新聞配達員だった僕には、他人事ではなかった
渡島管内福島町の住宅地で、北海道新聞の男性配達員がヒグマに襲われ死亡したという報道に、強い衝撃を受けた。
胸がざわついたのは、ただ熊害事件だったからではない。
僕自身、19歳のころ新聞配達をしていたからだ。
まだ街が眠っている時間に起きる。薄暗い道を自転車やバイクで走る。人の気配は少なく、空気だけがやけに澄んでいる。夏も冬も、雨の日も雪の日も、黙々とポストへ新聞を入れていく。
あの時間帯の町には、昼間とは違う顔がある。
静かで、少しだけ世界の裏側にいる感覚。若い頃の僕は、それを特別とも思わず働いていた。
だから今回の事件は、数字やニュースの一行として読めなかった。
もし自分だったら。
もしあの頃の仲間だったら。
もし毎朝決まった道を回っている最中だったら。
新聞配達という仕事は、社会を支える生活のインフラのひとつだ。多くの人が眠っている間に、誰かが動いている。その当たり前の上に、朝の暮らしは成り立っている。
その現場が、命の危険と隣り合わせになっていた。
山で熊に遭う話ではない。住宅地で、未明の配達中に起きたことだ。人と野生動物の境界線が、こちら側へ大きくずれてきている。
富士山麓で鹿が増えたことに驚いていたばかりだが、北海道ではもっと切実な形で現実が進んでいる。
若い頃の自分が走っていた夜明け前の道を思い出す。
あの静かな時間が、こんな意味で脅かされる時代になるとは思わなかった。
亡くなられた方に、心より哀悼の意を表します。
【2025年7月12日の制作日記より】
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