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外貨準備での「円売りスイスフラン買い」の動き


 最近、世界の政府や中央銀行が保有する外貨準備において、日本円を売ってスイスフランを買う動きが広がっているということで話題になっています。外貨準備というのは、為替介入などのために各国政府が持っている外貨のストックであり、世界の主要通貨で運用されているものです。
 日本円の保有を減らし、スイスフランを増やすという流れが出てきているというわけです。一方で、スイスの方もあまりに通貨高が進んでしまったことで、中央銀行が再びマイナス金利に踏み切る可能性すら出てきています。この記事では、この「円売りスイスフラン買い」の背景と影響について、解説します。

出所)Bloomberg【2025/7/11】

安全資産としての円とスイスフラン

 日本円とスイスフランは長らく「安全資産」とみなされてきた通貨です。いわゆる「有事の円買い」という言葉もあり、何かリスクイベントが起こると、円が買われて円高になるというのがかつての定番の動きでした。スイスフランも同様に、リスクオフの時に買われやすい通貨として評価されてきました。東の日本、西のスイスといった形で、世界中の投資家が安全資産を分散保有する際の二本柱だったと言えるでしょう。

 その背景には、両国が経常収支黒字国であることや、潤沢な対外純資産を保有していることがありました。特にスイスに関しては、中立国としての政治的安定性も影響していたと考えられます。

 対外純資産と経常収支は密接に関係しています。海外で稼ぐ力が弱くて、どんどんお金が外に出ていくような状況だと、対外資産もなかなか増えないということが起こりがちです。

メディアが報じない日本の対外純資産

日本円が安全資産でなくなりつつある理由

 しかし、ここにきてその認識に大きな変化が生まれています。実際の為替相場を見てみると、以前ほど円がリスクオフで買われるということがなくなってきたという印象を持っている人も多いでしょう。2025年に起こった中東情勢の混乱でも、円よりスイスフランの方が買われました。
 
この背景としては、中東のエネルギーに依存している日本への影響がより深刻と見られたこともあるでしょうが、いずれにせよ、スイスフランが安定して上昇しているのは事実です。為替チャートを見ても、対円でスイスフランがずっと強くなってきているのが確認できます。

出所)Bloomberg【2025/7/11】

 このように、「日本円はもはや安全資産ではなくなってきているのでは」という声は前から出ていました。

経常収支の構造変化

 ではなぜ、かつての安全資産だった日本円の評価が変わってきているのか。その大きな理由として、日本の経常収支の構造が変化してきたことが挙げられます。
 
かつては、貿易黒字が経常黒字の中心でした。モノを輸出し、外貨を受け取って、それを円に換えるという実需の動きが円高要因になっていたのです。しかし、2010年頃から日本の経常黒字は、貿易ではなく投資収益によって支えられる構造に変わってきました。つまり、貿易赤字を海外投資による証券収益で補っているわけです。ところが、証券収益は再投資されることも多く、為替市場での円買いには直結しにくい。これが、円が買われにくくなった理由の一つと考えられます。

デジタル赤字

 さらに近年では、デジタル赤字という概念も注目されています。YouTubeやGoogle、Meta(旧Facebook)、MicrosoftなどのアメリカIT企業のサービスを日本が利用することで、海外への支出がどんどん増えている。これも日本の経常収支構造に影響を与えていると見られています。

金利差と為替の動き

 また、為替相場が金利差だけでは説明できなくなってきているという傾向が見られます。これもやはり、日本の経常収支構造の変化が関係していると考えられています。こうした背景の中で、世界の一部の政府が日本円を売ってスイスフランを買うという動きを強めているわけです。

外貨準備の動きと日本円の評価

 とはいえ、外貨準備におけるこうした動きだけを見て、「日本円は終わった」というような判断を下すのは早計だと考えています。外貨準備というのは、そもそも中国、日本、スイスといった一部の国が極端に大きなシェアを持っています。
 例えば、中国だけで世界の外貨準備の1割程度を保有しており、彼らが少し動かしただけで市場全体に大きな影響が出てしまうというのは注意すべき点です。今回のスイスフラン買いの動きも、ある程度はそうした大口の動きに影響されている可能性があります。

通貨高のリスク、安全資産の宿命

 さらに言えば、安全資産とされること自体が必ずしも良いことではないという点も忘れてはいけません。日本はかつて、安全資産とされていたことで、世界で何かが起こるたびに急激な円高と株安、デフレ圧力に悩まされてきました。リーマンショック(2008年)や欧州債務危機(2010年代)の時には、円が急激に買われ、その結果として輸出企業に大打撃を与える円高が発生。
 ドルベースで見た時に株価も割高となり、外国人投資家が日本株を売る流れも加速しました。この悪循環に対応するために、日銀は長らく緩和的な金融政策を続けざるを得なかったという経緯があります。

通貨高で苦しむスイスの現状

 今、その安全資産の立場を一手に担うようになっているのがスイスです。あまりに通貨高が進んだことで、スイス国立銀行(SNB)は再び金融緩和を強めざるを得ない状況に追い込まれています。
 
世界的にインフレが進んだ2022年から2023年にかけて、アメリカFRBが政策金利を5.5%まで、ECBも4.0%まで引き上げる中、スイスの政策金利はピークでも1.75%に留まりました。そして2024年からは段階的に利下げを実施し、2025年6月19日にはとうとうゼロ金利に戻り、今後は再びマイナス金利に入る可能性すら出てきています。ここまでしなければならないのは、通貨高が国内産業を圧迫しているためです。

日本円の普通の通貨化をどう捉えるか

 そう考えると、日本円が安全資産としての位置付けを外れつつあるということは、必ずしも悪いことではありません。スイスのように安全資産として評価されすぎると、通貨高という別の苦しみを背負うことになります。日本は長らくこの安全資産としての宿命に苦しんできました。円が普通の通貨として認識されるようになることで、今後はよりバランスの取れた金融・為替環境を作っていける可能性もあります。

 もちろん、今後通貨安が加速しすぎればそれはそれで問題ですが、今はその転換点にあるということなのかもしれません。

地政学的要因にも注目

 この通貨の話には地政学的な論点も数多く含まれています。為替は金利や経常収支だけで決まるものではなく、安全保障、国際関係、軍事リスクなども影響します。この辺りについて、機会があれば改めて解説したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

NATOが国防費の目標をGDP比5%とすることを決定しましたが、それによって西側諸国で国防費が急増し、それを国債で賄う動きが強まっています。

日本のトリプル安と選挙と長期国債の利回り上昇

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