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日本のトリプル安と選挙と長期国債の利回り上昇


 日本のマーケットがトリプル安になっている件について話してほしいというリクエストを多数いただいたので、解説します。実際のところ「トリプル安」というほどの状況かというと、個人的にはそこまでではないとも思っていますが、確かに株価、債券、為替の3つがそろって軟調な展開にはなっています。
 
株に関しては2025年7月8日にやや戻す動きが見られましたが、先週末の時点では下落傾向にありました。そして債券市場では特に長期債の利回り上昇、つまり価格の下落が目立つ展開となっています。この記事ではその中でも特に、債券市場で何が起きているのかについて、詳しく説明します。

長期債利回りの上昇と背景にある政治リスク

 まず、直近の金利の動きを押さえておきましょう。10年国債の利回りは、7月4日時点で1.435%だったのが、7月8日15時の時点で1.490%に上昇しています。30年債に至っては、2.865%から3.060%と、0.2%近い急上昇となりました。一方、2年債については、0.735%から0.730%へと、むしろわずかに低下しています。つまり今、日本のマーケットでは長期債だけが売られる、という展開が見られているわけです。

 ではなぜ長期債だけが売られているのかというと、参院戦の結果次第では自民党が大きく議席を減らす可能性があり、そのシナリオが市場で織り込まれつつあることが背景にあるようです。
 現在、自民・公明以外のほとんどの政党が減税を公約に掲げています。そうなれば、将来的に国債発行額が増える可能性があるということで、それを先読みする形で市場は動いているというわけです。

出所)総務省

長期債が売られる理由

 仮に国債発行が増えるとして、なぜ長期債ばかりが売られるのか。これは最近の長期債の需給環境の変化を踏まえる必要があります。近年、日本の生命保険会社など機関投資家の資産・負債構造の変化によって、超長期債へのニーズが減少してきています。過去30年ほど、生命保険業界を中心に超長期債には旺盛な需要がありましたが、およそ2年前からその傾向が急激に変化しています。

 YCC終了と利上げの進行により、もはや投資家は無理に長期債を買う必要がなくなっています。そのため、超長期ゾーンでは需要が減少し、利回りが上昇しているというのが現状です。

超長期債の利回り急騰は財政危機の兆候か

 さらに今、日銀は段階的に国債の買入れを減らしています。そうした影響もあって、超長期ゾーンの国債の需給バランスが大きく崩れてきているわけです。そもそも超長期債というのは価格変動リスクが非常に高く、たとえば2020年春のコロナショック時に発行された40年債は、価格が5割程度下落しているものもあります。

財務省と日銀の対応

 6月に入ってマーケットが不安定になり始めた中で、まず動いたのは財務省です。国債の発行額の調整を行い、長期債の発行額を減らし、中短期債など投資家層の広いゾーンを増やす方針をとりました。

 このような柔軟な対応をすぐに財務省が取るとは思われていませんでしたが、意外にも素早く動いたのは、近年のデモや批判を受けて「財務省はしっかり仕事をしている」と世論にアピールする意図もあったのかもしれません。

財務省の長期国債利回り急上昇への対応

 さらに日銀も、6月の金融政策決定会合で、現在の四半期4,000億円ペースから2026年4月以降は2,000億円ペースへと、国債の買入れを減らしていく方針を示しました。これらは証券会社や機関投資家へのヒアリングを通じて決定されたもので、日銀と財務省が連携して対応した結果でした。そのおかげで6月にはいったん長期債利回りは落ち着きを取り戻していたのですが、ここにきて選挙結果をめぐる不透明感から再び長期債が売られる展開となっているというわけです。

長期金利上昇と世界の防衛費問題

 私は今の長期金利の上昇は、やややりすぎなのではないかと思っています。確かに物価上昇率が3%を超えている中で、30年債利回りが3.2%という水準にあっても、売られすぎとは言えないという意見もあるでしょう。しかし、日本の場合、政策金利がまだ0.5%、10年債利回りは1.5%程度です。金利の構造を考えると、30年債の利回りがここまで開いているのは行き過ぎとも見えます。

 そして、この財政拡大と長期金利の上昇というテーマは、実は日本だけでなく世界的にも同様です。先日NATOが国防費の目標をGDP比5%とすることを決定しましたが、それによって西側諸国で国防費が急増し、それを国債で賄う動きが強まっています。こうした中、長期債の利回りはどの国でも上昇傾向にあります。

保険会社の動向とヘッジファンドの動き

 7月7日には、明治安田生命が長期国債の購入に慎重姿勢を取るという記事が日経新聞に掲載されました。元々長期債の買い手であった機関投資家が今は距離を置いており、代わりにヘッジファンドなどがこの高いボラティリティを狙って積極的に売りを仕掛けている状況です。

今後の見通し

 このように世界的な財政拡大と長期金利の上昇という流れの中で、日本でも選挙をきっかけに長期債が売られているというのが現状です。ただし、私は選挙後に長期債の発行が急増するような展開はないと見ています。仮に減税を掲げる政党が躍進したとしても、財務省としては長期債の需給悪化を避けたいため、中短期債の発行へとシフトするはずです。

 実際、アメリカもそのようにして短期債の発行を増やしています。長期債の需給悪化を過度に懸念するのは、やや行き過ぎなのではないかというのが私の見方です。そして選挙後には、財政拡大を掲げた政治家たちもマイルドな発言に転じていくでしょう。これは、財政拡大のプラス効果をなるべく活かしつつ、マイナス効果を抑えるために重要な戦略だからです。いわゆる「クラウディングアウト効果」を最小限にするための調整とも言えます。

クラウディングアウトとは、国債を多く発行すると金利が上がるというものである。

衆議院

書籍発売のご案内

 最後に1つご案内です。先日からご報告していたとおり、本を出版することになったのですが、おかげさまで発売前に重版が決定しました。

 ご予約いただいた皆様、本当にありがとうございます。当初は「町の本屋さんには並ばないだろう」と申し上げていたのですが、出版社に確認したところ、主要都市の書店にはだいたい並ぶとのことです。私自身が一番驚いています。7月16日発売予定となっておりますので、書店で見かけた際には是非手に取ってみてください。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 それでも出版を決意したのは、これまでの活動の総まとめとして1冊の形でお届けしたいという思いがあったからです。

注目すべき欧州女性政治家と出版の話

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