子どもとの関わり方に正解はある?──『科学的根拠で子育て』が示す”私たちが今できること”
前回の記事では『科学的根拠で子育て』の全体像を分かりやすく整理して紹介しました。
今回は、そこからさらに議論をすすめ、次の2つの問いについて考えていきます。
「なぜ子どもの将来の収入(=稼ぐ力)を上げることが重要なのか?」
「けっきょく私たちは目の前の子ども達にどう向き合うか?」
この記事を最後まで読むと、この2つの問いを通して、稼ぐことへの理解が深まり、具体的なアクションが手に入ります。
子育て・教育のお役に立てたら、うれしく思います。
『科学的根拠で子育て』「強み」「弱点」
まず初めに、本書の最大の強みからお話します。
それは『科学的根拠で子育て』は信頼性の高い研究をもとに「効果の高い教育や子育て」について語られている点にあります。
つまり、
「効果の高い教育についての膨大なエビデンスをまとめ、それを私たち一般人(研究者ではない人という意味で)が理解できるレベルの言葉にして届けてくれている」
これが『科学的根拠で子育て』という本の魅力であり強みでもあります。
この対局に位置するのが、
"教育ママ"や"カリスマ教員"が書いた「子育て体験」や「教育書」です。
これらの本に共通する弱点は、"根拠の乏しさ"と"再現性の低さ"にあります。
例えば、"教育ママ"が書いた子育て本には「このような育て方をしたら結果が出ました」といった内容がよく書かれています。
結果というのは「東大合格」など学力ベースのものが多く、また語られる教育法とその結果に因果関係があるかどうかは明らかでないことが多いです。
教育手法だけでなく、ベースにある家庭環境や遺伝的要素も学歴などの"結果"の要因としては考えられます。
橘玲著『幸福の「資本論」』によると、幸福の土台となる3つのインフラを次のように定義しています。
1.金融資産(自由)
2.人的資本(自己実現)
3.社会資本(共同体=絆)
※( )は著者が「設計できる」と考えている"幸福の条件"。金融資産は「自由」と人的資本は「自己実現」と、社会資本は「共同体=絆」と対応している。
この3つの資本を家庭環境に当てはめると次のようになります。
金融資本(預金や株、不動産など家庭の資産状況)
人的資本(親の稼ぐ力・教育力)
社会資本(家族構成・親と親族、友人付き合いのよさ・学校や地域とのつながり)
教育ママが書く子育て本の多くはこの土台を考慮せずに書かれていることがほとんどです。
カリスマ教員が書く"教育書"にも同じようなことが言えます。
カリスマ教員が提唱する革新的な教育実践の多くは、「授業を成立させる」「学級を安定させる」という前提をもとに成り立っています。
"カリスマ"と呼ばれる教員の多くは、
教師になるまでの学びという土台があります。
教師になってからの生活習慣や学習習慣、メンタルを維持するための心掛けています。
さらに、
血の滲むような努力と数多くの失敗を積み重ね、
学級経営や授業を成り立たせるための"土台"を手に入れ、
その上で編み出した「革新的な教育実践」を本にしている。
言ってしまえばそれは、富士山の八合目から山頂までの登り方が書かれているようなものです。
ですが、それを読んだ駆け出しの教師は「五合目から八合目」の存在に気付かないまま「八合目からの登り方」を参考にして、自身の学級で教育書に書かれた内容を実践します。
当然、うまくはいきません。
もちろん例外もありますが、このような点でカリスマ教員の教育書は「再現性が低い」と言えます。
ここまで聞くと私が"教育ママ"や"カリスマ教員"の本を痛烈に批判しているように思われますが、全くそうではありません。
このような教育実践は子育て・学校教育の現場にいる人にとって救いになることがあります。
具体性があるからこそ「自分にもできるかもしれない」と希望を抱くことができます。
反対に、今回紹介する『科学的根拠で子育て』では、
「じゃあ、私たちはどのようにして教育現場で実践したらいいの?」
という具体的なアクションまで読み手が行き着くことは難しいと感じています。
つまり、
「教育的によいとされることを科学的に証明した論文を一般の人にもかみ砕いて説明するとこんな感じですよ」
と説明するスタンスにとどまっているのが本書の弱点になります。
確かに、「スポーツ経験は将来の収入を上げる」といったエビデンスは示されています。
しかし、「では、わたしは何から始めたらいいのか」という具体的なアクションを促すものではありません。
実際、子どもの頃にスポーツ経験というのは、送り迎えや用具の準備、遠征の手伝い等、親の貢献が大きいですよね。
エビデンスは「集団の中で平均的に効果が高かった」という事実ではありますが、各家庭に落とし込むと様々な例外が生まれます。
あくまで「科学的に根拠があり信頼性の高い教育関連の研究結果を説明する」という姿勢で書かれていることを頭に入れておきましょう。
問1|「我が子の将来の収入」を上げることがなぜ重要なのか
ここからは、本書の根底にあるテーマについて掘り下げます。
『科学的根拠で子育て』では「将来の収入を上げるためには子どもに何をさせればよいか?」ということが一番に書かれています。
ですが、
「我が子の将来の収入」を上げることがなぜ重要なのか
という点については300ページの書籍の中で立った1ページ、簡単に触れられているだけになっています。
そこで、ここでは「我が子の将来の収入を上げることは本当に重要なのか」という問いについて考えてみます。
結論を申し上げますと、「我が子の将来の収入を上げる」ということは重要であり、親が取り組むべき課題だと考えます。
「我が子の将来の収入を上げる」とは言い換えると、子どもの「稼ぐ力」を伸ばすと言うこともできます。
子どもが将来、自分の力で社会を生き抜くために、必要なのは「稼ぐ力」です。
そして、お金を稼ぐことの本質は「他者貢献」です。
誰かを喜ばせた対価としてお金をもらっている
「ありがとう」の価値をかたちにしたもの=お金と言い換えることもできます。
これが「稼ぐ」ということです。
しかし、世の中には「稼ぐ」ことを「会社のルールを守り、上司の言うことに従い、従順な社員として振る舞い、我慢すること」だと勘違いしている人が少なくありません。
これは、大きな組織で働くほど”歯車"として働く要素が大きく、「誰かを喜ばせた対価としてお金をもらっている」という価値提供の対価として稼ぐという本質が見えにくくなってしまうことが原因の一つかもしれません。
お金を受け取ることへの“無意識の抵抗感”の正体
人の役に立った対価として、お金をもらう
この当たり前のことに、なぜかどこか後ろめたさを感じてしまう。
そんな感覚を持っている人は、実は少なくありません。
その背景には、日本人に深く根付いた「お金=汚いもの」「稼ぐこと=ずるいこと」といった価値観があります。
そして、この価値観が形成された大きな要因のひとつが、明治以降の学校教育制度にあると言われています。
たとえば、「礼儀正しさ」や「勤勉さ」といった美徳は、よく“日本人らしさ”として語られますよね。
しかし、実際にはこれらの価値観は日本人に古来から備わっていたわけではなく、近代以降の教育によって“組織に従順で勤勉な人材”を育てるために、意図的に培われてきたものであることが、研究から分かってきています(※1)。
もちろん、日本の教育水準が高いことは疑いようがありません。集団のルールを守り、責任感を持って一所懸命に取り組む姿勢は、世界的にも評価されています。
実際に、クリスティーン・ポラス氏の著書『Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』では、「礼節のある人」は
・仕事のチャンスを得やすい
・人脈が広がりやすい
・昇進の可能性が高い
というデータが紹介されており、礼儀正しさはまさに「生き抜く力」であるとも言えます。
ですが一方で、「与えること」に価値を置く教育はされても、「お金を受け取る=稼ぐこと」に対する肯定的な教育は、ほとんどなされてきませんでした。
「稼ぐ力」は奪うことではなく、貢献すること
「稼ぐ」という言葉を使うと、ときに「悪銭でも稼げばいいというのか」といった反応が返ってくることがあります。
もちろん、人を騙してお金を得ている人もこの世には存在します。でも、冷静に考えてみてください。そういう人たちは本質的には「稼いで」いるのではなく、「奪っている」のです。
本当に「稼ぐ力」とは、人に価値を与え、感謝され、その対価としてお金を受け取る力のこと。
つまり、「他者への貢献」こそが、真に持続可能で健全な「稼ぐ」という行為の本質なのです。
「お金では買えない」と「お金がなければ守れない」は、両立する
「愛や幸せはお金では買えない」という言葉はよく聞きます。
確かにそれは一面の真理かもしれません。
でも、同時に「金の切れ目が縁の切れ目」とも言われるように、愛や幸せを持続させるためには、ある程度の経済的基盤が必要なのもまた事実です。
先ほども紹介した橘玲氏が提唱した『幸福の資本論』でも語られているように、
幸福には、
・金融資本(お金)
・人的資本(能力)
・社会資本(つながり)
の3つの柱が必要だとされています。
「お金」は万能ではありませんが、幸福の“土台”を支える大事なピースであることは間違いありません。
お金に、もっとあたたかい意味を持たせよう
私たちは、お金をもっと前向きに捉えてもいいのではないでしょうか。
「お金は感謝の循環」
「お金は、他者への価値提供がカタチになったもの」
そう捉えることができたとき、「稼ぐことは悪いこと」という思い込みから自由になり、自分の力で未来を切り拓いていくことができるのだと思います。
つまり、
「稼ぐ力」を育てることは、他者貢献ができる人材を育てることに他なりません。
これらのことから、「子供の将来の将来の収入を上げる=稼ぐ力を身につけさせる」ことは重要だと私は考えています。
『科学的根拠で子育て』から学ぶー親・先生なら知っておきたいアクションリストまとめ
『科学的根拠で子育て』の内容を参考に、親・先生としてできることを4つずつに厳選しました。
これらはすべて「エビデンスに基づいた行動」になります。
<親なら知っておきたい『科学的根拠で子育て』要点>
①「スポーツ経験」「リーダー経験」「音楽活動」が非認知能力を伸ばすことを知ろう
②幼少期の子育てに「あなたの時間」を投資しよう
③就学前の教育は学力より「経験・関心」を大切にしよう
④青年期の教育は「本人の時間」を投資させよう
<教師なら知っておきたい『科学的根拠で子育て』要点>
①学校でやり抜く力を伸ばすには「努力」を褒めよう
②子どもがリーダーを経験する機会を増やそう
③「好奇心」を引き出す授業の導入をしよう
④学習効果の最大化をねらった班編成(席替え)をしよう
詳しい内容については次の章で解説します。
問2|目の前の子どもとどう向き合うか?ー『科学的根拠で子育て』から学ぶ
ここからは『科学的根拠で子育て』を実践できる、具体的なアクションプランについてお話します。
よく知らない人から提案されても…
と思われるかもしれませんので、一文だけ自己紹介をさせていただきます。
私は小学校教員として5年間勤務し、大学時代の卒業論文は「非認知能力」をテーマにしていました。
「非認知能力」に関する知識をもとに、子ども達や保護者と関わってきた経験から、具体的な行動を提案します。
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