ナイトバードに連理を Day 7 - A - 5
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早矢は頼を探した。全てが押しつぶされたキャンプを端から端まで歩き回り、その名を呼び叫んで喉を傷めた。応える声、身動ぎする姿は一つもなかった。原型を失い転がる百以上の遺体は酷い臭いを発し始め、早矢は嘔吐した。大獣が倒れてから一時間。日が暮れようとしていた。
「いい加減にしなさい」
七の声は確かに正面から聞こえたが、その姿はどこにも見当たらなかった。早矢は周囲を見渡した。茶賣の部下数人がキャンプのあちこちをひっくり返し役立つ物を探している。茶賣本人は見当たらないが、地面に転がる大獣の巨大な死体の傍にいるはずだった。近衛は残ったコーデックボートの傍で火に当たり空を見上げていた。早矢は歩き続けた。
「アマフリの目で探した。もう他に生存者はいない。あなたが自己満足で苦しんだところで何も変わらない」
「俺は……」
早矢は言葉を発しようとしてむせた。腹の底から鼻の奥まで全てが逆流するように痛かったが、記憶を辿る余裕を失うのは好都合だった。だが永遠にそうしていることもできなかった。
「……俺のせいでみんな死んだ。茶賣とあんたを連れ出さなければ、こんなことにはならなかった」
「かも知れないし、どうにもならなかったかも知れない。戦力があれば大獣はここを襲わなかったかも知れないし、そうなれば別のどこかで誰かが襲われたかも知れない。所詮は仮定の話でしかない」
膝に手をついて立ち止まった早矢に、七は姿を見せないまま話し続けた。
「思いつめるのは現実が片付いてからにして。あのまま大獣が茶賣を殺せるか試す手もあった。私はあなたたちを助けた選択を失敗にしたくない」
捲し立てる声に早矢は顔を横に振った。
「感謝はしてる。近衛のことも。けど、どうしろって言うんだ。茶賣は結局どうにもならない怪物で、俺は水門石の在り処も知らないままだ」
早矢が声を落として応酬すると、七は妥協の表情が目に浮かぶほど露骨なため息をついた。
「ようやく頭が回り始めたようね。いいわ。なら、あなたの鵺が知らない話をしてあげる」
七は数秒の間を置いた。
「茶賣はもう、明後日の期日までに水門石には辿り着けない。時間切れよ」
その声は確かに耳元で聞こえた。早矢はたじろいだが、どうにかその場に踏みとどまった。
「……つまりお前は、水門石の在り処を知ってたのか。最初から」
「だったら、もう少しうまくやれたんだけどね。場所を特定したって知らせが天狗族の情報網で回ってきたのは、本当についさっき。ここからだとちょうど首都の真裏で、もう天狗が回収を始めてる。いろいろやったのに今更って気持ちは分かるけど、今回の件は幕切れが見えた」
「……俺の役目は終わりだってのか。実感が湧かないな」
早矢は素直な感情を口にした。七からは頷くような吐息が聞こえた。
「大丈夫、あなたたち二人の夜目は私が助け出すわ。形はどうあれ茶賣が水門石に辿り着かなかったことは事実だもの。絶対に死なせない」
七は励ますように言った。早矢は静かに辺りを見回し、自分がこの数日で得たものと失ったもの、まだ失っていないものを思った。
「……クソ、嫌だな。逃げたくない。あの怪物をこのままにしておけばまた誰かが苦しむ。誰かが鵺を呼ぶ。俺たちだけ助かっても意味がない」
早矢は折れ崩れた大獣除けを、大獣の死骸を、その陰にいるはずの茶賣を睨んだ。
「……話がある。もう一度、力を貸してくれないか」
早矢は目の前の虚空に向けて言った。 【Day 7 - A - 6に続く】
