外貨建て保険と円建て保険の解約の予測の比較
先日、国内の生命保険会社が抱える国内債券の含み損が10兆円規模に達していることについて解説しました。この記事では、生命保険の解約がもたらす影響について取り上げます。
生命保険会社にとって解約リスクは経営に大きな影響を及ぼす可能性があり、重要な課題とされています。
保険会社が抱える含み損は、解約増加によってさらに深刻な問題となる可能性があります。解約が増えると、保険会社は解約返戻金を支払うために資産を売却しなければなりません。しかし、債券価格が低下している状況では、売却時に損失が発生し、経営の安定性を損なう恐れがあります。
特に、株式の含み益を持たない保険会社は、債券の売却損をカバーする手段が限られるため、解約増加がより深刻な問題となります。すでに一部のカタカナ系の生命保険会社では、債券売却損が増加しているとの報告もあります。
ソニー生命のポートフォリオは全体で11兆円ほどありますが、そのうち国内債券が80%、外国債券が20%、株は0.07%しか持っていませんでした。つまり、株を売りたくてもほとんど持っていなかったため、金利上昇で含み損を抱えた国内債券を売ることになり、損が出たということです。
外貨建て保険と円建て保険の違い
業界関係者から「外貨建て保険の解約は多く聞くが、円建て保険の解約はあまり耳にしない」という指摘がありました。実際、その通りであり、2022年ごろから外貨建て保険の解約が増えている一方で、円建て保険の解約はまだ大規模には発生していません。
外貨建て保険の解約と予測
外貨建て保険は、為替レートの変動によって解約の増減が起こりやすい特徴があります。円高になると新規契約が増え、円安になると解約が増える傾向があります。保険会社もこの動きをある程度予測しながら運営しており、外貨建て保険の解約自体が経営を大きく揺るがすケースは少ないと言えます。

さらに、保険会社側が円安時に契約者へ解約を勧め、新たな保険に乗り換えさせることで手数料を稼ぐビジネスモデルも指摘されています。そのため、外貨建て保険の解約は、保険会社にとってそこまで大きな問題にはなりにくいのです。
円建て保険の解約と予測
しかし、円建て保険の解約は話が異なります。円建て保険の場合、金利上昇の影響で解約の発生予測が難しく、対応が難しくなっています。
1980年の金利上昇局面との比較
1980年代の金利上昇局面においても、解約が増えたことがないわけではありませんでした。しかし、当時と現在では社会の状況が大きく異なっています。
まず、1980年代にはインターネットは存在しておらず、保険の銀行窓口販売が始まったのも2001年からでした。そのため、当時とは販売チャネル自体が大きく異なっています。さらに、保険会社が提供する商品のラインナップも今とは違っており、また、貯蓄性のある保険の競合となりうる投資信託なども状況が大きく異なっています。
このように背景が違うため、どのタイミングでどの程度の解約が発生するのか、予測するのが非常に困難だと言われています。
解約発生率に影響を与える要因
そうした中でも、解約の発生率に一定の差が生じる要因として、いくつかのポイントが指摘されています。
まず一つ目は、貯蓄性の高い保険ほど金利上昇時に解約が起こりやすいという点です。貯蓄性の高い商品であれば、金利上昇に伴い「新しい保険に入り直したほうが得だ」という状況が起こりやすくなります。
次に、契約者の年齢や金融リテラシーも解約に大きな影響を与えると考えられています。基本的に、契約者の年齢が若く、金融知識があるほど、「解約した方が得だ」ということに気づきやすくなり、解約が発生する確率が高まる傾向があると見られています。
販売チャネルによる違い
さらに、販売チャネルによっても解約発生確率が異なるとされています。例えば、セールスレディなどの営業職員によって販売された契約では、金利が上がった時に解約が発生する確率は比較的低いとされています。これは、営業職員を通じて契約した人たちの場合、「何かあれば担当者が連絡してくれるだろう」といった担当者任せのケースが多く、契約者自身が自ら有利・不利を調べたりしないことが多いためだと考えられています。
一方で、ネットなどを通じて販売された保険の場合、契約者が金利変動に非常に敏感だと見られており、金利上昇時には解約が発生しやすくなると考えられています。
実際の解約発生確率
ただし、これらの要素が実際にどの程度の解約発生確率につながるかについては、過去の経験がほとんどないため、データとして把握することができません。したがって、今後の解約発生については非常に不透明な状況だと言えます。
これらの要因が重なり、円建て保険の解約リスクは予測が難しく、生命保険会社にとって大きな課題となっています。
海外の対策
海外の保険会社では、大量解約のリスクに備えるため、「マーケットバリューアジャストメント(MVA:Market Value Adjustment))」という仕組みを導入しているところが多いです。MVAとは、市場環境に応じて解約返戻金を調整する制度であり、金利上昇局面での過剰な解約を抑制する効果があります。

しかし、日本では過去に金利上昇を経験したケースが少なく、このような仕組みを導入している保険会社は限られています。そのため、今後の金利水準によって、どの程度の解約が発生し、どの保険会社が損失を被るのかは極めて不透明な状況です。
保険に関する一考察
私は、現在の状況で保険の解約を煽るつもりはありません。しかし、日本人は一般的に保険に入りすぎている傾向があると考えています。保険は「最悪の事態に備える」ものですが、すべてのリスクをカバーしようとすると、保険料負担が大きくなりすぎます。また、保険契約時に想定した未来の経済状況が、その通りになることはほとんどありません。
例えば、20年後に万が一のことがあった際、保険金1,000万円を受け取る契約をしていたとします。しかし、毎年3%の物価上昇が続けば、20年後には1,000万円の価値は現在の約半分になります。5%のインフレならば、価値は3分の1になります。つまり、長期的に見ると「今の保険金額で十分か」という疑問が生じるわけです。
一方で、保険の掛けすぎも問題です。リスクに備えようとするあまり、過剰な保険料を支払ってしまい、その分の資金を自由に使えなくなるケースもあります。現在、日本の保険会社の運用資産は400兆円を超えており、それだけ多くの人が保険に資金を投じてきたことを意味しています。
ご参考
生命保険会社をはじめとする国内機関投資家は、含み損を抱えた国債をなるべく売りたくないと考えています。しかし、年度内に売却して損失を計上すれば、他の利益と相殺することが可能になります。
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