日銀のETF購入の歴史と売却開始の背景
日銀が保有するETF(上場投資信託)を売却していくことを決定しました。年間で簿価ベース3,300億円、時価に換算するとより大きな金額になります。しかし、このペースで売却を続けても、すべてを売却し終えるには100年以上かかると見られています。
これについて「そもそもなぜ日銀はETFを買っていたのか」、「なぜ売らなければならないのか」、「これは利上げの代わりなのか」といった質問が多く寄せられています。そこでこの記事では、日銀のETF購入と売却の経緯、そして今後の見通しについて整理します。

ETF購入の始まりと背景
日銀がETFを購入し始めたのは黒田総裁の時代という印象を持っている方が多いかもしれませんが、実際には2010年、白川総裁の時代に始まりました。
背景にはリーマンショック後の深刻な景気後退がありました。為替は1ドル80円台の円高、デフレ圧力も依然強く、すでにゼロ金利政策や国債購入といった金融緩和を実施していましたが、「中央銀行に他にできることはないのか」という議論が高まっていました。その中で、中央銀行がリスク資産である株式を購入するという異例の金融緩和策が、一時的な措置として導入されたのです。
黒田総裁時代の拡大とその効果
このETF購入政策は当初から異論も多くありましたが、2013年に黒田総裁が就任して以降、大規模に拡大されていきました。その結果、日銀は日本企業の大株主となり、「非効率ではないか」、「出口戦略は大丈夫か」といった懸念が繰り返し指摘されました。
日銀自身も政策効果を検証しており、2021年には「ETF買入れが株式市場のリスクプレミアムに与える影響」というレポートを公表しました。リスクプレミアムとは、投資家がリスク資産に求める追加的な利回りのことです。リスクが高い企業には高い利回りが求められるため、株価は安くないと投資が進みません。日銀のETF購入は、このリスクプレミアムを人為的に押し下げることで投資を促すという政策でした。分析の結果、「リスクプレミアムを押し下げる効果があった」と結論づけられています。

ETFの買い入れ終了とその理由
では、なぜETFの買い入れをやめたのか。日銀は2024年3月に、「2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現する見通しとなった」として、ETF買い入れの終了を決定しました。一定の効果があった政策であり、それが必要な状況が終わったという説明です。
ただし、これはあくまで表向きの説明でもあります。ブルームバーグの記者が「今後景気が悪化した場合、再びETFを購入するのか」と質問した際、植田総裁は「今のところ考えていない」と端的に答えました。つまり、たとえ景気が悪化しても、植田体制の下ではETF購入を再開することはないと明言したわけです。
政治との関係と総裁の違い
ETF政策の是非は、金融だけでなく政治とも深く関係しています。黒田総裁は安倍政権の下で任命され、大規模な非伝統的金融緩和を進めるリフレ派と呼ばれる立場でした。一方、植田総裁は岸田政権によって選ばれ、従来型の伝統的政策に戻す方針を取っています。そのため、非伝統的緩和を続けるよりも、着実に元へ戻す路線を歩んでいるのです。
過去に安倍元首相が日銀は政府の子会社であると述べたこともありました。
どちらが正しいかは簡単に判断できず、政治の影響を強く受けます。ただ、こうした背景を踏まえると、植田総裁がETF再購入に踏み切ることは考えにくいでしょう。
植田総裁の運営スタイルとこれまでの実績
植田総裁は2023年4月の就任以来、「緩和は続ける」と慎重な発言を繰り返しつつ、実際にはイールドカーブコントロール(YCC)の終了、利上げ再開、国債買い入れ減額、そして今回のETF売却と、非伝統的政策の修正を着実に進めてきました。その姿勢は、派手さを避けつつも確実に方向転換を行うものです。
2016年、日銀はマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入しました。その結果、10年国債の利回りがマイナスになるという異常な状況が生まれました。
今回のETF売却についても、簿価ベース年間3,300億円という小規模なスタートで「100年以上かかる」と言われていますが、植田総裁が本気で正常化を進めるつもりであれば、状況を見ながら売却規模を拡大していく可能性は高いと考えられます。市場に過度なショックを与えず、丁寧に進めるスタイルがこれまでの一貫したやり方だからです。
日銀のETF売却は年3300億円ということで、たいした額ではない。1日で2000億円買ってたときもあるんだから。でも、いずれ売却額は増えていくだろうね
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) September 19, 2025
今後の見通し
以上のように、日銀のETF売却は単なる資産処分ではなく、過去の政策の総括であり、金融政策の正常化へ向けた流れの一環です。背景にはリーマンショック後の異例の政策導入、黒田時代の大規模拡大、そして植田時代の段階的正常化という歴史的文脈があります。
表向きには「物価目標の達成による終了」と説明されていますが、実際には政治的背景や総裁の考え方の違いが大きく影響しています。植田総裁の下でETF購入が再開されることはなく、今後はむしろ売却を増やしながら、非伝統的緩和策からの出口を丁寧に探っていく流れが続くと見られます。ETF売却は100年単位の話とされつつも、実際にはより早いテンポで進められる可能性もあるでしょう。市場との対話を重視しつつ、少しずつ政策を正常化していく姿勢が、今後の日銀の大きな特徴になっていくはずです。
ご参考
日本の金利上昇と世界への影響
中には、「日本の財政不安が世界の債券市場を不安定化させている」と主張する声もありました。自分たちの国のことを棚に上げて何を言っているのかと思いますが、欧米の一部投資銀行のエコノミストやストラテジストもそうした論調を取っている例があります。
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