「Nの逸脱」夏木志朋(著)/第173回直木賞候補作(2025年上期該当作は無し)/直木賞発表 翌日の丸善本店
淡々とした文体で書かれた三つの中短編集。
何気なく開けてしまった隣人の扉、「フツウ」の奥に隠されていたものは――
爬虫類のペットショップでアルバイトをする金本篤は、売れ残ったフトアゴヒゲトカゲが処分されそうになるのを見て、店長に譲ってくれと頼む。だが、提示された金額はあまりに高額で手が出ない。「ある男」を強請って金を得ようと一計を案じるのだが、自ら仕掛けた罠が思いがけぬ結末を呼び込んでしまう……(「場違いな客」)。
生徒たちにいたぶられ精神的に追い詰められていた高校数学教師・西智子は、深夜の満員電車で非常識な若い女と遭遇する。冷静になろうとするが高ぶる感情が抑えきれず、駅で降りた見知らぬ若い女を追尾し始めて……(「スタンドプレイ」)。
占い師・坂東イリスのもとに、弟子にして欲しいという若い女性がやってくる。一見、優秀そうにも見える彼女は、やることなすことズレていて、失敗ばかり。クビにしようとしてもしつこく食い下がり、ぜひ自分を占い師にしてくれと訴えるのだが……(「占い師B」)。
追う者と追われる者が入れ替わり、善と悪が反転していく予測不可能な展開――隣の人たちが繰りひろげる3つの物語。
雑感
最初にお断りしておくが、この方の文章表現が私には合わなかった。どの物語を読んでも、どこかしら、しっくりとこない。相性の問題だと思う。
3編とも常緑町という架空の町で起こる、ちょっとした変なこと。
「直木賞候補作品 = 大衆小説 → 楽しめる(面白みのある)作品」というステレオタイプ的な見方をしているわけではないが、平凡な日常を視点を変えて見ればこんな感じなのだろう。2025年現在、日々流れてくるニュースに異常なことが多く、この作者が書いた物語が普通に思えてくる。昨今の事件や世相に感覚がマヒしているのかもしれない。
「場違いな客」はラストシーンで主人公が相手の意外な職業に気付かされるところは面白い。
「スタンドプレイ」は、都会では聞く話。主人公が警察に自白しても相手にされないのは当然。だから何?という感じ。 「一人称で語る主人公の自省句」として読めばよいのだろうか?
物語の長さが中編小説の「占い師B」。霊力がないことを最初に明かした占い師が客の騙し方(占い方)を説明するくだりは聞いたことがある手法。そのあとに新たな展開があるのかと思えば、占い師と弟子入りした若い女性との日常が続く。
物語(創作物)なので日常系であっても、その中にもっと異常(変なこと)を見たいと思う私には、面白みが足りない作品だった。
第173回直木賞
読後に2025年上半期、直木賞・芥川賞 該当作なしのニュースが流れてきた。
候補者一覧(作者名50音順)
逢坂冬馬(あいさか とうま)ブレイクショットの軌跡
青柳碧人(あおやぎ あいと)乱歩(らんぽ)と千畝(ちうね)
芦沢央(あしざわ よう)嘘と隣人
塩田武士(しおた たけし)踊りつかれて
夏木志朋(なつき しほ)Nの逸脱
柚月裕子(ゆづき ゆうこ)逃亡者は北へ向かう
逢坂冬馬氏の『ブレイクショットの軌跡』は前作と同様に長編(584ページ)。『同志少女よ、敵を撃て』よりもストーリーの環境展開が変わるので読み飽きないとは思う。読了したらnoteに感想を書こう。
芥川賞・直木賞発表翌日の丸善


売る方の思惑が分からないでもない

文芸誌新人賞への応募数は全体として右肩上がり。
活字離れがいわれて久しく、文芸誌の発行部数は多くが1万部に満たない。それでも純文学作家を目指すならば文芸誌新人賞が王道との意識は根強いようだ。最近ではウェブ応募も可能になり、小説投稿サイトにアップロードするのと似た感覚で新人賞に挑めることも影響している。じゅう
芥川賞受賞者が話題となれば新人賞の応募数が増える連動性も見て取れる。20〜22年に文芸賞の応募は2300点を超えた。これは19年に文芸賞を同時受賞した遠野遥と宇佐見りんが、20年度に相次ぎ芥川賞を受けた効果だ。
芥川賞を獲っても、アルバイトをしている作家の公式ブログを読んだことがある。
「文学」という高尚?な視点に立てば「ライトノベルなんて」と思われるかもしれないが、ライトノベルが百万部売れるのは珍しいことではないし、そんな作品はコミック化、アニメ化されて作者はアルバイトをせずに済む。
芥川賞・直木賞を獲っても、おそらく100年後の記録に残っているのは、その当時売れたライトノベルではないか。
こんな言葉は好きではないが「(文化の世界も)数字は絶対」。
そんなことをぼんやりと考えた受賞発表翌日。
MOH
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