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ふたりぼっちの回想録


あらすじ
ふたりぼっちは難しい
似た者同士のふたりぼっちは特に。
似ている部分が、良くも悪くもお互いに気になってしまう。
引き合う要素は、ネガティブなのか、ポジティブなのかはどうでもいい。
ふたりの関係が続く為に、ふたりの間に、何かがあればいい。
あなたがいれば他に誰も要らない、なんて嘘。
ふたりの間にな誰かと、何かがいるから、ふたりの関係は続く。
そうなると、不器用で、遠回りなのは仕方ない。
そんな事に気づけない、それぞれのふたりぼっちな人達の話。
リアルな心情に、創作話としての特殊要素を混ぜ、回想録風に書いてみる。

プロローグ
私の名はシイ。
私は望まぬ子として生を受け、望まぬ宿命の星を持って生まれた。
「あんた、身内を守る星がある。」
私は、幼馴染に連れられてやってきた隣町の只のお婆さんにそう告げられた。
しかし、私は最初にお婆さんから己の宿命を告げられた時は大層ガッカリした事を覚えている。
身内を守る。
正義感の強い素直な子供ならば、そう告げられた後は戦隊モノのヒーローの如くその道に邁進するのかもしれない。
だが、私はある意味捻くれた子供であり、ある種の自立心の強い子供だった。
お婆さんの言葉に家庭的な意味を強く感じ取ったのだ。
子供の私にとってそれは自立と対極にあるものだった。

幼馴染に言わせると、そのお婆さんは知る人ぞ知る「当たる」占い師なのだと言う。
その情報がより一層私のガッカリ感を強めた。
断っておくが、私自身は特別にそういった類の事にインスピレーションを感じた事はない。
そのお婆さんの所へ私を連れて行った私の幼馴染の名はサンという。
私達は双子と勘違いされる程、容姿が似ていた。
私とサンは、世間でいう「はとこ」の関係らしい。
『そうだよ…わかる…わかるよ!きっとシイは一族の守護人で…希望の星になるよ!…ご先祖様再来だ!』
サンはそう叫んだ。
そう叫ぶ事で自分で自分を洗脳しているようにも見えた。
サンは、私や周囲の人間から見ても、大変直情的で、思い込みの激しい人間だった。
私は、と言えば…荒唐無稽な話だと思った。
サンが先程言った「ご先祖様」は1000年以上も大昔の話だが、私達の一族から輩出された英雄らしい。
一度は私達の一族も栄華を極めたらしいが、今では絶滅危惧種に極めて近い小数民族である。
数が少ないという事は全ての事柄に於いて極めて不利だ。
私達の生きる世界では、公共語は大まかに二つあり、二つの言語圏に分けられている。その中で各々の国が自分達の言語を持っている。
例えて言えば、公用語は標準語とするならば、自分達の言語は方言みたいなものだ。
そして、各々の公用語圏内で各々の国々が牽制し合っている。どちらの言語圏も民主主義であり、多数決の原理が物を言う。私は政治には詳しくないが、一つだけ確かに言える事は、二つの言語圏の共通した内情は多数派が有利な陣取りゲームであるという事だ。仮に私がサンの言う通り英雄の生まれ変わりだとしても、陣取りゲームの中で圧倒的不利な弱者である絶滅危惧種が何者になれるのだというのだろう?
しかし、幼馴染はそう思い込んだら最後、自分の想像通りに成らなければ非常に不機嫌になる人だった。
不機嫌にさせておけばいいじゃないか?
ああ、君もそう思うか…やっぱり。
大人になった私も、同じ意見だ。
だが、幼馴染にそう言われた頃の私はまだ子供だった。
しかも、当時の私は幼馴染への依存心が大層強かった。
幼馴染は友人であり、先輩であり、母でもあったのだ。
子供とは親の関心を買おうとするものだ。
たとえ、親の言動に多少の難を自覚しても、だ。
有名な古典文学に「源氏物語」というものがある。
主人公が幼少時に死別した母の面影を追い求め、次々と様々な女性と付き合う話だ。
母を追い求める。
思い返せば、私自身それに近い形で、周囲の人間と関わっていた部分があった様に思う。
今、思い返しても、私は当時の己の理想と現実の乖離に笑いが込み上げてくる。
自立心が強い己の姿を追い求める割に、現実では幼馴染のサンに強く依存していたのだから。

1、サン
実際、私をその占い師に連れて行った幼馴染サンには…私は色々と思いやりの無い目には遭わされていた。
例として、隠れんぼという遊戯での出来事を話そう。
サンは皆と結託し、わざと私だけを最後迄発見せずに仲間たちと帰ってしまった。
かと思えば、急に私の世話を過剰に焼き、夜中になると私のベットへ潜り込むと、サンの悪い仲間内で毎回起こる揉め事について、延々と愚痴を私にぶちまけるのだ。
私にとっては、毎回聞かされるサンの仲間内に対する愚痴は全て同じ内容に聞こえた。
関心の薄い内容は退屈であり、退屈の継続は眠気を誘うものだ。
しかし、そこで私が眠気に負けてウトウトしようものならば、サンは烈火の如く怒り出すのだ。
「寝るな!私の話を聞け!二度と一緒に寝てやらないからな!!」
私の態度が気に食わなければ、さらにエスカレートした罰を与えられた。
ウトウトの件も、幼馴染は非常に気に食わなかったらしい。
翌日、私は不成者のが多く存在する危険エリアに置いてけぼりにされた。隠れんぼの置いてぼりなんて可愛いと思うレベルだ。
しかし、その様な心無い事仕打ちをサンから受けても、私はサンを許し私の側にいる事を望んだ。
私は大人になった頃にサンの心無い仕打ちを許した原因を探った。
そして要因は二つあると分析した。
ひとつ目の要因は私の祖父だ。
先述のサンの言う英雄のご先祖さま。
私の祖父は、この英雄のご先祖様の直系の子孫だった。
それ故にだろうか?
祖父は一族の中でも、一目置かれた人間であった。
しかし、祖父は身内贔屓はみっともないと考えるタチの人間であり、私だけに特別な支援の手を差し伸べる人では無かった。
直系の孫である私も、傍系の子孫であるサンも、一族の他の子供達も平等に接した。
祖父のその態度は、私に大きな影響を与えた。
私の脳内は、不平不満をぐるぐる巡らせるよりも、どうすれば上手く物事を回せるかと考える方にシフトしていった。
ふたつ目は幼少期から悩まされて続けた悪夢だ。
これは、恨み言の色の強い意味でに悪夢ではない。
文字通りの悪夢…睡眠時に見る夢だ。
気色の悪い怪物に体をベトベトに舐め回される。
魔物に体を細切りにされる。
それらは可愛いレベルの悪夢だ。
現実の生きている人間に心無い目に遭わされる。
しかもその人間というのが、私にとっては唾棄する程の嫌いな人物なのだ。
現実主義者の私にとってそれは、地味に心を磨耗する悪夢だ。
しかも困った事に、その悪夢はフェードアウトする事無く、大人となった今でも睡眠時のお供、と言った状態だ。 
今思い返して見れば、子供の頃はこの悪夢に付き纏われる事が地獄で耐えられず、サンの心無い仕打ちを水に流し、サンが側に居てくれる事を願ったのだろう。
つくづく思う。
子供というのは浅はかだ。
悪夢の中で、私に酷い目に遭わせる頻度が高いのはサンが一番多かった。
お気づきだろうか?
唾棄する程嫌いな人物が悪夢に出てくると私は先述した。
嫌いな幼馴染のサン。
現実に嫌いな幼馴染のサンに添い寝をしてもらい、嫌いな幼馴染から夢の中でも酷い目にに遭わされる。
この本末転倒である状況。
私はサンを己から引き離す事を決心した。
だが、運命とは何と皮肉な物なのだろう。
私がそう決心を固めてから、数日後に私はサンはふたりぼっちの状況となってしまった。
元より、周辺の部族達と相性の良くなかった私達一族。
彼等とは長らく緊張状態であった私達一族。
直近では同盟相手も居らず、周囲から孤立した状況であった事にも影響を受け、攻め込まれるとあっと言う間に滅ぼされてしまった。

「私達の一族が滅ぼされたのは、シイのせいだよ!シイがお父さんを助けたりなんかするから!…償ってよ!」
ふたりぼっちになってしまった後、私はサンに感情的にそう責められた。
サンがそういう言って私を責めるには理由があった。
一族が攻め滅ぼされる悪虐の前に前哨戦は幾つかあった。
その内の、ひとつに私の父の姿があった。
私の父。
サンが時々私に対してのみ発露するねじれた感情。
それは私の父の存在が強く影響していた。
私の父は、祖父の一人娘である私の産みの母を攫った人間だった。
例えて言うならば、父は領内の姫を攫った盗人のようなものなのだ。
そのエピソードからも分かる通り、私は生まれた時から一族内で育った訳ではない。
産みの母は私を産み落とすと死んでしまった為、私は盗人のに育てられた。
私を育てられなくなると、父は一族に私を託したのだ。
いや、押し付けてきたという表現の方が正確だ。
その事情も影響しているのだろう。
私は一族内でも若干の腫れ物扱いだった。
その私の父とは対象的に、サンの父は一族を纏める清廉潔白なリーダーといった立ち位置だった。
同じ英雄の末裔だが、直系と傍系。
直系とは言え盗人の血を引く私。
傍系とは言え、今では人格者として周囲に認められた父を持つ傍系。
サンは周囲の評価を異様に気にする部分があった。
私の一族が絶滅危惧種に近い小数民族である事は先述した。
それ故か…生き残る事や未来に繋ぐ事に関しての啓蒙活動は強いように思えた。
全体主義の色濃い一族であったと思う。
そんな状態の中では、周囲から自分の評価を気にする人間も少なからず存在した。
サンは典型的にそういうタイプの人間だった。
一族の重鎮の孫の直系の孫だが、腫れ物でもある私。
そんな私はサンの虚栄心とやらに、捻れた何かを与えたのだろう。
サンの様に虚栄心の強い人間からすると盗人の父は、私に対する負の要素でしかないのだろう。
私は負の要素である父をを助けてしまった。
当時の私は子供だった。
無論、深い意図があってやった事ではない。
幼さ故の思慮浅さで、父を助けたのだ。
だが、全体主義を第一とする私の一族にとっては、私の行為は裏切り以外の何でもないのだ。
祖父は烈火の如く激怒し、私を成敗の実行を試みた。
しかし、祖父がそれを成し得る事は無かった。
邪魔が入ったのだ。
邪魔と言うと語弊がある。
適切な言い方に変えよう。
怒り狂い、刃を私に向ける祖父を己の身を挺して止めた人物がいたのだ。
清廉潔白な人格者であるサンの父だ。
しかし、一族の生き字引である祖父の怒りは凄まじく、人格者であるサンの父が一度止めたぐらいでは、私の首に当てた刃を引っ込める事は無かった。
「どうして、シイを処分するとおっしゃるなら、教育係でもある私を先に私をお切りください」
サンの父はそう言って、彼自身も一歩も引かなかった。
これには祖父も刃を引っ込めるしか無かったらしい。
後で聞いた話だが、私の産みの母は元はサンの父と恋仲であり、許嫁だったらしい。
母は攫われ、私を産み落とし、死んでしまうという結末を迎えた以上、結婚話は当然無くなってしまったのだ。
義理堅い祖父は、自分が認めた男に娘をくれてやる約束を果たせ無かった上に、殺すなどど言う不義理な事はできなかったのだろう。
後々、私はこの出来事について己なりの考察を重ねていく事があった。
それは私の癖のようなものであり、過去の印象深い出来事について瞑想するが如く、あれこれ解釈を加えるのだ。
先程、私は我が一族は全体主義だといった。
シンプルな話、ひと口に全体主義と言っても、統制可能な範囲というのは限られているだろう。個々の感じ方の違いがある以上、統制可能な範囲は広くはならない。
何億も人口を持つ大国レベルでは、ほぼ全ての人間を造反しない兵士の様にひとつの思想に添った行動へ従わせる事は難しい部分はあるだろう。
しかし、我が一族は百数人レベルの人口だった。
数が少ない分、ひとつの価値観に全体を染める事は難しく無かったのだろう。
祖父は私を処分するという選択肢を選ぶ事しかできなかったのではないか。
私が父を助けた事は幼子の我儘ではあるが、子供だからと言ってそれを看過する事は、一族としても纏まりを壊すきっかけになる。
祖父はそう考え怯えた。
子供のした事とは言え、その祖父にとって、私のした事は理解不能な恐怖だった。
その芽を制御不能に陥る前に早く摘んでしまいたかったのだろう。
祖父を含む一族の人間がほぼ居なくなってしまった今、答え合わせはできない。
取り止めもない事だ。
何はともあれ、サンの父のおかげで私が命拾いした事は確かだ。
清廉潔白なサンの父は、自分が正しいと思う事に己の命を投げ出せる人だった。
私は、彼には深く感謝している。
この一連の騒動をサンはジッと見ていた。
今でも時折、私の脳裏を過ぎるのだ。
その時のサンの暗澹たる瞳の奥に宿る敵愾心と、何かをグシャっと握り締めた拳を。

「私達の一族が滅ぼされたのは、シイのせいだよ!シイがお父さんを助けたりなんかするから!…償ってよ!」

私はサンの言う「償い」を引き受けた。
その時、脳裏に浮かんだのは、暗澹たるサンの瞳に宿る敵愾心。
怒りの奥に、恐怖を滲ませる祖父の顔。
卑屈さが宿る父の背中。
そして…身内を守る星がある私に告げた老婆の顔だ。

そして決心した。

償いが終われば、サンから離れようと。
親鳥から巣立つ雛の様に。

償いが終われば、私は私の持って生まれた宿命から解放される。
何の疑いも無くそれを信じたのだ。
しかし、よく言われている様に…運命とは皮肉である。
私は粛々と己の宿命に沿って生き、お役御免と解放を願えば願う程、運命は私を離す事を拒のだ。
子供に執着する親が、子供が己の手から飛び立つ事を拒む様に。


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