理由ができた」
「なにそれ?」
「待って!」

 清心が叫ぶような声量で二人を制した。早矢と近衛は心から驚き、清心の顔を見て硬直した。

「……待って。こういうことは、順序が大事だと思うの。だから、はっきりさせないと」

 清心の頬は赤く染まり、潤んだ瞳は動揺と決意に満ちて見えた。二人が気圧されて頷くと清心は安堵の息を吐き、なおも熱のこもった調子で話し続けた。

「まず、ごめんなさい、犬吠くん。ココちゃんのこと、話しておかなかったから」
「それはもういいって。全部一気に話されても訳分からなかっただろうし。俺が向こうで気付いたのも偶然だ。空鳥が謝ることじゃない」
「駄目だよ。だってココちゃんを助けることは、犬吠くんの安全と関係がない。むしろ危ないだけ」
「そんなことは……いや、一理あるが」
「酷くない?」 

 一応、という声色で口を挟んだ近衛は、にこりともしない清心の一瞥に両手を上げて押し黙った。

「だけど、それでもお願いしたいの。犬吠くん、ココちゃんを助けて。私にできるお礼があれば何だって……」
「逆だろ。お前に助けられた礼をしなきゃいけないのは、俺の方だ。お前の頼みなら、あの茶賣とだって仲良くやるよ」
「……ありがとう」
「任せろ」

 早矢は自信を誇張して大きく頷いた。向かい合う清心が表情を緩めると、早矢は頷くふりをしてやや俯いた。

「……何、にやけてんの。キモい」
「んだコラ、お前を助ける話だぞ」

 早矢は救われた思いで近衛のからかいに噛み付いた。凄まれた近衛は気にした様子もなく早矢と清心の顔を見比べ、溜息を吐いて見せた。

「清心、納得した?」
「うん。ごめんね、ココちゃん」
「いいよ。あんたが正しい」

 近衛はそこで言葉を切り、ふと扉を見た。全く同時にノックの音が響き、店員が現れ、静かな室内に驚きもしないままそれぞれの飲み物を並べ、退出した。近衛がコップを掴み前に出すと、清心と早矢も勢いに流されるままにコップを構えた。

「じゃあ、今度こそ始めましょう。私、九猿近衛救出会議を」

 参加する三人のうち二人がその名称に首を傾げたまま、強引な乾杯が執り行われた。 【Day 5 - B - 3に続く】



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