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中国が進める金(Gold)の保管サービスとその狙い


 今回は、中国が海外の中央銀行に対して「金を預かりますよ」と働きかけているという話題です。一部メディアの報道によれば、中国が各国に対し金の保管サービスを提供し始めており、カンボジアがその最初の国になるのではないかとブルームバーグなどで取り上げられています。どうしてこうした動きが出てきているのか、そして今後どのような展開が予想されるのか、その背景を詳しく説明します。

ご参考「金(GOLD)記事のまとめ」

■ 金とプラチナの価格差拡大とその背景(2024/3/6)
■ 機関投資家が金(Gold)を買わない理由(2024/8/29)
■ インドでの金(GOLD)関税引き下げの影響(2024/9/4)

 近年、中国が金の保有を増やしてきたことはよく知られています。中国では民間人の金購入も増えていますが、特に政府が外貨準備の中で金の比率を高めてきた点が注目されています。人民銀行が公表しているデータによれば、中国が外貨準備として保有する金は 2010 年頃には1,000トンほどでしたが、2022年には2,000トンを超え、2025年10月末時点では2,304トンまで増加しています。特に 2018 年頃から増加ペースが一段と速まっています。

出所)ebc.com

金保有拡大の裏にある米中対立

 このように金保有を増やしてきた背景には、トランプ政権の1期目の頃から続く米中対立があります。中国は外貨準備で大量の米ドル資産、米国債を持っていますが、対立が深まる中で「もしもの時」にアメリカの資産を大量に保有していると凍結されるなど自由に動かせなくなるリスクがあります。そうしたリスクを回避するため、中国は金を増やし、より自立性の高い準備体制を作ろうとしてきたと見られています。

 そして今回、その動きをさらに進める形で、「外国が保有している金を中国が預かる」という、いわゆる金準備保管サービスを提供し始めたわけです。

カストディアンとしての中国

 金の取引は、現物の金をいちいち動かして行っているわけではありません。欧米ではロンドンのバンク・オブ・イングランドやニューヨーク連銀が金の保管サービスを提供しており、多くの国や投資家がそこで金を保管し、売買の際には名義変更で取引が完了します。このような資産保管サービスを「カストディアン」と呼び、信頼できるカストディアンの存在が円滑な金融取引には欠かせません。

カストディ
機関投資家の代理人として、有価証券の保管・管理等を行う業務を総称していう。有価証券の保護預り業務を指していう場合もあるが、一般にはそれにとどまらず、保管した証券から発生する利子、配当金の受領、売買代金の授受あるいは当該証券に係る各種権利関連情報の伝達等の業務を含めていう。

企業年金連合会

 中国は今回、このカストディアンに名乗りを上げたということになります。

 金だけでなく、有価証券などの資産も現在は電子化が進んでおり、現物を動かすわけではありません。日本でも日本トラスティ銀行やマスタートラスト信託銀行といった大手がカストディアン業務を担っており、極めて信用力の求められる分野です。参入障壁が非常に高いことでも知られています。

出所)日本マスタートラスト信託銀行株式会社

 そうした中で中国がカストディアン業務に乗り出したということは、欧米依存からの脱却を図り、金を含む重要資産を自国内で管理したいという狙いがあります。また、欧米との関係が微妙な国々に対して「うちで預かりますよ」と言えるようにすることで、人民元圏の拡大を図っているとも見られています。

人民元による金取引市場の誕生

 中国がカストディアンとして金を預かるということは、その保管場所を基準に売買の名義変更が行われることを意味します。つまり、金の取引が人民元建てで行われる可能性が高く、これは人民元圏における新しい金市場の誕生につながります。金は一般的に米ドル建てで取引されますが、人民元建ての金市場ができれば、米ドル依存からの脱却を進める上で大きな一歩となります。

ドル離れの限界と現実
 今回のドル建て中国国債発行は、脱ドル化を進めながらも、現実的にはまだドルに依存せざるを得ないという中国の立場を象徴しています。

中国がドル建て国債を発行した背景とその意味

 中国は以前から米ドルに依存しない経済圏を構築しようとしており、今回のカストディアン参入はその戦略の一環と見られています。そしてこれは金だけに限らず、今後は幅広い資産のカストディアン業務を拡大していく狙いがあるのではないかと考えられます。

ロンドンが金融センターであり続ける理由

 2020年にイギリスがEUを離脱した際、金融業務の多くはフランクフルトに移るのではないかと言われました。しかし現実には、ロンドンは依然として欧州の主要な金融センターの地位を保っています。その理由の一つとして、決済業務の集積に加え、カストディアンサービスの存在が非常に大きいとされています。

 中国も同じように、金準備保管を入口にし、商業銀行によるカストディアン業務を広げていくことで、人民元を軸とした金融経済圏を拡大したいという狙いがあると見られます。

中国と人民元の課題

 とはいえ、これで人民元圏が急激に拡大するとか、世界の金融構造が大きく変わるかというと、現状では難しいと見ています。というのも、中国に資産を預けようとする国の多くは、そもそも資産規模が小さいからです。
 今回、最初に金を預ける動きがあると報じられているカンボジアは、2025 年6月末時点の外貨準備がわずか248億ドル程度しかありません。これは日本の地方銀行と同程度の規模で、しかも大半の外貨準備は為替介入のためにドルで保有していると見られています。金として持っている量は非常に少なく、中国が預かる金もごく限られたものになるでしょう。

 このように、中国に近い国ほど資産規模が小さく、結果的に中国の金保管サービスは金額面ではあまり大きな広がりを見せないと見られます。そのため、人民元圏拡大の動きは今後も緩やかな進展にとどまる可能性が高いでしょう。

今後の見通し

 人民元圏拡大への布石ではあるものの、現時点では大規模な影響力を持つには至らず、静かな広がり方になると見られます。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

資本規制の完全撤廃や海外投資の活性化、金融市場の整備といった課題は依然として大きく、人民元の国際的地位が急速に高まるとは考えにくいのが現実です。

中国過去最大の資金流出と人民元国際化の課題

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