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野村證券の銀行業務への注力と証券会社の悲願


 最近、野村證券が銀行業務に力を入れていくという経営戦略を打ち出しました。この件について解説してほしいというリクエストをいただきました。
 私は証券業界にいた経験もあり、この業界の裏側やドロドロとした部分を多く見てきました。そのため、どうしても辛口の評価になることが多く、「厳しすぎるのではないか」といったご指摘を受けることもあります。今回はそうしたご意見も踏まえつつ、証券会社が銀行業務に注力する動きについて説明します。

出所)nomura-recruit.jp

私の経験
 私が証券マンをしていた頃、上司から「顧客の家を見てきて」という指示を何度か受けたことがあります。

証券マンの実態と私の経験

野村證券が銀行部門を強化

 野村證券は今年に入り、銀行部門を「第4の主力部門」として育てる方針を発表しました。狙いは、相続や資産承継のニーズ、さらには有価証券を担保にした融資など、証券ビジネスだけでは提供できないサービスを強化し、富裕層を囲い込むことにあります。グループ内の野村信託銀行を中心にサービス拡充を進めることで、国内の相続関連需要や富裕層向けビジネスの拡大に対応しようとしているのです。
 証券会社にとって、銀行に顧客を奪われないようにすることは重要な課題です。特に富裕層は多様な金融サービスを求めるため、銀行機能を持たないと顧客をメインバンクに取られてしまう危険性があるのです。

 特に最近の銀行は、一般大衆向けのサービスにはなるべく人手をかけず、その分のリソースを富裕層向けのサービスに投下するという戦略をとるようになってきています。証券会社でも同様の動きが見られます。

通帳廃止の流れに見る銀行の意図と注意喚起

証券会社の悲願

 もっとも、証券会社が銀行業務に注力する動きは今に始まったことではありません。元々日本では銀行と証券会社の兼業が禁止され、両者は明確に住み分けがなされてきました。証券会社はリスク商品の売買を担い、預金や融資といった安定的な業務は銀行の役割でした。
 しかし1980年代以降、子会社を通じた参入が可能となり、銀行傘下の証券会社や証券傘下の銀行が登場しました。それでも住み分けは根強く、証券会社は依然として「資産の一部を預ける場所」という位置づけにとどまっていました。私が個人営業をしていた頃も、顧客の証券口座の背後にはその何倍もの資金がメインバンクにあると考えて営業するように指導されていました。

 そのため、証券会社にとって銀行機能を持ち、メインバンクに取って代わることは長年の悲願だったのです。大和証券が2010年代に「大和ネクスト銀行」を設立して積極的に銀行業務を展開したのもその一例です。

出所)bank-daiwa.co.jp

証券会社の信頼

 ただし、証券会社が銀行のような存在になれなかったのは、単に制度的な壁のせいだけではありません。業界の営業慣行そのものが社会からの信頼を損ねていた面もあります。
 
1990年代には総会屋事件や反社会的勢力との関係などが問題視され、さらに営業マンが顧客の有価証券を無断で売買したり、損失補填をしたりするケースもありました。電子取引が未発達で、人の裁量が大きかった時代背景もありますが、証券会社は「危うい存在」として社会に認識されるようになったのです。結果として、金融機関のヒエラルキーの中で銀行に劣後する立場に固定されてしまいました。

銀行と証券業界

 さらに1980年代以降、銀行が次々と証券子会社を立ち上げ、中堅証券を飲み込んでいきました。みずほ証券は旧興銀証券を中心に第一勧銀系、富士銀行系、さらには独立系証券を統合して現在の形となり、三菱UFJモルガン・スタンレー証券も数々の合併を経て誕生しました。こうした動きは証券業界の経営難を背景に、銀行が救済の形で主導したものでもあります。大和証券がSMBCと提携して「大和証券SMBC」となったことや、日興證券がシティグループ傘下に入り、最終的にSMBCに売却されたこともその流れの一部です。
 野村證券も銀行傘下に入るのではないかと噂された時期がありましたが、結局独立を守り抜きました。現在、大手証券は独立系の野村・大和、銀行系の3社という構図に落ち着いています。

野村信託銀行の挑戦と課題

 では今回の野村の銀行業務強化はどこまで現実性があるのでしょうか。野村信託銀行は野村アセットマネジメントの投資信託を受託しており、受託財産規模はそれなりに大きいものの、バンキング部門の利益規模はまだ小さいのが実情です。2031年までに利益を3倍にするとしていますが、それでも税引前利益は100億円程度にとどまります。
 メガバンクに対抗する規模には遠く及ばず、人材を引き抜いたとしても存在感を大きく変えるのは難しいでしょう。近年は野村證券の不祥事も続き、かつて「業界のガリバー」と呼ばれた頃の勢いは失われています。この銀行業務への注力が再起のきっかけになるかは、かなり疑わしいと言わざるを得ません。

野村証券の社員が80代の顧客宅を訪問した際、睡眠作用のある薬物を飲ませた上で放火しようとしたとして、殺人未遂及び放火容疑で逮捕されるという重大な事件が発生しました。

注意喚起、証券マンを自宅に招くリスク

私の考え

 証券会社が銀行業務を強化しようとする動きは長年の悲願であり、歴史的にも繰り返されてきた挑戦です。しかし、社会的信頼の欠如、銀行による証券業界の取り込み、そしてメガバンクとの圧倒的な規模差といった壁は依然として存在します。
 今回の野村證券の戦略も注目には値しますが、証券会社が本当に銀行の地位を奪う日は来るのか、私は依然として懐疑的に見ています。辛口にはなりますが、これまでの歴史と現状を踏まえれば、銀行業務への挑戦もまた厳しい道のりになるのではないでしょうか。


ご参考

 日本生命の社員が、出向先である三菱UFJ銀行から機密情報を漏洩したとされる問題を巡り、2025年7月18日、金融庁は日本生命に対して報告徴求命令を出したと発表しました。

日本生命の情報流出問題と出向制度見直しの動き

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