英国スターマー政権の「PLAN FOR CHANGE」
2024年7月に発足したキア・スターマー政権。しかし、発足早々、支持率の低迷が目立っています。そうした状況の中、スターマー政権は「PLAN FOR CHANGE」と呼ばれる6つの優先政策項目を発表しました。
この記事では、この6つのプランについて詳しく説明しながら、イギリスの未来に迫りたいと思います。

1. 生活水準の向上
最初のプランは、イギリス全土での生活水準向上を目指し、G7で最高の持続的成長を実現するという野心的な目標です。具体的には、国民一人当たりの可処分所得やGDPを引き上げ、働く人々がより多くの賃金を得られる社会を目指しています。
これが実現すれば確かに素晴らしいことですが、具体的な実現方法が明確でない点が問題です。最低賃金引き上げなど低所得者への支援は進んでいるものの、規制緩和による経済成長の促進は目指しておらず、むしろ規制強化の方向に舵を切っています。加えて、最近は鉄道会社の国有化を進めるなど、「大きな政府」路線を取っており、経済成長の原動力となる民間の活力が抑えられる懸念があります。
このままでは賃金上昇がインフレを加速させ、経済成長にはつながらない可能性が高いと言えるでしょう。
2.住宅建設
次の目標は、5年間で150万戸の住宅建設です。移民の増加により住宅供給が追いつかず、家賃高騰やホームレスの増加が問題となっている現状を改善する計画です。
増税の可能性と経済への影響
イギリス国民は、政権交代して1ヶ月で早くも増税かと身構えています。一方、年間30万戸もの住宅建設は非常に大きな公共事業ですので、GDPを押し上げ、イギリス経済には一定程度プラスに働く面もあるでしょう。
ただし、年間30万戸という建設ペースは、過去50年間で達成されたことがないハードルの高い目標です。さらに、地方政府が主導するニュータウン計画では、土地選定や人材不足、ノウハウ不足が課題となり、大幅な遅れが懸念されています。民間による建設も計画通り進むことが少ないイギリスの現状を踏まえると、この目標達成は非常に困難でしょう。
3.国民医療サービスの待ち時間解消
イギリスの国民医療サービス(NHS)の改善は、スターマー政権の重要な公約の一つです。現在、764万人が医療サービスを待機しており、そのうち314万人が18週間以上待たされている状況です。
英国の国民保健サービスはNational Health Service、通称NHSと呼ばれています。
NHSは税金で運営されており、加入者は自己負担なく医師の診察を受けることができます。
労働党はスタッフ増員を進めていますが、高齢化が進む中で劇的な改善は難しいと見られています。また、リソースが限られる中で、リスクの高い患者を優先する仕組みを取っており、軽度の病気や若年層は医療を受けにくい現状があります。
NHSの構造的な課題はすぐには解決できない可能性が高いでしょう。
4.警察官の増員
スターマー政権は、新たに13,000人の警察官を採用し、イングランドとウェールズでの犯罪取り締まりを強化する計画です。ロンドンでは窃盗団の摘発が進むなど一定の成果が見られます。
市民生活に直接関わる政策として、治安改善が進むことは歓迎されますが、この分野でも財政負担が大きくなる点には注意が必要です。
5.未就学児の支援
教育面では、4~5歳の未就学児が通う「レセプション」の強化が進められています。イギリス政府のデータによれば、4人に1人がトイレトレーニングを済ませておらず、約半数がじっと座っていられない状況だといいます。
スターマー政権は教育の重要性を強調し、選挙期間中から増税を伴う教育支援の拡充を掲げています。しかし、教育への支出を増やす一方で、他の分野への影響を最小限に抑える財政運営が求められています。
6.脱炭素化
最後に、スターマー政権は2030年までに再生可能エネルギーの発電比率を95%以上に引き上げる目標を掲げています。2023年時点では再生可能エネルギーの比率は約51%であり、この目標達成にはわずか6年ほどで急激な転換を図る必要があります。
しかし、過去には再生可能エネルギーの普及で電力不足に直面した例も多く、不安定な状況が再び訪れる可能性があります。また、風力発電のコストが上昇している中、財政負担の増加や電気代の高騰が懸念されています。
まとめ:スターマー政権の課題
スターマー政権の「PLAN FOR CHANGE」は、いずれも重要かつ必要な課題を扱っていますが、実現性には大きな疑問が残ります。特に、財政状況が厳しい中で、野心的な目標を掲げる一方、具体的な施策が十分に明示されていない点が課題です。
2024年6月の選挙時点で、二大政党の政策内容は過去にないほど似通っており、政権交代による劇的な変化は期待されていませんでした。今後、スターマー政権がこの難局をどう乗り越えるのか、イギリス国民も世界も注目しています。しかし、現状では瞑想状態が続く可能性が高いと言わざるを得ません。スターマー政権の行方について、引き続き注視していきたいと思います。
ご参考
HSBCホールディングスは、香港がイギリスの統治下にあった時代に「香港上海銀行」として設立され、1991年にロンドンで持株会社として再編されました。
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