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トリプル安と機関投資家の米国離れのスピード


 現在、市場ではアメリカの株式、債券、通貨がすべて下落する、いわゆる「アメリカのトリプル安」に注目が集まっています。中国の投資家が売りを浴びせるのではないか、日本の投資家も売り始めたら大きな影響が出るのではないかという声が聞かれます。その中で「農林中金が売っている」という話もありましたが、本当に農林中金が売った程度で市場が大きく動くのか、疑問を持つ声もありました。
 そもそも、機関投資家による米ドル資産の売却とは、実際にはどのような動きなのか、分かりづらいと感じる方も多いでしょう。

米国離れのスピード

 結論から申し上げると、世界的な米国資産売却、いわゆる「米国離れ」が極端なスピードで進む可能性は低いと見られます。なぜなら、「売っても代わりに買うものがない」からです。

 債券のマーケットで見れば、米国債は発行残高が34兆ドルを超え、日本円にして約5,000兆円にもなる規模です。そのうち3割以上を外国人が保有しており、金額にすると1,500兆円を超える米国債が海外投資家の手にあります。しかもこれは米国債に限った話であり、米国株や不動産担保証券(MBS)、さらには不動産などのドル建て資産を含めれば、その規模はますます大きくなります。

構造的な制約

 この膨大な米ドル資産を一気に売却して、他に何か買う先があるかというと、現実には受け皿となる市場がありません。米国債のように大量に発行されていて、なおかつ時価総額の大きい株式市場や債券市場は他に存在しないのです。したがって、巨大な機関投資家が大量の持ち高を一気に減らすことは現実的ではありません。
 そういう意味では、「こっそり売りたい」、「なるべく価格を下げずに売りたい」と考えるのが本音でしょう。これは中国の機関投資家や金融当局にも当てはまります。中国には政治的な思惑も絡みますが、アメリカ資産の残高をゼロにすることは中国にとっても不可能です。

徐々に減らす「マイルドな対応」

 機関投資家が米国資産の売却を始めるとすれば、まずは「マイルドな対応」から始めると考えられます。アクティブ運用のファンドなどでは、基準としているベンチマークに対してアンダーウェイト(保有比率を下げる)にすることから始めるでしょう。
 実際、多くのファンドはドル建て資産をベンチマーク以上に持つ、いわゆるオーバーウェイト状態にあります。そのオーバーウェイトを縮小する対応が最初の一歩になるかもしれません。また、ベンチマークを設定していない機関投資家は「新規投資を控える」という選択を取ることが予想されます。

 例えば、4月9日時点では明治安田生命の運用部門トップが「当面、米国債への投資は様子見」と発言したとブルームバーグなどが報じています。これは「今年度償還分程度の米国債保有が減少する」ことを意味しています。

中国の米国債売却ペース

 中国政府が保有する米国債については、トランプ政権の1期目から減少傾向にありますが、このペースをさらに加速させるのは難しいと考えられます。したがって、今後もこれまでと同じペースで徐々に減らしていくと見るのが現実的でしょう。

 中国が米国債の入札に参加しなかったというニュースは、市場関係者の間でも話題になりました。各国の中央銀行は通常、外貨準備運用の一環として主要国の国債入札に参加するのが一般的であるため、中国がこれを見送ったことは大きなインパクトをもって受け止められました。

米国債大量売却の考察、中国と農林中央金庫

マーケットへのインパクト

 では、売られる金額が限られているということは、価格への影響も限定的なのかというと、そうとも言えません。

 2025年4月9日、日本時間でアメリカ国債が急落しました。その際に「農林中金が米国債を売った」という報道がありました。農林中金が運用している金額は大きくても、米国債市場全体に比べると保有規模は小さなものです。したがって「農林中金だけでこんなに相場が下がるのか」という意見もありました。

4月1日に就任した農林中央金庫の北林太郎理事長は市場で臆測が流れていた米相互関税導入時の米国債大量売却について「事実はない」と否定した。

日本経済新聞(2025/4/14)

 しかし実際には、同様のポジションを持っている投資家が他にも多数存在し、それぞれある程度売却していたと見られます。また、金額が小さくても、市場に与えるインパクトはそのときの状況次第で変わります。

 取引参加者が少ない時間帯、ボラティリティが高い局面では、少額の取引でも価格が大きく動くことがあります。日本時間はアメリカ時間に比べて取引量が少ないため、価格が動きやすいです。

価格変動の本質

 価格の動きを理解する上で重要なのが「均衡価格」の考え方です。よく「売りが増えると価格は下がる、買いが増えると価格は上がる」と説明されますが、実際には売買の量だけで価格が決まるわけではありません。

 例えば、流動性の低い市場で、投資家が2人しかいない場合でも価格は変動します。これは、外部環境の変化により、売り手と買い手が考える「妥当な価格=均衡価格」が変化するからです。したがって、売買量が少なくても、市場参加者が均衡価格を変化させることで価格が大きく動く可能性があります。

米国離れの見通し

 米国資産の売却を検討する投資家は今後も出てくると考えられますが、大口の機関投資家にとって一気に売却することは難しく、やるとすれば少しずつ進めるしかありません。しかも代わりに買うべき資産が存在しないという制約があるため、「米国離れ」は緩やかにしか進まないでしょう。
 しかし、市場参加者が「米ドルは今後も下落する」と考え続ければ、価格は下落し続ける可能性があります。

ファンダメンタルズ

 海外投資家による米国資産売却の影響について解説しましたが、本来、価格に影響を与えるのはアメリカの景気動向やFRBの金融政策などのファンダメンタルズです。しかし現在は、それ以上に「米国離れ」というセンチメントが強く意識されています。
 今後は市場の動向を見極めるのが、今まで以上に難しくなっていくかもしれません。


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