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ダムの完成を巡るエチオピアの苦闘と地域情勢


 アフリカで最大規模を誇るグランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム(Grand Ethiopian Renaissance Dam)通称「GERD」が、間もなく全面稼働を迎えることになりました。エチオピアのアビィ首相は2025年7月3日、このダムが9月に全面的な稼働を開始すると発表しています。このダムをめぐる問題は以前から話題になっていたため、「まだ完成していなかったのか」と思った方もいるかもしれません。

 このダムはナイル川の水資源をめぐる地域の争いの一因であり、さらにエチオピアが中国からの借金を膨らませてきた国であることも関係しています。そうした背景を踏まえると、今回のダム完成は単なるインフラ整備にとどまらず、多くの意味を含んでいるのです。

出所)arabnews.jp【2025/7/4】

長期間の建設の経緯と発電規模

 グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダムの建設は2011年に始まり、14年の歳月をかけてようやく完成を迎える見通しとなりました。完成前の2020年には貯水を開始し、2022年には一部発電も始めています。
 ダムは高さ145メートル、幅1.8キロメートルという巨大規模で、ダム湖の面積は東京都の半分ほどに相当します。発電能力は500万kWを超え、原発約5基分に匹敵する電力を生み出すことができます。アフリカで最大、世界でも7番目の規模を誇る水力発電施設となります。

電力不足に悩むエチオピアの悲願

 エチオピアの人口は現在約1億3,000万人で、アフリカではナイジェリアに次いで2番目の人口大国です。わずか10年前に1億人を突破したばかりで、人口増加のスピードは非常に速いといわれています。

エチオピア連邦民主共和国首都アディスアベバ
出所)外務省

 国連の調べによると、今でも国民の半数程度が電力にアクセスできていない状況にあります。今回のダムによって得られる500万kWの電力は、現在のエチオピア全体の発電量の約2倍にあたり、国民生活を大きく改善するための国家的悲願と言える事業でした。
 エチオピアは長年、貧困や飢餓に苦しむ国民が多く、2020年にはティグレ民族解放戦線との内戦が勃発し、2022年に停戦が成立しましたが、貧困や社会不安が紛争の一因となっていることも事実です。安定した電力供給は、エチオピアの経済発展と社会安定化に不可欠な要素となっています。

ナイル川の水資源をめぐる国際的な摩擦

 このダムの建設は、ナイル川の水資源をめぐる国際問題とも深く関わっています。

 エジプトは人口の97%がナイル川の水に依存しており、2024年時点で人口は1億1,600万人に達しています。ダムの建設によって下流域の水量が減少すれば、深刻な水不足を招く可能性があるため、エジプトはこの計画に強く反発してきました。2010年代から両国の対立が続き、2018年にはダム建設の技術責任者が殺害される事件まで起きています。
 一方で、エチオピアはダムで発電した電力をジブチ、スーダン、ケニアに輸出し、今後はタンザニアへの供給も見込まれるなど、近隣諸国への利益提供を試みています。しかし、水資源をめぐる根本的な対立が解消されないまま、今に至っているのです。

中国資金による建設と債務問題

 建設費用は当初40億ドルと見込まれていましたが、最終的には50億ドル(日本円で約7,000億円以上)に膨らみました。この資金は主に国債発行で調達されたものの、エチオピアはもともと中国から多額の融資を受けてきた国で、一帯一路構想の重要なパートナーでもあります。

中国がアフリカやアジアでの影響力を完全に手放そうとしているわけではありません。むしろ、アフリカの中でも重要度の低い国への融資は控えつつ、一帯一路構想で戦略的に重要視される国々には引き続き支援を継続しているようです。

中国借金漬け外交とアフリカ諸国の不安定化

 ダムのタービンや電気設備、送電網などは、中国輸出入銀行からの融資によって建設されました。しかし2023年、エチオピアは債務返済が困難となりデフォルトに陥っています。中国との間で返済猶予が合意されましたが、返済は依然として重い負担です。2024年にはIMFから34億ドルの融資を受ける事態にまで追い込まれており、このプロジェクトが国家財政に大きな負担をかけていることがわかります。

スーダンの立場と難民問題

 スーダンもこの問題の当事国です。スーダンでは洪水リスクを軽減できるという観点から、一定の理解を示しています。またエチオピアからの電力輸入を開始し、ダムの恩恵を受けている状況にあります。

グランド・エチオピア・ルネサンス・ダム(GERD)の完成と貯水により、ナイル川下流のスーダンとエジプトは水の流量確保等につき、当事国の合意が必要との立場であり、現在AU等による仲介努力が行われている。

外務省

 一方で、スーダンでは2022年から内戦が続き、400万人以上が難民として国外に逃れており、深刻な飢餓にも苦しんでいます。エチオピアはアフリカ最大の難民受け入れ国の一つであり、この人道危機が両国の関係にも影響を与えていると見られています。

完成による新たな火種

 こうして、エチオピアの悲願、エジプトの生命線、水資源の公平利用、巨額の中国債務、難民問題など、複数の要素が絡み合う中で、いよいよグランド・エチオピア・ルネサンス・ダムが完成を迎えます。
 これがすぐに新たな戦争の引き金になるわけではないでしょう。しかし、この複雑な地域情勢に新たな緊張要因が加わることは間違いありません。今回のダム完成は、エチオピア国内の発展と安定にとって重要な一歩であると同時に、地域全体の不安定要素にもなり得る出来事と言えるでしょう。
 また情報のアップデートがあればご報告したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

あまり報道されていない人道危機の例としては、スーダンの難民も挙げられます。2023年に内戦が始まって以降、400万人以上が国外に逃れ、隣国チャドには80万人のスーダン難民が暮らしているとされています。

メディアが報じない難民の大量帰還とその影響

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