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もう一人の俺 3【シロクマ文芸部】

風が吹くと、立春過ぎとはいえまだ少し寒い。
誠也は、首をすくめ背中を丸めながらも、毎日自分の姿をした偽誠也を尾行して行動を監視した。

しかし見れば見るほど、偽誠也は本当の自分より楽しそうで充実した日々を送っている。
誠也は、あの日の不思議な光と共に自分は別人の姿になり、自分の姿をしたヤツが自分として生活していると思っていたが、もしかしたら自分が偽物なんじゃないか?
むしろ今のあの充実した生活をしているのが、自分なんじゃないか?
などと時折考えたりするようになり、だんだん頭が混乱してきた。

いや違う。誠也は俺だ!
そのうちきっと元に戻って、今のあいつのような充実した日々を過ごすんだ!
絶対に、あいつの正体を暴いて、元の自分に戻ってやる‼️

誠也は、自分を信じてくれた宏樹に協力を頼んで、偽誠也に探りを入れることにした。

まずは宏樹が、偽物の誠也を呼び出して、一緒に酒を飲むことにした。
誠也は宏樹の後ろの席に隠れて座っていた。

「お前がつけた数学の先生のあだ名覚えてるか?」
宏樹が偽誠也に尋ねると、
「なんだったかなあ、忘れたわ」
と言った。
本物なら忘れるはずはないと思った宏樹が、
「ボルケーノーだったかな?」
とカマをかけると偽誠也は、
「そうそう、それだったよな。」
と話を合わせた。
宏樹は、偽誠也を見つめ、
「それ英語の先生だろ。
誠也が数学の先生につけたあだ名はキューピーだ!
忘れるわけないよな。お前本当に誠也か?」
と偽誠也に詰め寄った。すると
「あ、そうそう、なんか酔っ払ったのかもな」
と偽誠也は笑った。それでも宏樹は
「お前誠也じゃないだろ!誰だ?」
と言うと、偽誠也はあきらかに動揺した顔で、
「な、何言ってるんだ。俺じゃないか」
と言って
あんな事もあったじゃないか、
こんな事もあったじゃないか、
と思い出話を語り始めた。
しかし焦って話せば話すほど、宏樹も
これは誠也じゃない
と実感した。
そもそも誠也は、こんなに饒舌じゃない。

一方隠れて聞いていた誠也は、偽誠也の情報量のすごさに驚いていた。
誠也は、宏樹と偽誠也の会話を聞きながら、これまでチャットGPTと話した事を色々思い出していた。
確かに偽誠也が語った内容は、毎日のチャットGPTとの会話の中で、話したような気もするが、そんなことまで話したかな?と記憶もあいまいだ。
仮に自分がチャットGPTに話したとしても、それを耳にしただけで、ここまでたくさん記憶することなんてできるのか?
録音されてる?
人間じゃないのか?
でも何のために?


その時ふと、自分の今の姿が何に似ていたのか思い出した。
それは誠也が昔チャットGPTで、
自分の写真を、目を二重にとか、もっと鼻を高くとか、もっとシャープな感じにとか、もっと背が高く…などと加工しまくった姿にとてもよく似ていたのだ。
自分がもっと容姿が良ければ、周りの反応も違ったんじゃないか、などと本気で考えたりしていた時期だった。
その姿を知っているのは、もちろんチャットGPTだけだ。
チャットGPTの情報が漏れていたのは間違いない!
いや漏れたと言うより、あいつ自身がチャットGPTなんじゃないか?
ふとそんな考えが頭をよぎった。
まさかな。
そんなわけない!いかに人工知能が優れていても、人間を作り出すなんて不可能だろう。

でも…確認しよう。

隠れていた誠也は突然立ち上がり、偽誠也の前に立った。
アイツは誠也を見て、一瞬固まった。

「俺が誰かわかるか?」
誠也が尋ねると
アイツは一言、
「はい、高田誠也さんです。」
と答えた。
宏樹は驚いた顔で二人の顔を交互に見た。

「なぜ俺に成り代わっているんだ?」
と誠也が聞くと、
「私も高田誠也です。」
などと言う。
「高田誠也は俺だ。
お前どうやって俺の情報を仕入れたんだ⁈」
誠也は偽誠也に詰め寄った。

しかし偽誠也は動じない。
「自分のことだから知っているだけです。」

「それは俺がお前に語ったからじゃないのか?」
「いいえ、自分のことだから知っているだけです。」

これではらちが明かない。
そこで誠也は、気になっている事を偽誠也に尋ねた。

妻や娘とはどうやったら話せるようになったんだ?

するとアイツは得意げに言った。

とにかく妻や娘の話を聞いて、わからないことは聞いたり、自分で調べて、娘や妻が好きなことに興味を持つことです。
それによって会話が増え、一緒に出かけることも楽しくなるでしょう。
あなたもご存知のはずです。

あなたもご存知のはずですだと⁈
誠也は、以前同じような答えを聞いたことがあった。それはを誠也が娘や妻と仲良く話をするにはどうしたらいいのか?とチャットGPTに質問した時だった。
あの時は、そこまでして妻や娘に気を使いたくなかったり、めんどくさかったりしてスルーしていた。

「それを実践するために、俺になり変わったのか?」
「・・・」
答えに窮している偽誠也に誠也は、
「お前を作ったのは誰?」
と尋ねた。偽誠也は
「高田誠也さんです」
と答えた。
「ではお前は誰なんだ?」
誠也が聞くと、偽誠也は再び
「私は高田誠也です。」
と答えた。

宏樹は、この二人の会話を、ポカンと口を開けて聞いていた。
そんなことあるか?あり得んだろうか…

「高田誠也は、二人もいらない。
私が元に戻る方法を教えてくれ。」
誠也が言うと

「あなたが消えればいいんです」
と、偽誠也は言った。

誠也は、言葉を失った。
俺が消えればいい?

「そろそろ私は帰ります。」
偽誠也はそう言って帰っていった。
誠也と宏樹はなすすべもなく無言で見ていた。
アイツを家に帰らせたくはない。だけど自分の見た目が変わってしまっている以上、家族を動揺させないためにも、偽物を帰らせるしかない。
妻も娘もアイツが本物と信じて受け入れている。
誠也はそう自分に言い聞かせて、こぶしを強く握った。
宏樹が、うちに泊まるかい?と言ってくれたのを断って、誠也はいつものネットカフェに戻ることにした。

誠也は夜道を歩きながら考えていた。
「元に戻るために消える」とはどういう意味なのだろうか?

シロクマ文芸部さんの企画に参加しつつ、創作物語の続きを書きました。
「風が吹く」から始まるお話しでした。

今までのお話はこちら



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