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中国がドル建て国債を発行した背景とその意味


 この記事では、中国がドル建ての国債を発行した件について解説します。中国といえば、ここ数年「脱ドル化」や「人民元の国際化」を進めているという印象が強いですが、その一方でドル建て国債を発行しているのはなぜなのか。この点に注目して説明します。

ドル離れを進める中国がドル建て国債を発行

 中国は2025年11月6日、ドル建て国債を総額40億ドル、日本円にして約6,000億円発行しました。中国は2024年にもサウジアラビア市場でドル建て国債を発行しており、今回は香港市場での発行です。内容としては、3年債が20億ドル、5年債が20億ドルで、需要は1,210億ドルも集まったと報じられています。

人民元の国際化が進んでいるとはいえ、依然として米ドルに取って代わるには多くの課題が残されており、それが実現するには長い時間がかかるでしょう。

中国のサウジアラビアでのドル建て国債発行理由

米国債とほぼ同じ利回りで買われる

 これほどの需要が集まったということで、「中国国債の利回りが高いのでは」と考える方も多いと思います。しかし、実際には3年債の利回りは米国債と同じ、5年債でも米国債よりわずかに0.02%高いだけでした。つまり、利回り水準はほとんど同じです。それでも多くの投資家が購入したということは、単に「高利回りだから買われた」というわけではありません。
 背景には、米国債自体の利回りが上昇し、米国の信用力が相対的に低下していることがあります。通常、最も信用力が高い国の国債ほど利回りは低くなるものですが、今のアメリカでは社債の利回りよりも国債の利回りの方が高くなっているという逆転現象が起きています。これは一部の新興国でも見られるような状況で、米国債の信用が以前ほど盤石でなくなってきているということを示しています。そのため、分散投資の観点から、中国国債を買う投資家が増えているということです。

中国がドル建てで国債を発行する理由

 では、なぜ中国は自国通貨の人民元ではなく、ドル建てで国債を発行するのでしょうか。これには大きく2つの理由があります。

 1つは、中国企業のための「指標づくり」という役割です。国際的に事業を展開する中国企業がドルで社債を発行する際、基準となる金利水準がなければ投資家が適切な利回りを判断できません。そうなると、投資家はリスクを見込んで高い利回りを要求するため、企業の資金調達コストが上がってしまいます。そこで、中国政府が定期的にドル建て国債を発行し、その利回りを指標とすることで、企業がドルで社債を発行しやすくなるのです。

 もう1つは、金融市場の発展を促すためです。国債というのは単に資金を集める手段ではなく、市場全体の金利水準を決定づける重要な存在です。日本でもかつて国債があまり発行されていなかった時代には、電電公社(現在のNTT)の社債が指標とされていたことがありましたが、やはり国債がある方が市場は安定します。そのため、資金に余裕がある国であっても、金融市場の整備を目的に国債を発行することがあるのです。

定期的な発行とその変化

 中国は2020年にも香港でドル建て国債を発行し、2024年にはサウジアラビア市場でも発行しました。ただし、ここ数年を見ると発行額は減少傾向にあります。2019年と2020年にはそれぞれ60億ドル、2021年には40億ドルを発行していましたが、2022年と2023年は発行がなく、2024年はわずか20億ドルにとどまりました。このことからも、中国政府としてはドル国債の発行には以前ほど積極的でない姿勢がうかがえます。

出所)Bloomberg

 それでも、完全にやめるわけにはいきません。人民元の国際化はまだ十分に進んでいないため、企業の資金調達を支えるためには、ある程度ドルの利用を続けざるを得ないのが実情です。そのため、今回の発行もドル圏市場での企業活動を円滑にするための実務的な判断だったと考えられます。

米中関係との関連性

 一部では「今回のドル建て国債発行は、米中の貿易摩擦が和らいだ結果ではないか」という見方もありますが、私はそうではないと思います。単に、定期的な発行を途切れさせると企業の資金調達コストに影響が出るため、技術的な必要性から行われたと考える方が自然です。今回の発行規模も過去の実績と比べて特段大きくはなく、政治的なメッセージ性よりも実務的な意味合いが強いと思われます。

海外投資家の人民元国債離れ

 一方で、中国本土の人民元建て国債については、海外投資家の保有が減少しています。2024年8月末時点で、海外投資家の保有額は約2兆1億元(約41兆9,000億円)と、2021年以来の低水準に落ち込みました。背景には、政治的な不安に加えて、中国国内の景気低迷による金融緩和の影響があります。国債利回りは2021年初めには3%台でしたが、現在は1.8%前後に低下しています。デフレ傾向にあるため当然の動きとも言えますが、利回りが下がると「リスクを取ってまで人民元で国債を買う必要がない」と判断する投資家が増えるのは自然なことです。

 こうした状況は、日本が「失われた30年」と呼ばれた時期に似ています。低金利によって海外投資家が日本の債券市場から離れていき、結果として市場の国際化が進まなかった時代です。今の中国でも、同じような現象が起こっているといえるでしょう。デフレ経済の中で人民元の国際化を進めるのは容易ではなく、今回のドル建て国債発行もその現実を映し出したものだと言えます。

ドル離れの限界と現実

 今回のドル建て中国国債発行は、脱ドル化を進めながらも、現実的にはまだドルに依存せざるを得ないという中国の立場を象徴しています。金融市場を維持し、企業が資金を調達しやすい環境を整えるためには、ドルという国際通貨を無視することはできません。理想と現実の狭間で揺れる中国の金融政策をよく表した出来事だったのではないでしょうか。


ご参考

中国政府がどのように財政政策と社会保障制度改革を両立させていくか、その手腕が試されることになります。制度改革が中国経済の長期的な安定につながるのか、それとも成長の重荷となるのか。

中国の社会保険料徴収強化と経済への影響

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