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もしも米国債が急落したら


 アメリカの債務上限問題が深刻化することが懸念されていますが、そうした中で「アメリカがデフォルトしたらどうなってしまうのか」あるいは「日本にはどのような影響があるのか」といったご質問を多くいただいています。これは非常に難しい質問です。

 2年ほど前に公開した動画ですが、リクエストがあり記事にまとめました。今後ともよろしくお願いいたします(TeamモハP)。

 デフォルトと言っても、その状況によって起こることが大きく異なるためです。金融関係者や専門家の間でも、アメリカが本当にデフォルトした場合にどのような影響が広がるかについては、はっきりとは予想できていないのが実情です。
 だからこそ、不安感がじわじわと広がっています。

債務上限問題

 この問題については、基本的には民主党と共和党がそれぞれ支持者を納得させるために、ある種の「プロレス」を繰り広げている構図になっています。最終的にはどこかで妥協して合意し、債務上限を引き上げることになると私は見ています。そのため、たとえ合意に至ったとしても、中長期的に見れば米国債の需給は引き締まる方向に向かう可能性が高いと考えられます。

 米国の債務上限とは、米国連邦政府(財務省)が国債を発行できる金額の上限のこと である。新規国債発行は財務省が実施しているが、国債発行の権限はあくまで議会にある。根拠法は、1917 年に成立された第 2 次自由国債法(Second liberty bond Act)。

公益財団法人国際通貨研究所【米国の債務上限問題について】

 そのため、この問題について金利上昇要因として過度に警戒していると、むしろ裏目に出てしまうリスクがあると私は考えています。

米国債急落のシナリオ

 とはいえ、質問をされた方が本当に知りたいのは、「最悪の場合にどういう影響が広がるのか」ということではないでしょうか。私は米国債が大暴落するというシナリオを想定しているわけではありませんが、仮に米国債が急落した場合にどのようなことが起こるのかを、あくまで想定ベースで解説したいと思います。
 このシナリオを考える上では、2022年秋にイギリスで起こった国債急落のケースが、非常に参考になると思われます。

2022年秋のイギリス国債急落の振り返り

 2022年9月、トラス政権が誕生し、大規模な財政政策が発表されると、国家財政の悪化が懸念され、イギリス国債の価格が急落しました。同時に、通貨ポンドも急落するという展開になりました。
 具体的には、2022年8月までイギリスの10年国債の利回りは2%程度で推移していましたが、9月には4.5%まで急上昇し、10年国債の価格は20%以上急落しました。年限の長い国債ほど価格の下落幅は大きく、30年国債はわずか1ヶ月ほどで価格が半分程度にまで下がるという、非常にショッキングな事態が発生しました。

デリバティブ担保としての国債の危険性

 この出来事をきっかけに、イギリスでは金融システム不安が急速に広がりました。特に問題となったのが、年金LDIという取引手法でした。

 LDIは、金利スワップ等のデリバティブを利用して資産と債務のキャッシュフローを近づける、すなわち、金利スワップで受け取るキャッシュフローを負債にマッチングすることにより、債券や株式等の現物資産では対応できない企業年金特有の複雑で超長期のキャッシュフローを複製することを目的とした手法。

企業年金連合会

 長らく続いた低金利時代、多くの年金基金が少しでも利回りを上げようと、保有資産を担保にしてお金を借り、さらにリスク資産へと投資する手法が広まっていました。この担保として広く使われていたのが、イギリス国債だったのです。
 そのイギリス国債の価格が急落したことによって担保不足が発生し、多くの投資家が一斉に資産を投げ売りせざるを得なくなったのです。放置すれば金融危機になると判断したイングランド銀行は、緊急的に国債を買い入れて、事態の沈静化を図りました。

もしも米国債が急落したら

 仮に米国債が急落した場合、イギリス国債と同じ仕組みで、より大規模な金融危機が発生する可能性があります。イギリス国債を大量に保有していたのは基本的にイギリスの機関投資家だけでしたが、米国債については話が違います。世界中の投資家が米国債を保有し、それを担保として様々なデリバティブ取引を行っているためです。

日本への影響

 その中でも、とりわけ大きな影響を受けるのが日本でしょう。ご存知の通り、世界で最も多くの米国債を保有しているのが日本です。米国債を担保にした金融取引は、日本の金融機関の間でも数多く行われています。米国債が急落した場合、アメリカの金融機関だけでなく、日本などの外国の金融機関においても金融危機が広がる可能性があります。

日本の地銀・生保のリスク

 現状、日本の地方銀行などでは保有している米国債に含み損を抱えているケースが多数あります。これは途中で売却する必要がなければ問題にはなりませんが、もし何らかの事情で売却を余儀なくされ、損失を確定させることになれば、経営上の大きな問題となります。日本の地銀や生保の経営が一気に厳しくなる恐れがあります。
 特に、アメリカの10年金利が5%を超えるような状況になれば、こうした問題が一気に表面化する可能性があるでしょう。

金融危機の引き金に

 もしそうなれば、世界中の金融機関が破綻リスクに直面する事態になるでしょう。そしてその場合、イングランド銀行と同様に、アメリカの中央銀行であるFRBが一時的に量的緩和を再開し、国債を買い支える以外に選択肢はなくなるかもしれません。
 
2022年9月のイギリスでは、金利の乱高下により不動産ローンの金利が決定できなくなり、不動産取引自体が停止するという異常事態も発生しました。アメリカの不動産市場は40兆ドル以上という巨大マーケットです。もしそこで取引が滞れば、その影響は計り知れません。

米国債の位置づけ

 イギリス国債はあくまでもローカル資産ですが、米国債は基軸通貨・米ドルの安全資産です。それが急落した場合に、イギリスと同じ程度の混乱で済むと考えるのは、あまりにも楽観的すぎるでしょう。少なくとも、それ以上の問題が起こると想定した方が現実的です。

債務上限問題以外にも起こり得る

 この「米国債急落」のシナリオは、債務上限問題とは別にしても、決してあり得ない話ではありません。というのも、今のアメリカ政府の財政運営をこのまま続けると、2040年には国債の利払いと社会保障(年金・医療費)だけで税収のすべてが消えてしまうという見立てもあるからです。
 これはアメリカに限った話ではなく、日本など他の先進国でも同様です。財政を立て直すためには、社会保障改革を避けては通れません。こうしたことは10年以上も前から言われ続けてきましたが、実際には状況は悪化の一途をたどっており、国債が急落するような事態にはまだ至っていないだけのことです。
 しかし、2022年秋のイギリスの例が示すように、国債の急落というのは誰にも予想できず、ある日突然やってくる可能性があります。

リスク認識

 アメリカもまたイギリスと同じような状況に陥る可能性があるということを、私たちはしっかり認識しておく必要があるのではないでしょうか。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 そもそも世界は、そして経済は不確実なことだらけです。将来の予想を全て当て続ける、そんなことはできるわけがありません。

金融危機の予見、歴史の教訓と個人の経験

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