【クジラ短編集6】陸にあこがれたクジラのビート #創作大賞2024
クジラのビートは、何にでも興味を示すクジラだった。
先日空を飛ぶ鳥から、緑の木やおいしい果物の話を聞いて、陸の上にあこがれを抱いていた。
陸の上は、一体どんなところなんだろう・・・
大人たちからは、陸の上は危険だし、食べ物が少ないんだよ、
と言われるけれど、そういう大人たちも、陸の上の事は知らないじゃないか!
と思っていた。
ビートは、深く潜ることも好きだった。
もっともっと深くて暗いところには、何があるんだろう、といつも想像していた。
ビート達は、かなり深いところまで潜ることはできたが、まだその先にもっと世界が広がっていることを知っていた。
深海の魚たちは、ビートが近づくと逃げてしまう。
話を聞きたくても聞けなかったし、長く深海にい続けることもできなかった。
そんな時ビートは、深海にぱっくりと黒い大きなトンネルのような穴があることに気が付いた。
そこには深海の秘密が隠されているような気がした。
でも、危険じゃないのか?
戻ってこれなかったら、息ができなくて死んでしまう。
それでも、気になって、行ってみたくてたまらない。
ちょっと覗いてみよう。
ビートは、その穴の入口に行ってみた。
すると、突然すごい勢いで穴の中に吸い込まれてしまった。
何が起こったのかわからない!
しかし、気が付くとビートは水辺にいた。
よく見ると、なんと体に4本の短い足がついている。
ビートはそこで水に半分浸かった状態で目を覚ました。
目の前には、緑の木々が生い茂った森がある。
ビートはおそるおそる立ち上がってみた。
身体は重く、歩くのはとても大変だった。
陸上を歩くのって、こんなに疲れるんだなあ、
ビートの足は、重い身体を支えるのは、あまりに貧弱な足だった。
それでも、陸地を歩く感覚が不思議で楽しくて、ゆっくりと歩きながら、辺りを観察した。
一体ここはどこなんだろう・・・
周りに、自分の姿と似ている生き物が何頭かいた。
ここはどこですか?と尋ねると、
何言っているんだ。ここは湖のほとりだよ。
と言う。
言葉は通じるから、自分たちの仲間のようだ。
それにしても寒い。
寒いですね、と言うと、ここ数年寒くなってきたんだという。
お腹がすいたので、周りのみんなの真似をして、辺りにたくさんいるカニを食べていると、森の中からガサガサと大きな音がする。
そこには見たことがないような生き物がいた。
全身うろこでおおわれ、後ろの大きい脚で身体を支えて立っている。
長いしっぽはまっすぐに、後ろに伸びている。
頭は体より小さくて、大きな口には鋭い歯が光っていた。
逃げろ!
誰かが叫んだ。
ビートも必死で水の中に逃げた。
水の中に入ればこっちのものだ。
ビートは、やっぱり水の中が楽だなあ、と思いながら泳いで逃げた。
あの生き物も、水の中までは追いかけてこなかった。
しかし、あの恐ろしい生き物は何だったんだろう。
あれさえ出てこなかったら、森の中を探検できたのに。
せっかく足が4本生えてきたのにな。
ビートは、ちょっと不格好な足を見つめた。
ふと気が付くと、その水は海水ではなく、塩分がない水だと気が付いた。
ここは、海じゃないのか?
確かに海のわりに浅い。
しかし、その底の方に、またしてもトンネルのような穴が見えた。
まだ帰りたくないな、と思いながらも、帰れなくなっても困る。
ビートはそのトンネルを覗いた。
またしてもビートは、そのトンネルに吸い込まれた。
気が付いたビートは唖然とした。
そこは森の中だった。さっきよりもかなり暖かくて、快適だ。
ビートの身体はだいぶ小さくて、4本の蹄がついた長い足がついていた。
周りには、もっと長い脚のものもいたけれど、歩くには十分の長さだった。
ビートは、小さな生き物を捕らえて食べた。
なんだか生臭いな
あんまりおいしくないや。
ビートは、森のなかを駆け回った。
素敵だ!なんて気持ちがいいんだろう!
しかし、その後なかなか食べ物は見つからなかった。
食べ物を求めてうろうろしていると、どこからかうなり声が聞こえた。
少し離れたところに、先ほど襲ってきたものと同じような生き物が、よだれを垂らしてビートを狙っていた。
ビートは、必死に逃げた。
あの大きな生き物が通れないような、藪の中や低い木の中を、懸命に走った。
ようやく逃げ切ったと思ったら、目の前にまた違う生き物が、ビートを狙っていた。
助けてくれ~
ビートは、地面に開いていた大きな穴に逃げ込んだ。
その穴は、すごい力でビートを吸い込み、息もできないほどだった。
このまま死んじゃうかも
と思った時、ビートは海の上に放り投げられるように落ちてきた。
そこは、ビートが生まれ育った海だった。
仲間たちが、ビートどこいってたんだよ、心配したよ。
人間につかまったのかと思った、
などと集まってきた。
ビートの身体は、もとの足がないクジラに戻っていた。
ビートは、自分に足が生えたことや、陸上を歩いたこと、恐ろしい生き物がいたことを話したけれど、だれも笑って信じてくれなかった。
そんな時、長老のクジラだけが、真剣にビートの話を聞いてくれた。
そして聞き終わると、長老は静かに語り出した。
その昔、われらには4本の足があり、陸上と水辺の両方で生活していた時代があるらしい。
その前には、陸上生活をしていたとも聞いたことがある。
ビートは、そんな時代に迷い込んでしまったのかもしれないね。
海の底には、まだ私たちが知らないことがたくさんあるからな。
一度は、恐竜と言われる恐ろしい太古の生き物が迷い込んできて大騒ぎになったことがあったのだよ。
と語った。
ビートは、もしかしたら自分を襲ってきたあの動物は、恐竜だったんじゃないかと思った。
その恐竜どうしたの?
そいつはそいつで、恐ろしかったらしく慌てて、深海に潜って行ってそれっきりさ。
深海のあの穴は、大昔と繋がっているんだろうな。
ビートはますます深海に興味を持った。
でもやっぱり、今が一番いいや。
ビートは、そう言って海に潜って、思い切り泳ぎ、お腹いっぱい魚をほおばった。
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