移ろい #シロクマ文芸部
爽やかな気分でドアを開けた。
初秋というには暑くて、残暑というには少しもの足りない。
頬に伝う湿り気を乾かしてくれる風は、もう湿り気を伴わない。
夏と秋が混じった季節。軽い足取りで外へ出る。
すれ違う人が、僕を見て驚いたように目を見開いたかと思えば、目を逸らしたりそのまま動きを止めてしまったりしている。
やがて人通りの多い道に出ると、小さく悲鳴が上がる声が聞こえてくる。
次第に僕の周りには人だかりができて、それでも一瞬だけこちらを見ると避けるように足早に過ぎていく人もいる。
無意識に握りしめた手のひらに、ぬるりとした感触。
その感触に、先ほど感じたばかりの温度を思い出し、胸の奥には満足感がじわりと湧く。
笑いそうになって、唇を舐めると鉄の味。これがあの人の味なのだろうか。ああ、それは少し気持ちが悪い。
グイ、と袖口で口元をぬぐっても、それは新たに広がるだけだった。
「ちょっと、あれ、」
「なに、あの人……」
「撮影かな?」
好奇心に満ちたような視線を向けてくる人。
つい、といったように後ずさりする人。
カメラを向けてくる人。
恐怖の表情。驚きの表情。
おそらく今、僕を見ている人たちの多くは、口には出さずとも思いを共有していることだろう。
けれど、僕の気持ちを共有できる人はひとりだって居ないはずだ。
こんなにもすがすがしい気持ちを経験した人は、ここに居ない人を含めてもそう多くはないに違いない。
僕も、もっともっとドロドロとした気持ちに苛まれるのかと思っていた。想像では。でもその想像は真逆だった。
秋晴れみたいな気持ち、というのだろうか。いや、やはり少しじっとりとした湿り気も帯びている気がする。
ちょうど今の季節みたいだ。
夏と秋が混じった気持ち。
人を殺したあとって、こんな気持ちになるんだな。
爽やかな殺人者——、新聞の見出しはこれがいいな。
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・夕焼け世界 10/3「夕焼けは」
・金色に光るのは 10/10「金色に」
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2024.10.27 もげら
