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メディアが報じない難民の大量帰還とその影響


 2025年6月から7月前半にかけて、イランで非常に大きな出来事が起こっていました。それは、わずか1ヶ月ちょっとの間に、45万人以上のアフガニスタン人の移民・難民がイランからアフガニスタンへ帰国したということです。国連などの報告によると、2025年に入ってからの累計では140万人以上が帰国しているとされています。
 しかもこの動きは、イランに限られた話ではありません。パキスタンなどからも大量のアフガン難民が帰国しているという、非常に大きな人道的な動きがあるのですが、世界経済への直接的な影響が小さいということもあり、日本のメディアではほとんど触れられていないのが現状です。

 私は、「人の命」という観点で見れば非常に重大な問題だと思いましたので、この記事ではこの件について解説します。

イラン・パキスタンでの強制帰還

 今、イランではアフガニスタン難民の強制追放が始まっています。アフガニスタンからは、2021年のアメリカ軍の撤退、そしてタリバン政権の誕生以降、2023年までに530万人以上の人々が国外へと避難したとされています。政治犯としての逮捕や文化活動の制限など、さまざまな理由から人々は国外脱出を選び、その多くが向かったのがイランとパキスタンでした。

アフガニスタン首都カブール
出所)外務省

 イランとパキスタンは、これまでも難民や移民を受け入れてきた実績があり、多くの人々にとって頼みの綱でした。その結果、2023年時点でイランには約300万人のアフガン難民や移民が滞在していたとされており、パキスタンにも同規模のアフガニスタン人が暮らしていました。
 パキスタンでは、130万人が正式な滞在許可を得ており、さらに80万人が「アフガンカード」と呼ばれる一時的な滞在許可証で滞在していました。それ以外の人々は不法滞在者とされていました。

パキスタンの強制送還政策とイランへの波及

 この状況の中で、最初に大きく動いたのがパキスタンでした。2023年以降、不法滞在者に対して100万人規模の強制送還を実施しており、2025年3
月にはアフガンカードの期限を終了とし、その対象者である80万人にも退去を求める方針を打ち出しました。

 こうした動きによって、「アフガンカード」保持者も2025年4月以降は不法滞在者と見なされ、送還対象とされるようになったわけです。

 すると今度は、行き場を失った人々がイランに向かう可能性が出てきます。これに反応するかのように、イラン政府も不法滞在者に対して帰国期限を7月6日と設定。イランの内務大臣は、「イラン国内に暮らす600万人のアフガニスタン人のうち、およそ400万人に影響が及ぶ」と語ったとされています。この期限を過ぎると逮捕や拘留の可能性があるということで、6月から7月5日にかけて帰国を急ぐ人々が急増しました。

緊迫する中東情勢と難民問題

 この頃、イランとイスラエルがミサイルを撃ち合うなどの軍事的な緊張も高まっており、さらにはアメリカがイラン国内の核施設を攻撃したという報道も出ていました。こうした不安定な情勢の中、「今のうちにイランを出なければならない」と考えるアフガニスタン人が増えたのも当然のことかもしれません。

 国連などの調査によると、2025年4月以降だけでも、イランから70万人以上、パキスタンから20万人以上がアフガニスタンへと帰国したとされています。つまりこの3ヶ月ほどで、約100万人がイラン・パキスタンから帰国したということになります。
 これまでにパキスタンから追放された100万人を加えると、この2年間で少なくとも340万人のアフガニスタン人が帰国を余儀なくされたとみられています。

帰る場所

 問題は、そうして帰国した人たちの多くが帰るべき「場所」を持たないということです。

 タリバン政権下のアフガニスタンには、そうした大量の人々を受け入れる体制もインフラもありません。結果として、多くの人々が住む場所も食料もないまま難民キャンプに押し込まれているというのが現状です。国連のキャンプなどがそうした人々を一時的に保護していますが、あまりにも人数が多すぎて対応しきれていないのが実情で、国連側も治安の悪化を懸念しています。現在もイラン国内には多くのアフガニスタン人不法滞在者が残っていると考えられており、状況次第ではさらに大規模な帰還が続くかもしれません。

地域情勢への影響

 このような大規模な人口移動は、当然ながら周辺地域にも不安定さをもたらすリスクがあります。もちろん、「ここでテロが起きる」とか「この組織がこう動く」といった具体的な予測をすることは非常に難しいです。
 しかし、食料や住宅といった基本的な生活物資が足りなくなることで、トラブルや治安悪化が起こることは想像に難くありません。今回帰国を強いられている人々の多くは、政府に対して距離を置きたい、反感を持っている人たちであり、こうした人々が国内に集中することによって、反政府運動や過激派組織の動きが活発化する可能性も否定できません。
 IS(イスラム国)などによる新たな動きも出てくる可能性があるわけで、今後のアフガニスタンを取り巻く情勢は非常に不安定になるリスクを抱えていると言えるでしょう。

不法滞在者の増加と社会問題

 こうした事態が日本で報道されることはほとんどありません。しかし、後々「あの時から始まっていたんだ」と振り返るような出来事になる可能性はあります。
 他のあまり報道されていない人道危機の例としては、スーダンの難民も挙げられます。2023年に内戦が始まって以降、400万人以上が国外に逃れ、隣国チャドには80万人のスーダン難民が暮らしているとされています。しかしNGOなどの支援も限られており、非常に危機的な状況にあると伝えられています。
 また、コンゴ民主共和国では100万人以上、南スーダンでも200万人以上が難民化しているとも言われています。

世界共通の論点である不法滞在者

 私の主張は、「かわいそうだ」というきれいごとではありません。イランやパキスタンでも、不法滞在者の増加が大きな社会問題となっており、これはヨーロッパやアメリカが直面している問題と本質的には同じだということです。
 
日本でも最近は、不法滞在者の問題や、外国人による犯罪、社会保障制度の利用といった論点が浮上していますが、これは決して日本に限られた問題ではなく、今や世界中で起きている構造的な課題だということです。今後もこうした動きを注視していく必要があると思います。


ご参考

難民受け入れの限界と移民政策
 現在、再びシリアで難民が発生する可能性が懸念されています。しかし、多くのヨーロッパ諸国は2010年代のような受け入れの余力を持っていません。

シリア難民の現状と私の身近なシリア難民の話

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