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シンガポールの政府系ファンドの投資先の変化


 近年、BRICSやグローバルサウスの国々がアメリカから距離を置く動きが見られる中、中国と非常に近い関係を持つシンガポールの政府系ファンドがアメリカへの投資を拡大していることが明らかになっています。
 シンガポールは中国との関係が深いものの、欧米とも一定の距離感を保ちながらバランスの取れた外交を行ってきた国です。この記事では、シンガポールの政府系ファンドの資産運用について詳しく説明します。

【小野外務報道官】
「グローバル・サウス」につきましては、明確な、政府としての定義があるわけではなく、実際に様々な考え方がございます。しかしながら、一般的には、新興国・途上国を指すことが多いと承知しております。

外務省HP(小野外務報道官会見記録)

シンガポールの政府系ファンド

 シンガポールには世界でもトップクラスの規模を誇る政府系ファンドがあり、これらのファンドが中国への投資を縮小し、アメリカへの投資を拡大していることが明らかになっています。政治的にアメリカと距離を置きたいという動きがある一方で、中国経済の低迷もあり、グローバルサウスにはまともな投資先が少ないという現実があります。
 
そのため、純粋に資産を増やすことを考えると、アメリカに投資した方が良いという判断がシンガポールの政府系ファンドの投資行動からも伺えます。

政府系ファンド
 政府系ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドとは国が持つ金融資産を積極運用するファンドのことです。ソブリン・ウェルス・ファンドというと、産油国である中東のイメージが強いかもしれません。

シンガポールの政治体制と政府系ファンド

シンガポールの政治体制

 シンガポールは「明るい北朝鮮」とも言われることがあり、権威主義的な統治が行われている国です。表面的には三権分立による共和制国家となっていますが、与党人民行動党の一党絶対優位体制が敷かれています。
 初代首相のリー・クアンユーが長く影響力を持ち、息子のリー・シェンロン氏も首相を20年にわたり務めました。2024年5月に後継のローレンス・ウォン氏が新たな首相に就任しています。

テマセク・ホールディングスの概要

 シンガポールの政府系ファンドの一つであるテマセク・ホールディングスは、2023年時点で3,820億ドルの資産を運用しています。テマセク・ホールディングスは1975年に設立され、元々はシンガポール国内の発展のために国内のインフラ事業や重要な事業を行う会社に投資を行ってきました。
 2000年代に入ってからはポートフォリオを国際化し、現在はシンガポールへの投資は全体の3割程度となっており、リターンの向上のために世界中に投資を行っています。
 テマセク・ホールディングスの株式はシンガポールの財務省が保有しており、財務省が国内の様々な事業を保有し管理下に置いています。また、テマセク・ホールディングスを通じて海外に投資することで得られる利益が配当として財務省に入り、国家財政を潤す仕組みとなっています。

テマセク・ホールディングスのポートフォリオ

 2024年に入り、過去10年で初めてアメリカへの投資が中国への投資を上回りました。現在のポートフォリオは、アメリカが22%、中国が19%、アジア太平洋が19%、欧州・中東が13%、シンガポールが27%となっています。2020年の段階では中国が29%、アメリカが18%だったのが逆転した形です。

出所)「Bloomberg」(2024年7月9日)

 テマセク・ホールディングスはブルームバーグのインタビューで、今後5年間でさらに300億ドルをアメリカに投資し、アメリカが最大の投資先になるとしています。一方で、中国については慎重なアプローチを取るとしています。
 テマセク・ホールディングスの北米部門のトップは、AIなどのテクノロジーを含めてあらゆる面でアメリカが世界の先頭に立っているのは事実であり、ハイテク、金融、ヘルスケアなどの分野への投資を拡大していくと述べています。ちなみに、アメリカ以外ではインドへの投資を拡大するとしています。

シンガポール政府投資公社(GIC)の概要

 シンガポールにはもう一つ大きな政府系ファンドがあります。シンガポール政府投資公社(GIC)です。GICは主に外貨準備などの政府の資金を運用しており、運用資産は現在8,000億ドル近いと見られています。
 GICも似た傾向で、アメリカへの投資を拡大する一方、中国を中心としたアジアへの投資が縮小しています。GICのポートフォリオは、アメリカが39%、アジアが26%で過去10年で最低水準、欧州は15%、中東は5%、ラテンアメリカが4%となっています。GICのCIOは、この数年間、中国経済の低迷などでアジアへの投資は振るわなかったとしています。

投資の現実

 アメリカに投資をしないとリターンを上げるのが難しいという現実があります。シンガポールは元々中国に非常に近い関係で、政治体制も中国に近い国です。しかし、中国とだけ付き合うのではなく、うまくバランスを取りながら欧米とも付き合ってきたと言えます。中国経済が低迷している中で、アメリカへの投資を拡大するという切り替えがスムーズにできるところがシンガポールの強みと言えるでしょう。
 この動きはシンガポールだけでなく、他のグローバルサウスの国々でも見られます。アメリカとの関係が以前よりも希薄になっていると言われる中東の国々も、政府系ファンドなどの投資という観点ではアメリカに投資を行っています。
 アメリカよりも高いリターンを上げようと思ったら、インドなどの限られた投資先しかないのが現状
です。欧州は長らく低成長であり、日本株は上がりましたが円安を考慮すると必ずしも素晴らしい投資先ではありません。中国の経済が低迷しているのは言うまでもありません。

日本で政府系ファンドを運用できるか

 テマセク・ホールディングスは運用で得た利益を配当として政府に還元し、それが国家財政を支える形になっています。このような仕組みが日本でもできないかという意見がありますが、私は難しいと考えています。シンガポールやUAEのような小さな国なら可能かもしれませんが、日本のように世界のGDPランキングで上位に位置する大きな経済規模の国が歳入の一部を運用で賄うのは現実的ではありません。

日本において財務省がいろんな企業に影響力を与えるような状況になったら、どうでしょうか。嫌だと思う人が多いのではないでしょうか。当然、財務省がお金を握るわけで、財務省に都合がいいところにお金が流れていったりするわけです。

シンガポールの政治体制と政府系ファンド

ご参考

ドル離れの現状とその影響
 一方、世界でドル離れが起こっているというのは事実としてあるでしょう。エネルギーの取引において、米ドル以外の通貨を使おうと言った動きも増えてきています。これはアメリカから距離を置きたいと言った政治上の理由や、米ドルで取引をすることでアメリカに取引情報が流れることを回避したいといった思惑があるものと考えられています。

BRICSの新通貨構想について

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