ロンドンの住宅不足とホームレス問題
この記事ではイギリス、特にロンドンにおけるホームレスの増加について取り上げます。経済というのは様々な側面を持っており、格差が広がる中で、ホームレスや低所得者層はますます厳しい状況に追い込まれています。GDPなどの経済指標を見ると横ばい、あるいは少し回復の兆しがあるのですが、ホームレスの状況を見る限り、回復とは言えない実情が浮き彫りになっています。
過去最多のホームレス
ホームレスに関するデータはいくつかの機関から出されていますが、中でも自治体や中央政府の統計局が発表している数字は、最も実態に即したものと考えられています。それによると、2024年時点でロンドンにおけるホームレスの数は18万3,000人。これは過去最高の数字です。
ただし、これらの人々が全員路上で生活しているわけではありません。多くはシェルターに入っていたり、友人の家を転々としていたりする、「住まいのない状態」にある人たちの総数です。
実際に屋根のない場所で生活している、いわゆる「ラフスリーパー(rough sleeper)」と呼ばれる路上生活者は、その中の一部に過ぎません。
増加するラフスリーパー
ラフスリーパーについては、シンクタンク「Centre for London」が2025年1月から3月にかけて調査を行っており、その数は4,427人とされています。これは2024年と比べて約8%の増加となっており、増加傾向にあることが分かります。

住宅不足と家賃の高騰
ホームレスの増加には、経済的な苦しさに加え、住宅が不足しているという構造的な問題も関係しています。移民の流入などによってイギリス全体、特にロンドンでは長年にわたって人口の集中が続いてきました。その結果として住宅の供給がまったく追いつかず、慢性的な住宅不足に陥っているのです。
住宅不足とその影響
住宅が不足していることで家賃が高騰し、それを払えない人たちがホームレスになるという状況が生じています。
住む場所が足りないからこそ価格が上がり、所得の少ない人たちは賃貸住宅を借りることすら難しくなっていく、この悪循環が続いています。
ロンドン統計局が発表したデータによると、ロンドンの民間住宅家賃は2024年に11.5%上昇しました。近年、こうしたペースの家賃上昇がずっと続いています。イギリスでは日本より賃金の伸び率が高いという面はありますが、それでも家賃の上昇にはまったく追いついていないのが現状です。ホームレスが増えていくのはある意味で当然の流れとも言えます。
ワーキングホリデー勢も苦しむ家賃
ロンドンの賃貸住宅の平均家賃は日本円で50万円ほどになると言われています。ワーキングホリデーなどで日本からやってくる人たちにとっても、家賃の支払いは相当な負担となっていることでしょう。かなり質の悪い物件に住んでいるという話も聞きます。
住宅建設と労働力不足の障壁
こうした住宅不足に対応するために、スターマー政権は今後5年間で150万戸の住宅を建設する計画を掲げています。しかし、これはなかなか進んでいないのが実情です。いきなり大量の住宅を建設すると言っても、それを担う労働者が足りていないからです。
イギリス統計局のデータによると、建設業界には3万5,000件以上の求人がありますが、そのうち半数以上にはスキル不足の応募者しか来ておらず、必要な人材が集まっていません。建設業の労働組合は、150万戸の住宅を建設するためには、最終的に25万人の労働者を増やす必要があるとしています。建設が思うように進まないのは当然のこととも言えます。
移民労働者の必要性とリスク
建設業界を中心に人手不足が深刻化しており、スキルのある移民を入れようという流れになっていくのかもしれません。ただ、そうやって一気に人を増やして建設ラッシュを乗り切ったとしても、その後の調整が大変です。
政権としては、5年以内に住宅を建設するという公約だけを見ているようで、その後のことまでは考慮されていない可能性があります。このままではロンドンの家賃は今後も上がり続け、ホームレスの数も増え続けることになるでしょう。
ロンドン市長、2040年の五輪開催に意欲
そうした状況の中、ロンドン市長のサディク・カーン氏は、2040年に再びロンドンでオリンピックを開催することを目指す意向を改めて示しました。
政治家というのは、本当にオリンピックが好きな人が多いなとつくづく思います。
カーン氏は2016年からロンドン市長を務めており、スポーツ全般に力を入れてきました。これまでにも、野球のメジャーリーグの試合をロンドンで行ったり、昨年はサッカーのチャンピオンズリーグ決勝をロンドンで開催したりと、「ロンドンをスポーツの都市にしていこう」といった方針を掲げています。
スポーツ都市化
製造業が衰退し、近年では金融業でも存在感が低下しつつあるイギリスにおいて、他に何があるかというと、スポーツぐらいしかないという状況です。そういう意味では、スポーツを戦略的な産業と位置づけるのは合理的とも言えます。
実際、サッカーのプレミアリーグのクラブの中には、Jリーグのクラブの100倍以上を稼ぐチームも存在しますし、最近では女子サッカーでも観客が5万人以上入る試合が出てきています。ロンドンで、スポーツが一つの重要な産業になっているのは確かです。
五輪とホームレス問題の矛盾
ただし、オリンピック開催となると話は別です。少し先の話とはいえ、やはり「ホームレスをどうするのか」という問題が浮上してきます。一時的にどこかへ移ってもらう、そういった措置が取られることも考えられますが、根本的には、開催までにホームレスを減らしていかなくてはならない。しかし、今の状況を見ている限り、それは非常に難しいのではないかと考えざるを得ません。
ご参考(イギリスの暮らしの記事のまとめ)
■ コーヒーショップに見るイギリス経済の変化(2024/2/20)
■ ロンドンの現状と日本との比較(2024/6/21)
■ 家族で海外で生活するということ(2024/6/28)
■ プレタマンジェの戦略変更と英国コーヒー業界(2024/10/8)
■ 英国のワーキングホリデー急増理由と厳しい現実(2024/10/28)
■ イギリスとギネスビールとSNSの話(2024/12/18)
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