生命保険会社の国内債券含み損拡大の影響
先日、地銀の国内債券含み損が拡大している件について解説しました。この記事では、生命保険会社の国内債券含み損拡大の影響について取り上げます。
地銀の含み損は2024年12月末時点で1.9兆円でしたが、生命保険会社は国内系13社で合計10兆円にも達しており、桁が一つ違う規模となっています。この金額の大きさを見て、「生命保険会社は大丈夫か」と不安に感じる人も多いかもしれません。
しかし、単純に含み損の額だけを比較して、生命保険会社の方が問題だと判断するのは適切ではありません。なぜなら、持っている資産の規模やリスク許容度が銀行とは異なるためです。その違いを詳しく解説します。
生命保険会社と地銀の違い
まず、資産規模を比較してみると、日本最大の生命保険会社である日本生命の総資産は約90兆円です。一方、地銀で最大規模の横浜銀行の総資産は約23兆円しかなく、規模が大きく異なります。
資産全体に占める債券の割合や、その影響度も考慮する必要があります。
リスク許容度の違い
リスク許容度についても大きな違いがあります。
地方銀行は短期の預金を元に運用しているため、預金者が資金を引き出せばすぐに対応しなければなりません。
一方、生命保険会社は長期の保険契約をもとに資金を集めています。例えば、30年の保険契約で資金を集めていれば、30年間の運用を見越して資産を管理できるため、短期的な金利変動による影響を受けにくいのです。このような違いから、生命保険会社の方がリスク許容度が高いと言えます。単純に含み損の金額だけを見て「危ない」と判断するのは早計でしょう。
含み損の影響
債券の含み損は「売却しなければ実現損にはならない」という点が重要です。この点については地銀も生命保険会社も同様で、基本的に運用資産をすぐに売却する必要がなければ、大きな問題にはなりません。
地銀では、有価証券の保有目的として以下の3つがありました。
満期保有目的(満期まで保有するため、市場価格の変動は関係ない)
売買目的(短期的な売買を目的とし、時価評価の変動が損益に反映される)
その他(上記のいずれにも当てはまらず、評価損益は貸借対照表の純資産に計上)
生命保険会社にはこれに加えて「責任準備金対応債券」という、保険会社特有の保有目的が存在します。これは満期保有目的と同様に帳簿上は簿価で管理されるため、市場価格が変動しても、すぐに損失として計上されるわけではありません。
含み損の問題
生命保険会社が債券を売らざるを得なくなる状況とはどのようなものでしょうか。
その一つが保険の解約です。金利が上昇すると、過去に契約した保険よりも新しく契約した方が保険料が安くなるケースがあります。そのため、一部の契約者が古い保険を解約し、新しい保険に入り直すことで解約が増加する可能性があります。
金利上昇時の保険の解約
例えば、生命保険会社が30年の契約に対応するために30年物の債券を購入 していたとします。しかし、契約者が10年目で解約してしまうと、残りの20年分の債券を売却し、解約の支払いに充てなければならないケースが発生するのです。
もちろん、保険会社はある程度の解約リスクを想定してキャッシュを保有 しています。しかし、急激な金利上昇は保険会社の予測を超えている可能性があり、想定以上の解約が発生すると、保有債券を売却せざるを得ない状況に陥る可能性もあります。
金利が上がってきて保険の解約が増えてくると、その保険の支払いのために保有していた責任準備金対応債券を売らなければならなくなります。これが金利上昇の中で生命保険会社が最も苦しくなる状況です。
保険会社の株式資産によるリスク分散
大手の生命保険会社は大量の日本株を保有しており、それがリスクヘッジになっているという点も重要です。例えば、日本生命は2024年9月末時点で国内債券の含み損が2兆円超でしたが、国内株の含み益が8兆円以上ありました。つまり、仮に債券を売らなければならない状況になっても、株式を売却すれば損失を相殺できるというわけです。
これは、生命保険会社が昭和の時代から日本の大企業の大株主であったことが関係しています。例えば、企業の内部に営業職員(レディ)を送り込み、保険を販売するために企業の株を大量に保有してきた歴史があります。これにより、多くの保険会社は現在でも大量の日本株を保有しており、その含み益を利用できる状況にあります。
レディというビジネスモデルの確立により、日本での生命保険契約が急増したと考えられています。
カタカナ生保との違い
ただし、すべての生命保険会社が同じ状況にあるわけではありません。特に「カタカナ生保」と呼ばれる比較的新しい生命保険会社は、株式をほとんど持たず、債券中心の運用を行っているケースが多いため、より厳しい状況にあると考えられます。
本来、生命保険会社の運用はALM(資産負債管理)の考え方に基づき、円建ての保険契約には円建ての長期債で運用するというのが基本でした。そのため、リスクを抑えるために株式をあまり持たずに、国内債券中心で運用してきた会社も多いのです。
しかし、今回のような急激な金利上昇により、こうした運用戦略のリスクが顕在化しています。2024年9月の決算では、ソニー生命が有価証券売却損を計上しており、今後もカタカナ生保を中心に厳しい状況が続くと予想されます。
ソニー生命の国内債券売却の背景
では、なぜソニー生命は国内債券を売らなければならなかったのでしょうか。金利が上がってきたことで保険を解約する人が増え、その結果、払い戻しに対応するために、キャッシュが必要となったからです。
まとめと今後の動向
生命保険会社の国内債券含み損は10兆円に達していますが、資産規模やリスク許容度を考慮すると、単純に「危険だ」と判断するのは早計です。特に、大手生命保険会社は株式の含み益を活用することでリスクを分散できるため、影響は限定的と考えられます。
一方で、カタカナ生保などの株式をあまり持たない保険会社は、金利上昇による影響をより強く受ける可能性があり、引き続き注意が必要でしょう。今後も金利動向や保険契約者の行動に注目が集まるでしょう。
ご参考
財務の健全性を正しく把握するためには、貸借対照表や損益計算書だけでなく、注記情報にも目を向けることが大切です。
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