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ナイトバードに連理を Day 5 - B - 3

【前 Day 5 - B - 2】

(1532字)

「無理じゃん?」

 近衛は背もたれにふんぞり返りながらストローを噛み潰した。状況を共有整理した結果、当初の意気込みは消沈していた。

「茶賣って奴をどうにかしなきゃダメだけど、どうにもならないんでしょ? 私たちはそいつの基地の真ん中にいて、武器持った子分もいて、しかも本人が化け物みたいに強い。手も足も出ないじゃん」
「落ち着けよ。こっちにもアドバンテージはあるだろ」
「それも分かってる」

 早矢が言うと、近衛は氷だけが残るコップを勢いよく机に置いた。

「アマフリってのと手を組んだこと、あんたが私の存在を知っていること、こうして意思の疎通ができること」
「で、茶賣はそこを知らない」

 近衛は渋々という様子で頷き、腕と脚を組んだ。目のやり場に困った早矢が顔を背けると、ぼうっと壁と天井の継ぎ目を仰ぐ清心が視界に収まった。誰も彼も悩んでいた。

「作戦とかないの?」
「……それを考えるために顔を合わせてる」
「ま、そうよね。どっちにしろ倒せないんじゃなー」

 三人ともに押し黙り数秒、頭を掻きながら呟いたのは早矢だった。

「逃げるか」

 その言葉を待っていたように、三人は同時に居住まいを正した。

「本気?」
「それだと、モッカの方々が」
「分かってる。けど逆に言えば、あの人たちさえどうにかできれば良いはずだ」

 早矢は話しながら必死に頭を回し続けた。

「みんなで逃げるってこと?」
「そうだ。俺を迎えに来た時みたいに茶賣を基地から引き離して、その隙を突いて逃げてもらう」
「……確かに、夜目が呼び掛ければ皆さんを説得できるかも知れないけど……」
「大勢いるんでしょ。命がけで、そう上手くいく?」
「俺は適当なこと言って茶賣を連れ出す役だろ。あの人たちを直接動かすのはお前だ」

 早矢は近衛の目を見て言った。近衛は絵に描いたようにキョトンとして見せた。

「私? いやいやいや無理だって」
「多少の根回しはできるけど時間がないし、茶賣にバレれば台無しだ。大丈夫、夜目は信頼されてる」
「あんたはそうでも、私は知らないし! ってか、そもそも閉じ込められてるのにどうやって逃げるのよ?」
「狢は夜目のためなら絶対に動く。あの人たちがお前を助けて、お前があの人たちを連れ出すんだ」
「……どう思う?」

 近衛はぐぐぐと唸り、助けを求めるように清心に向き直った。清心は顎に手を当てて数秒考え込み、小さく頷いた。

「……ココちゃんの夜目としての説得力も、モッカから出るルートも私が用意できると思う。大丈夫、助かるよ」

 清心は訥々と語った。近衛はコップに残った氷を口に流し込み噛み砕き、盛大な溜息を吐いた。

「分かった。やる」

 その言葉を聞き、早矢と清心も安堵の息を吐いた。同時に起こった二つの吐息が癪に障ったか、近衛は再び眉をしかめて早矢を睨んだ。

「あんたはどうするのよ。囮ってことでしょ? 死なれたら後味悪いわ」
「死んでたまるか。アマフリを同行させて、逃がして貰うんだよ。なんならこっちの方が安全かもな」
「そのアマフリって本当に信用できるの?」
「……そこの不安はあるな」

 気を良くしていた早矢は途端に顔を歪めた。

「話した感じだと普通に良い奴っぽかったが、移動中に襲って来た連中はバンバンぶっ殺してたしな。こっちの考えに従ってくれるかどうか」
「なにそれ、こわ……」

 冗談のように早矢と近衛がやり合っていると、不意に清心が立ち上がった。

「……ごめんなさい、お手洗いに」

 清心はそれだけ言ってふらふらと出ていった。近衛はその背中をじっと見つめ、扉が閉じると同時に手元の鞄を早矢に投げつけた。

「うごっ、なにすんだ」
「あんたが無神経なこと言うからでしょ!」

 それ開けないでよ、と理不尽に叫びながら近衛も出て行った。一人残された早矢は途方に暮れながら、意味も無く机上の荷物を整頓した。 【Day 6 - Aに続く】



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