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日本のベンチャー投資意思決定が遅い構造的理由


 先日シンガポールで開催されました投資家向けイベントで、元サッカー日本代表の本田圭佑氏が「日本の投資家の意思決定は遅すぎる」と発言したことがメディアで広く取り上げられました。この記事ではこの本田氏の発言について、サッカーの話ではなく、ベンチャー投資や企業経営に関わる部分を中心に私の考えをお伝えします。

本田圭佑氏が語る「日本企業の意思決定の遅さ」とは

 ブルームバーグなどの報道によりますと、2025年11月14日に日本取引所グループなどがシンガポールで開催したイベントで、本田圭佑氏は登壇者としてスピーチを行い、日本企業は依然として意思決定のスピードが遅いと指摘しました。特に伝統的な企業ほど判断が遅いと述べたとのことで、これについては多くの方が「確かに」と感じる部分があるのではないでしょうか。

本田圭佑氏の投資家としての側面

 本田氏について簡単に触れておくと、1986年生まれの39歳。サッカー日本代表として世界の舞台で活躍した後、カンボジア代表監督を務めるなど、従来の枠を超えた活動を続けてきた人物です。そして現役時代からすでにベンチャー投資を行ってきたことで知られています。
 日本では長年「有望なベンチャー企業が少ない」と言われ続けてきましたが、その背景にはベンチャー投資を行う投資家自体がアメリカなどに比べて圧倒的に少ないという構造的問題もあります。本田氏はこうした状況に対して「日本はまだこんなものではダメだ」と辛口の意見を述べてきた経緯があります。

日本企業の意思決定はなぜ遅いのか

 本田氏が指摘する「意思決定の遅さ」については、多くの方が肌感覚として理解できるのではないでしょうか。ただ、これは単なる企業文化の問題ではなく、日本とアメリカの金融システムそのものの違いに根源があると私は考えています。

 日本は長年、銀行が企業に資金を提供する「間接金融」を中心として発展してきました。事業を行いたい企業に資金を提供するのは銀行であり、銀行は徹底的な調査と慎重な判断を経なければ融資を実行しません。一方、アメリカでは、個人投資家やファンドが直接企業に投資する「直接金融」が発展してきました。特にベンチャー投資では、事業で成功した富裕層が自らの資金で若い起業家を支援してきました。これがいわゆるエンジェル投資家です。エンジェル投資家は誰の許可も必要なく、自分の資金なので意思決定が極めて速いという特徴があります。

日本とアメリカの資金調達方法の違い
 アメリカでは、企業の資金調達に直接金融が主流で、投資家が企業を支える形になっています。これに対し、日本は銀行を介した間接金融が主流で、銀行が企業のモニタリング機能を担っています。
 この違いから、アメリカではファンドが日本以上に重要な役割を果たしており、空売り投資家の存在もその一環といえます。

空売り投資家に見る日米資金調達方法の違い

日本のベンチャー投資が遅い構造的理由

 1990年代以降、日本でも「ベンチャー投資を活性化させよう」という取り組みが進められてきました。しかし日本にはアメリカのような個人エンジェル投資家がほとんどいません。その結果、大企業や金融機関がファンドを作って投資を行う形になりました。ところが大企業が作ったファンドでは、投資判断に失敗すると株主から責任追及されるため、意思決定がどうしても慎重になり、大胆な判断ができません。これが「日本のベンチャー投資は遅く、保守的すぎる」と長年言われてきた理由です。
 実際ベンチャーキャピタルが投資する案件が大企業のような安定した企業に偏り、ファンドリターンが株式市場と連動する傾向があるといった指摘が専門家からも挙がっています。日本版ベンチャーキャピタルはオルタナティブ投資としての特性が弱く、本来求められるリスクテイクが不足しているという構造的問題が存在しているのです。

意思決定の速さは善か悪か

 近年では「創業者が意思決定を行う企業の方が経営効率が高い」という考え方が強まっています。ソフトバンク、ファーストリテイリング、海外ではテスラやNVIDIAといった企業がその象徴です。創業者が自ら意思決定を行うことでスピード感と大胆さを両立させる経営が実行され、その結果として高い株価上昇率につながったという事例もあります。
 
ただしこれはあくまで直近10年ほどのトレンドであり、創業者主導の企業は環境が悪化した時に一気にリスクが顕在化するという側面もあります。したがって「速い意思決定=常に正しい」と単純化するのは危険であり、時代や市場環境によって最適な経営スタイルは変化していくでしょう。

日本のベンチャー投資はここからどう変わるか

 本田氏のように、自ら事業で成功し、かつ発信力もある個人投資家が増えていくことは、日本のベンチャー投資市場にとって大きなプラスです。日本でも数百億円規模の資金調達が登場するようになり、市場が徐々に育ってきているところです。本田氏自身も100億ドル超えの企業、いわゆるデカコーンを日本から生み出すことを目標に活動されているとのことで、こうした動きが日本の投資文化を大きく変える可能性があります。

出所)ifinance.ne.jp

おわりに

 私は本田氏のYouTubeチャンネル「EDO ALL UNITED」でのサッカー指導の様子もよく拝見しています。動画を見ていると、枠にとらわれない挑戦や、若い世代に投資する姿勢が非常に印象的です。
 今回のテーマは、日本企業の意思決定の遅さという少しシビアなものではありましたが、本田氏の発信をきっかけに、日本の投資環境や意思決定のあり方が今後さらに改善していくことを期待しています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 M&Aはスピードが非常に大切な取引です。判断が遅いと他の企業に買収されることもありますし、時間がかかりすぎるとビジネスのトレンドが変わり、企業価値が下落してしまうこともあるわけです。

海外と日本のM&A事情の違い(GoogleのYouTube買収の振り返り)

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