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米国債の格下げと市場の反応


 2025年5月16日、ニューヨークの株式市場が引けた後、大手格付け会社ムーディーズが米国債の格付けを「Aaa」から1段階下の「Aa1」へ引き下げると発表しました。この発表を受けて、債券市場では米国債が下落し、10年国債の利回りは4.48%程度まで上昇しました。株式市場では、時間外取引で株価指数先物が売られる展開となり、市場参加者の多くが翌週以降の相場の動向に注目しています。この記事では、このムーディーズによる格下げを受けたマーケットの反応について、詳しく解説します。

格付け会社の評価

 まず、「格付け会社の評価など当てにならない」という意見は少なくありません。私自身も格付け会社の見解にはおかしな点が多く見受けられると感じており、そうした意見に共感する部分もあります。しかし、だからといって格付けを完全に無視できるかというと、それも違います。
 その理由は、機関投資家の多くがリスク管理の一環として格付けを利用しているからです。格付けが変更されることで、彼らの行動にも変化が生じ、市場全体に少なからず影響を与えることになります。したがって、市場動向を見ていくうえで格付けの変化を注視することには一定の意味があります。

格付けの変更

 格付けが引き下げられると、機関投資家は何らかの対応を求められることになります。彼らのリスク管理部門では、格付けを用いて保有資産のリスクを定量的に評価しています。このリスク管理部門は、銀行からヘッジファンドに至るまで、ほぼ全ての投資機関の中に存在し、運用チームが過剰なリスクを取っていないかをチェックする役割を担っています。
 運用担当者たちは独自の分析に基づいて投資判断を下しますが、リスク管理部門はそれとは独立した客観的視点から、ファンド全体のリスク量を監視しています。その際に使われるのが格付けなのです。

欧米では自国の格付け基準を「スタンダード」として扱う傾向があり、それに基づいて他国の債券を評価することがよくあります。

ジャンク債と日本と海外の評価方法の違い

ムーディーズの格下げ

 米国債の格付けについては、アメリカの大手格付け会社3社(S&P、フィッチ、ムーディーズ)のうち、最も高い格付けを採用するという方針を取っている機関投資家が少なくありません。過去、S&Pやフィッチが米国債を格下げしても、ムーディーズが「Aaa」を維持していたため、米国債を依然として最上級の債券とみなしていた投資家も多かったと考えられます。
 しかし今回、ムーディーズも格下げに踏み切ったことで、3社すべてが米国債に対して最上位格付けを付けていない状況となりました。これにより、多くの機関投資家が米国債の扱いを見直す必要に迫られることになります。

格付けの数値化とリスク管理への影響

 機関投資家が格付けをどのようにリスク管理に取り入れているかというと、格付けを点数化する方法が一般的です。
 例えば、トリプルA(Aaa)を1点、ダブルA(Aa)を2点、シングルAを3点、トリプルBを4点とし、保有債券の点数を金額加重平均して、一定の点数以下に抑えるといったルールを設けます。
 
 2.75点未満にリスクを抑えるというルールがある場合、Aaa、A、BBBの債券をそれぞれ25%ずつ組み入れたポートフォリオは、加重平均で2.5点となり、ルールを満たします。しかし、ここでAaaの債券がAaに格下げされると、その債券が50%、残りがA(25%)とBBB(25%)という構成になり、平均点は2.75点となります。これは上限ぎりぎりであり、リスクを下げるための調整が必要になります。

売却可能性とその波及

 リスクを抑えるには、格下げされた米国債の一部を売ってより高格付けの債券を買うという方法もありますが、逆にそれ以外のより低格付けの債券を売ってバランスを取る選択もあり得ます。つまり、米国債の格下げが、他の債券や資産の売却につながる可能性もあるのです。
 米国債市場は世界最大級であり、多くの機関投資家が保有しています。そのため、こうしたリスク調整の動きが全体として大きな規模に達する可能性もあります。

金融機関の格下げリスクと連鎖への警戒

 もう一つ重要な点は、米国債が格下げされることで、それを大量に保有する金融機関も連鎖的に格下げされる懸念が出てくるということです。これは過去の事例でも見られたことであり、例えば欧州債務危機の際には、各国の格下げが銀行の信用問題に波及しました。
 今回も、米国の金融システム全体にとってネガティブな材料であり、銀行株には一定の売りが出ることが予想され、利回りにも上昇圧力がかかる可能性があります。

過去の格下げ事例との比較

 影響の程度を測るうえで参考になるのが、2011年のS&Pによる格下げと、2023年のフィッチによる格下げです。

 2011年8月5日、S&Pが米国債を格下げしました。この時は既に債務上限問題に対する懸念が市場に広がっており、S&P500は7月後半から8月前半にかけて、1350から1100まで約20%下落しました。債務上限問題により米国債の発行停止が意識され、供給減への期待から買われた結果、10年国債利回りは2.5%から2%に急低下しました。

 一方、2023年のフィッチによる格下げでは、S&P500は4600手前から4400手前まで、5%未満の下落にとどまりました。10年国債利回りは4%から4.2%に一時上昇しましたが、すぐに4%台に戻りました。ただ、その後10月にかけて5%まで上昇し、S&P500も再び4100程度まで下落し、7月から見ると10%程度の調整となりました。この時は、米国債、米国株、米ドルが同時に売られる「トリプル安」が久しぶりに起こり、アメリカの金融市場の脆弱性が意識される状況となりました。

今回の格下げの影響

 今回のムーディーズによる格下げは、格付け3社すべてが最上位評価を外したという意味で、2023年のフィッチの時よりも影響が大きくなっても不思議ではありません。加えて、先月発生したトリプル安のように、米国債や米ドルを取り巻く環境は悪化しており、それらが売られやすい地合いになっていることも事実です。
 したがって、市場の混乱は、過去の格下げ時と同程度、あるいはそれ以上の影響を及ぼす可能性を想定しておいた方が良いでしょう。今後も市場の動向を注視しつつ、適切なリスク管理が求められます。引き続きよろしくお願いいたします


ご参考

本来、価格に影響を与えるのはアメリカの景気動向やFRBの金融政策などのファンダメンタルズです。しかし現在は、それ以上に「米国離れ」というセンチメントが強く意識されています。

トリプル安と機関投資家の米国離れのスピード

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