四番【最後まで読まれない本の中で】


これはどこかの物語。名前も知らない一つのカケラの続き。


雨が降っていた。

雨宿りのつもりで、人がちらほらと入ってくる小さな図書館。


今日もそんな空間に、一人の少年が訪れていた。

疲れたような、諦めたような目をして。


少年は思う。

(本なんて所詮気休めだ。何も変わらないし、たいして面白くもない)


そう思いながらも、誰かが読みかけた本を暇つぶしのつもりで手に取った。


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暗い森だった。

鬱蒼とした木々が、無秩序なようでどこか規則的に並び、光の侵入を許さず、重たい闇を育てていた。


旅人は歩みを止め、その闇に問いかけた。

「何を、求めますか」


かすかな声が、闇の奥から返る。

「……水を。食べ物を……」


旅人は目を伏せ、一瞬だけ目を閉じ、頷いた。

そして森へと姿を消した。


しばらくして、戻ってきた旅人の手には、一匹の野ウサギがぶら下がっていた。

皮を剥ぎ、火を起こし、炙る。脂が火に落ち、小さく爆ぜた。


やがて再び、旅人は闇に尋ねる。

「食べられますか」


返事はない。

風も、葉も、炎も、息をひそめたように沈黙する。


そして、ひとつの死が、静かに明かされた。

森の奥、倒木のそばに、冷たくなった若者の身体。

彼が声の主であることを、旅人は知っていた。


旅人はぽつりと言葉をこぼす。

「結局の所、山に迷った人間を救うためにウサギを狩った。

小さなザックに、濡れた登山地図。足には擦り切れたスニーカー。

きっと、助けを求めながら何日も彷徨っていたんだろう。

……ところがどうだろう。人間は死に、そして野ウサギの命も無駄になった」


一呼吸おいて、続ける。

「救おうとして、他の命を犠牲にして、それでも救えなかったら……全部、無駄になる?

だったら助けようとしなければ良かった?

野ウサギは死なずにすんだ?

いや、それは、結果論ってやつだ」


野ウサギの骨を火にくべながら、旅人はつぶやいた。

「たぶんまた、どこかで誰かを助けようとして、何かを失うんだろうね」


炎がパチパチと、まるで小さく笑うように答える。

「でもまあ、それも旅ってやつだ」


翌朝、焚火の消しカスだけが残っていた。

旅人の姿はどこにもなかった。


―――――――――――――――――――――


パタン、と少年は本を閉じた。


少年の目に宿った感情は、読む前と変わらず、どこか疲れたままだった。


少年は思う。

(結局、どの本も同じじゃないか。感情に語りかけてくるだけの、つまんない本)


「……ったく、早く雨やまねーかな。帰ってゲームしてー」


改めてパラパラとページをめくる。

(結局、何が言いたいんだか。国語の教科書かよ)

外はまだ雨が降っている。

悪態を思いつきながら、少年は次の、旅人話を読み進め始めた。

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佐伯由羅(伏見もなか) とても、とても嬉しく思います。