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川を爆破して原発を守る ~ルーマニア、ドナウの流れを変える試み~

2026年8月3日、ドナウ川下流で180㎏の爆薬により、実行したのは、ルーマニア軍の工兵と潜水士による爆破が行われました。
目的は、こういった爆破でよくある航路の確保や川底の掘削ではなく、原子力発電所へ送る冷却水を確保することでしたが、爆破された岩は原発の取水口ではなく、そこから数十㎞上流の分岐点にあります。

なぜ、離れた場所の岩を壊すと原発に供給される水が増えるのでしょうか。


ドナウ川で今、何が起きているのか

熱波と少雨により、ドナウ川の水位と流量が急低下しています。
ブダペストでは8月3日、水位が10㎝前後となり、2018年に記録した過去最低の33㎝を大きく下回りました。ルーマニアへの流入地点では、流量が毎秒約1,500m³まで減り、7月の平年値の3分の1を下回っています。

影響は発電所にも及びつつあります。
ルーマニア唯一の原子力発電所であるチェルナボーダ原発は、カナダ型のCANDU炉2基を備え、国内発電量の約5分の1を担っていますが、運営会社のヌクレアルエレクトリカ社は7月28日、水位低下を見越して1号機を停止しました。これは、冷却水不足を避けるための予防措置です。

No machine-readable author provided. Bogdan assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons

2号機については運転を継続していますが水位次第では停止する可能性があり、仮に2基とも停止した場合、平時の国内発電量の約2割にあたる電源が失われます。
上流でもハンガリーのパクシュ原発が大幅に出力を落とし、セルビアの鉄門水力発電所も1号が通常の約2割、2号が約3割の出力にとどまっています。

なぜ、上流の岩を爆破するのか

① 原発の水が引かれるルート

チェルナボーダ原発は、ドナウ川の岸ではなく、川から4〜5㎞内陸にあります。冷却水は、ドナウ・黒海運河につながる水路を通じて引かれています。

問題は、その取水地点がドナウ川の分岐より下流にあることです。
ドナウ川は、ルーマニア南東部のシリストラ付近で二つに分かれます。東側が旧ドナウ、西側がボルチャ分流です。さらに旧ドナウからバラ水路が分かれ、水の一部をボルチャ側へ流します。
原発が取水するのはバラ水路が分かれた後の旧ドナウです。バラ側へ流れる水が増えるほど、原発が取水できる水は減ることになります。

2基を定格出力で運転するには毎秒約108m³の取水が必要で、停止後も原子炉に残る熱を取り除くため、2基で毎秒約14m³を必要とします。
つまり、原発は運転を止めても、すぐに冷却水が不要になるわけではありません。

② 水が流れやすいバラ水路

ドナウ川全体の流量が同じでも、分岐点で水がどちらへ流れるかによって、原発側の水量は変わります。
バラ水路では長年にわたって川底が侵食され、水が流れ込みやすくなっていました。上流のダムによって土砂の供給が減ったことや、導流工が流れを狭めて侵食を強めたことが原因とされています。

また、爆破されたパルジョアイア岩は最近現れたものではなく、周囲の川底が下がったため相対的に大きな障害となり、水をバラ側へ向かわせる作用が強まったと考えられています。

2003年の記録的な低水位の際、分岐後の旧ドナウの流量は毎秒約205m³まで低下し、チェルナボーダ原発1号機が約3週間停止しています。

③ 計画された爆破

実は、分岐点の水量配分を変える計画は、以前から検討されていました。
主な対策は導流堤を築く、川底に低い堰を設ける、パルジョアイア岩を除去するというものです。

2011年から2016年にかけて導流堤や護岸、川底の堰、旧ドナウの浚渫が行われましたが、やはり低水位時にバラ水路へ水が流れすぎる問題は残りました。
現在は、既存の堰をかさ上げして分岐付近の水位を最大1.2m上げる「BALA II」計画も進められていますが、今回の爆破は、この恒久対策を待てない状況で実施された応急措置です。さらに、破壊した石を積んだはしけ4隻をバラ水路に沈め、流れを弱める作業も進められています。

地理・地政学的な視点 ドナウ川と設計の前提

① 国際河川、ドナウ川

ドナウ川は10か国を流れ、その流域は19か国に広がります。

CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=62259455

少雨による流量低下は、下流の原発だけでなく、水力発電、工業用水、上水道、農業、船舶輸送にも同時に影響します。今回はハンガリー、セルビア、ルーマニア、ブルガリアで電力供給への制約が生じました。

隣国と電力網が繋がっていれば不足した電力を近隣国から購入可能で、実際にルーマニアはウクライナから電力を購入しています。
しかし、同じ河川と気象条件を共有する近隣国では同時に発電量が低下する可能性があり、近隣国から補えるという利点が機能しない可能性も十分にあります。

② 低水位を決定づける要因

ドナウ川の水位低下には、流量の減少だけでなく河床の低下も関係しています。ダムが土砂をせき止め、砂利採取や河川工事によって土砂の移動が変わると、川底が少しずつ侵食されます。川底が低くなれば水面も低下します。

ハンガリーのパクシュ原発では、2018年の水位が、設計時に想定された「100年に一度の最低水位」をすでに1m下回っていました。2026年は、そこからさらに28㎝低下しています。
同原発では、水量よりも水面が下がって取水ポンプで水を汲みづらくなることが問題となりました。このため、取水管を低い位置へ移す工事が進められています。

③ 原発が必要とする冷却水

原子力発電所は、核分裂で生じた熱を使って発電します。電気に変わるのは熱の約3分の1で、残りは川や海、冷却塔などを通じて外へ逃がさなければなりません。

内陸の河川に依存する発電所は、水量だけでなく水温の制約もあります。
フランスでは7月12日、熱波によりローヌ川、ムーズ川、ガロンヌ川沿いの原発3基が停止し、8基が出力を落としました。こちらは水不足ではなく、温まった川へさらに熱を放出することを避けるための措置です。

日本の商業用原子力発電所がすべて海岸に立地している背景には、地震や津波とは別に、大量の海水を冷却に使えるという条件があります。
発電所の立地は、燃料や送電網だけでなく、余った熱をどこへ捨てるかという要素にも影響されます。

今回のニュースが問いかけること

爆破翌日、当局は原発付近の水位が前日より2㎝上昇したと発表しました。しかし、長期的に水位を維持できる保証はなく、降雨がなければ2号機の停止が再び検討されることが予想されます。
インフラは、建設時に想定した水位や水温を前提として設計されており、その前提が変われば、施設を改修するか、周囲の環境に手を加えるか、利用量を減らす必要があります。

ただ、水の配分を変えることは意外な分野に影響を及ぼすこともあります。
旧ドナウの水は、原発だけでなく、灌漑、製油所、都市の上水道、船舶輸送にも使われています。バラ水路は、絶滅が危ぶまれるチョウザメの移動経路でもあります。
原発へ多く水を送れば、それ以外の利用や生態系に影響が及ぶ可能性があります。今回の工事が示すのは、渇水時に限られた水をどこへ優先的に配るのかという問題とも言えます。

今日の地理ワード

分流(ぶんりゅう)

川の本流から枝分かれした流路のこと。
下流で再び本流と合流する場合もあれば、そのまま別の河口へ流れる場合もあります。三角州では、一つの川が複数の分流に分かれて海へ注ぐことが一般的です。

ドナウ川下流の旧ドナウ、ボルチャ分流、バラ水路のほか、オランダのライン川下流も代表例です。ライン川では、分岐点に設けた構造物によって、各流路へ送る水量を管理しています。

日本では、複雑に合流していた木曽川、長良川、揖斐川を分離する工事が、江戸時代から明治時代にかけて進められました。こちらは、洪水被害を減らすために流路を分けた例です。

気軽に深く知るためのヒント

  • 地図帳でドナウ川をたどり、河口までに通る国を数える

  • チェルナボーダ付近の地図で、川の分岐点を探す

  • 自分の地域の川に、途中で分かれる流路がないか調べる

  • 日本の原子力発電所が海岸と河川のどちらにあるか確かめる

  • 冷却塔のある発電所とない発電所で、水の使い方を比べる

お知らせ

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© 2026 Issei Takinami / (社)日本地域地理研究所

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瀧波 一誠 ☕️地理戦略アドバイザー 、IJRG代表理事、帝国書院研究室 共同研究者、世界観分析家 サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。

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