見出し画像

高市総裁誕生とマーケットの反応と投資家心理


 2025年10月6日、高市氏が自民党総裁選で勝利したことを受けて、マーケットでは大きな動きがありました。円と長期国債が急落する一方で、日本の株式市場は大幅高となり、日経平均株価は2,000円を超えて上昇しました。まさに市場全体が「新しい政権によって何かが変わる」という雰囲気に包まれた一日でした。国債市場を見ると、10年国債の利回りはほとんど動いていないものの、2年債利回りは0.03%低下し、逆に30年債利回りは0.13%上昇して3.5%を突破しました。つまり、短期債が買われて長期債が売られる「ツイストスティープ」と呼ばれるイールドカーブの変化が起きています。

出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ

 こうしたツイストスティープは、金融政策が緩和的になる一方で、積極的な財政政策が行われる場面でよく見られる動きです。まさに、緩和と財政出動の両輪を想定したマーケットの反応と言えるでしょう。

アベノミクスと似た市場の動き

 ただし、私はこの状況を見て「世の中が劇的に変わる」とまでは言えないと考えています。

 なぜなら、今の市場の動きそのものが、アベノミクス初期と非常によく似ているからです。緩和的な金融政策によって円安が進み、輸出企業などの大企業が利益を拡大し、それが株価の上昇につながる、当時の流れと同じ構図です。高市氏の政策はもともとアベノミクスに近いと見られていました。したがって、このような反応は市場としてもある程度織り込み済みだったはずです。言い換えれば、マーケットは「アベノミクスの再来」を歓迎しているわけです。
 とはいえ、アベノミクスにも良い点と悪い点がありました。高市氏もその点を十分理解していると思います。ですから、高市氏は安倍政権時代の経験を踏まえた上で、どのように課題を克服していくかが焦点になります。しかし現時点では、その政策の中身がどのようにアップデートされるのか、まだ見えてきていないのが実情です。

アベノミクスの課題

 アベノミクス時代を振り返ると、確かに円安・株高は実現しましたが、賃金は思うように上がりませんでした。「賃金と物価の好循環」と言われたものの、実際にはその好循環は生まれず、異次元緩和が長期化しただけに終わった面があります。
 この経験を踏まえた上で、高市政権がどのように賃金上昇を持続させ、物価上昇と結びつけるのかが極めて重要です。7月のデータを見ると、賃金上昇率は前年比プラス4.1%と物価上昇率を上回っています。春の賃上げが大きな要因でしたが、来年以降もこれが続けられるかというと、かなり厳しい状況です。特に中小企業には、賃上げを続ける余裕がほとんどありません。
 企業の利益を増やすだけの政策では、賃金上昇は限界があります。ですから、高市政権が安倍政権の焼き直しに終わるのか、それとも賃金・物価の構造的な改革に踏み出すのか。その違いが、今後の評価を大きく分けることになるでしょう。

日銀との関係と金融政策の行方

 次に注目されるのは、日銀との関係です。現在の日銀総裁は岸田政権時代に就任した植田総裁です。アベノミクスの初期とは異なり、今回は政権発足時に総裁が交代するわけではありません。当面、総裁が続投する見込みです。

植田総裁の下でETF購入が再開されることはなく、今後はむしろ売却を増やしながら、非伝統的緩和策からの出口を丁寧に探っていく流れが続くと見られます。

日銀のETF購入の歴史と売却開始の背景

 したがって、高市首相と植田総裁という「考え方の違う二人」が協調していく必要があります。黒田総裁時代のような“政権主導の日銀”にはなりにくい一方で、政権側の意向を無視することもできません。つまり、日銀としては金融引き締めをやりづらくなる構図が見えてきます。
 もっとも、アベノミクス時代のような極端な金融緩和に戻るとは考えにくいです。ただし、利上げや国債買い入れ縮小などのペースは緩やかになるでしょう。

マーケットの過剰反応と投資家心理

 個人的には、今回の市場の反応はやや過剰だと感じています。

 というのも、今回の値動きの背景には「ポジション調整」の要素が強いと見られるからです。総裁選前の段階では、小泉氏が勝つ可能性が高いと見られていました。小泉氏が勝てば、岸田政権の政策が継続すると予想され、投資家はリスクを取りづらい状況にありました。しかし、結果的に高市氏が勝利したことで、リスクを再び取らないと「マーケットに置いていかれる」という心理が働きました。そのため、先物を中心に買いが入り、指数が急上昇したと考えられます。
 こうした動きは、一日や二日では終わらないことが多く、機関投資家がリスクを徐々に増やしていく過程で、しばらく株式市場が強含む可能性もあります。もっとも、今回の上昇で買われた銘柄が、本当に高市政権の政策によって業績を伸ばす企業なのかはまだ不明確です。短期的な思惑買いが中心で、実態を伴っていない部分も多いでしょう。

政策の中身が問われる

 つまり、今回の上昇は「期待先行型」であり、高市政権の実際の政策次第で、今後の株価の方向性は大きく変わっていきます。今はまだ不透明な部分が多いものの、富裕層・中小企業・労働者、それぞれがどのような恩恵を受けられるのか。そこが具体的に見えてきた時、初めて市場も本格的に評価を下すことになるでしょう。
 この記事では、高市氏が自民党総裁選で勝利したことを受けて、10月6日のマーケットがどのように動いたのか、そしてその背景にある経済政策や市場心理について説明しました。今後の政策展開と市場の反応に引き続き注目していきたいと思います。


ご参考

過去に安倍元首相が日銀は政府の子会社であると述べたこともありました。

法令に見る日銀と政府の関係

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー