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「カイラル通信」は小島秀夫版「ミノフスキー粒子」だ。ガンダム好きが『デス・ストランディング』に没頭した理由

✍️書いている人の紹介
閃光のハサウェイを解説している人です。


記事をリライトしました。


2025年6月25日 朝6時。
私がnoteに投稿した時間だ。

『機動戦士ガンダムジークアクス』本放送が終了したこの日も、いつもと同じように深夜1時から文字を打ち込んでいた。

投稿後、私は空しさと寂しさで心にぽっかりと穴が空いていた。

毎週、火曜日の深夜。

寝ずに考察記事を書いた。
熱狂し続けた。徹夜で仕事に向かった3ヶ月。
辛くも楽しい日々だった。

そんな日々が終わり、私は完全に燃え尽きた。

無理をしたツケが回ったのか、体調を崩した。
酒も止められ、病院通いになる。

何かに夢中になれる体力も、気力も尽きていた。

走馬灯

ある時、立ち寄った中古屋で出会ったゲーム。
『デス・ストランディング』
名前だけは知っている。

2019年に出た「配達するゲーム」
小島秀夫監督の作品だ。

私はかつて、小島監督のゲームが苦手だった。
当時はFF7、ゼノギアス、名作RPGの全盛期

ステルスゲームのジャンルなど他に無かった。
KONAMIのパワプロ98を買った私は、同梱されていたメタルギア・ソリッドの体験版で小島監督作品と初めて出会う。

オハイオ級原子力潜水艦ディスカバリー
アラスカ フォックス諸島沖の孤島
シャドー・モセス島にある核兵器廃棄所..

メタルギア・ソリッド冒頭

メタルギアは、専門用語モリモリのバリバリハードボイルドゲームだ。
子供には難しかった。

10分で敵に見つかり、蜂の巣にされ死んだ。

「む、難しすぎる!」

それっきりで投げてしまった記憶がある。
そのくらい特殊なゲームだった。

パワプロは神ゲーだった。

そんな小島監督作品「デス・ストランディング」
手に取ったのは、めぐりあいを感じた。

最初は暇つぶしで手に取る。
でも、出会ってしまった。

主人公サムの『孤独な配達』
弱った心に、こんなに染みるとは思わなかった。



「カイラル通信」は、小島秀夫版「ミノフスキー粒子」である

ガンダム好きの私が、ただ荷物を運ぶだけのゲームになぜ、のめり込んだのか?

いくつか話していく。

ひとつは、この世界のSF設定『嘘のつき方』が、ガンダムのそれと同じ構造だと気づいたからだ。

『機動戦士ガンダム』には「ミノフスキー粒子」という架空の粒子が存在する。

これがあるからレーダーが効かなくなり、長距離ミサイルが役に立たず、わざわざ人型ロボット(MS)が白兵戦をする「理由」が生まれる。
ザクが製造され、新しい戦争が始まる。

『デス・ストランディング』における架空の物質「カイラル物質(カイラル通信)」も全く同じだ。

謎の現象デス・ストランディングにより既存のインターネットや物流が崩壊し、触れたものを老化させる時雨《タイム・フォール》の降る世界。

だからこそ、危険を冒して人間が荷物を運ぶ。
物理的にネットワークを繋ぐ「理由」が生まれる。

どちらも、「不便さを強いることで、ドラマを生む」ための装置だ。
そして物語上の大きな架空ウソでもある

しかし、違和感を抱かない。なぜか?

大きな嘘ファンタジー設定をつくために、細部のリアリティを徹底的に固めているからだ。

「機動戦士ガンダム」は兵器、軍隊、政治、復讐・戦争のリアルを描くことで、人の死が身近に感じる世界観、その渦に巻き込まれた少年の葛藤。
子供だまし、ではない濃厚なドラマを描いた。

「デス・ストランディング」は、社会インフラ崩壊後のアメリカの姿を描く。
それでも繋がりを求め「アメリカ都市連合(UCA:United Cities of America)」を建国する。

あの世(ビーチ)という非現実がパラレルする世界観でありながら、近未来的《フューチャリスティック》な建物やアイテム、サムの生理現象といったリアリティが脇を固める。

嘘さえも、本物と思わせる演出。
中途半端にやれば批判される綱渡りを、小島監督は真剣に、真面目に見せつけてきた。

…なんだこの、配達ゲームは?


「世界観」を暴力的に投げつけられる快感

「BT」と呼ばれる怪異の出現、DOOMS(能力者)の存在、絶滅因子、カイラル通信、空飛ぶ芋虫クリプトビオシス、世界をつなぐためのQpid…。

…ゲームの始まりもまた、訳が分からなかった。

「なわ」は、「棒」とならんで、もっとも古い人間の「道具」の一つだった。

デス・ストランディング冒頭

これは小島監督が安部公房先生のファンであり、インタビューで話している内容だ。

小島監督「人類が最初に発明した道具は棒で。自分に敵対するもの、遠ざける特性を持ったものであると。その次に人類が発明したのは縄で、これは逆に自分がつなぎとめたいものを引き付けて縛るものであると。そして、今も棒と縄という道具を人類は使っています。
(中略)DEATH STRANDINGはその次に行こうとしています。当然棒も出てきますが、ゲームをしながら縄的な思考でつながるんです。それはストーリーも世界観も、ユーザー同士も、あるいはプレイを見せる実況者なども含めて、全部ストランドします。」

少年時代あんなに嫌いだった専門用語と難解さ。
でも、なぜか私の心に馴染んでいった。

ゲーム開始と共に映し出される風景は圧巻だ。

鉛色の雲間から光が漏れる空。
吸い込まれそうなほど深く、広大な緑の荒野。
湿った風を感じさせる断崖の岩肌。
唯一の動点となり、バイクは荒野を突き進む。

一気にゲームの雰囲気に没入していく。
時間の感覚が無くなり、物語の住人となる。

「目に見えない」脅威と、謎多き人物たち。
何もわからぬまま、サムと共に繋がりを求められるこの世界に、最初は誰もが戸惑うはずだ。

それでも物語は猛スピードで進行する。
そして、プレイヤーは最初の配達を行う事になる。

それは、
義母の遺体を焼却場まで運ぶ任務。

散りばめられた謎が解け、未知の言葉が理解できた瞬間、世界の解像度が一気に上がる。

私は、夢中でコントローラを握り続けた。


「コダワリ」は細部に宿る

「メカ好き」として琴線に触れたのが、アートディレクタ新川洋司氏によるメカデザインだ。
アメコミのような力強さと、書道のような毛筆的で繊細なタッチが融合した新川氏のデザインワークは、メタルギア時代と変わらず、いやそれ以上に美しい。

メカといえば、主人公サムの肩に乗っているセンサー「オドラデク」
機械なのに、まるで生き物のようにパタパタと動き、敵(BT)の気配を愛嬌たっぷりに、時に緊迫感を持って知らせてくれる。

無機物なのに有機的。

それはまるで、ガンダムにおける「ハロ」のような存在感だ(喋らないが)。

バイクのデザインも秀逸だ。

悪路では前輪が割れて2輪になり安定性を増し、高速走行時は1本にまとまる。
男の子の夢と機能美が、変形機構にはある。

積載能力の高いトラックだってゴツカッコいい
物語を進めば、好きな色に染め上げられる。

UI(ユーザーインターフェース)の音もいい。

端末を操作する時の「カチャカチャッ」という心地よいSE、ホログラムの地図にping打ちする「キュピン!」という音。
洗練されたフォントに近未来的デザイン。

(文字が小さすぎて、大型のテレビでも見えないことには閉口したが…、そこはご愛嬌だ)

配送端末のAI的なボイス、ランダムで悪夢を見る休憩所、暴れ回るサム。

異常なほど、細かな所まで「コダワリ」を感じる。

それぞれが、デスストの世界観を支えている。


「排泄物」を武器にして進む

何より驚いたのが、主人公の排泄(排尿・排便)がシステムに組み込まれていることだ。

拠点であるプライベートルームでトイレに行くと、その排泄物が対BT兵器(忌避グレネード)として生成される。そして血液は弾丸になる。

「どんな人生を送ったら、うんちを武器にする発想が生まれるんだ?」

小島監督の奇才ぶりに笑ってしまったが、プレイしているとこれが切実になってくる。

突如として襲われるBTに、グレネードを投げ込む時にありがたみを感じることだろう。

水を飲み、トイレに行き、体調管理をする。

ゲーム内のサムも、ぼくらと同じだ。
それが、世界を救う武器になる。

この奇妙なシンクロが没入感を高めるのだ。


「歩く瞑想」は孤独か

本作が「お使いゲー」と揶揄されながらも、神ゲーと呼ばれる理由はこうだ。

「面倒くさいことをやる快感」

荷物を持ちすぎればよろけるし、靴はすり減る。
コケたら荷物をぶち撒ける。
その荷物が崖に落ちたら最悪だ。

でも、楽しい。

「次はこのルートで行こう」
「今度はあの道具でショートカットできるかも」

工夫と努力で、必ずクリア出来るようになる。

現実世界では、常に何かに追われていた気がする。

人間関係、終わりのないタスク、喪失感。
頭の中はノイズで埋め尽くされ、息継ぎの仕方さえ忘れていたように思う。

この世界で荷物を背負い、ひたすらに歩く。
聞こえるのは風の音と、自分の足音だけ。
ここにあるのは、圧倒的な孤独だ。

だが、不思議なことに寂しさは感じない。

顔を上げれば、誰かが架けてくれた梯子がある。
誰かが残した、ロープがある。

私が欲しかったのはレベル上げでも、いいね稼ぎでも、効率性を上げることでも無かったのだ。

ただ、一つの役割に没頭したかった。

面倒くさいと感じる時間。
それが深く、安らかな「瞑想」となっていった。


「俺を頼ってくれる」愛すべき装備

旅の道連れである赤ん坊「BB」
敵を感知するセンサーとして活躍する。

アイテムだが、衝撃を与えたりダメージを受けすぎたりすると、泣き出す

コントローラーから流れる、BBの鳴き声は焦る。

あやすために、揺らさなければならない。
そう、コントローラーを現実で、だ。

最初は「面倒だな」と思った。

しかし、孤独な平野、BTの恐怖に怯える道のり。
そんな険しい旅を共にする間、BBが笑ったり、泣いたり、リアクションを取ってくれる。

大ジャンプや、早いスピードで走ったり、コントローラから聞こえてくる笑い声。

どうしようもない「父性」が芽生えてくる。

無茶をして敵陣を抜け、泣かせたBBをあやすため、コントローラをゆりかごにしている時。

「ごめんな、怖かったよな」

そう呟く自分に気づいた。

私は、完全にこのゲームの虜になっていた。


言葉はいらない、ただ「梯子」があればいい

高くそびえ立つ岩肌に、濁流のある河川。
不安定な足場によろめき、LRボタンにしがみつく。

徒歩だけでは越えられない場所に、梯子をかけたりロープを張ったり。

しかし、手持ちの荷物を減らしたい気持ちでいると、必要な時に道具が無い

そんな時に助けてくれるのが、世界中のプレイヤーが残した「足跡」だ。

崖から垂れるロープ、河川にかかる梯子。
アーチ橋、休憩所、電力スポット。

目に見えないプレイヤーが進んでいった道程を、「いいね」を付けながら進んでいく。

孤独なサムを応援してくれる。

ニュータイプのような精神世界はない。
誰かと会話するのも、ホログラムが多い。

しかし、誰かが架けてくれた一本の梯子に、救われる瞬間がある。

独りで歩いているようで、独りではない。

過度な干渉もなければ、拒絶もない。
「お礼を言わなければ」という気遣いも、「見返りが欲しい」という要求もない。

理由なき優しさに触れながら、黙々と荒野を行く。

ただそこに「誰かがいた」という痕跡。

「ここを通る誰かが助かりますように」

純粋な願い。

燃え尽き症候群で孤独を感じていた。
緩やかな繋がり《ソーシャル・ストランド・システム》は、どんなSNSの「いいね」よりも温かく感じられた。


「サム・ポーター・ブリッジズ」

日常に疲れたなら、サム・ポーター・ブリッジズになってみてほしい。

重い荷物を背負って歩く。
一歩一歩が、あなたの心を前へと運んでくれる。

現在、私はこのゲームをクリアしていない。

いや、クリアしたくないのだ。

のんびりと、世界を歩き続けるつもりでいる。

まだ見ぬ誰かと、一本の梯子で繋がるために。

道中見かけたら、「いいね」して欲しい。
もちろんベストな場所に梯子をかけたいと思う。

それではまた、同じ世界で会おう。

共に『ストランド』出来る日を願って。

□ 『端末機能を起動する』



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