故郷の街に、ヒグマが現れた
昨日、ヒグマが僕の故郷・北海道湧別町(中湧別北町)の市街地に現れた。
子供の頃、町中はもちろん、山でヒグマを見たという話すら聞いたことがなかった。
山へ入ることに、恐怖や警戒心を抱いた記憶もない。
だが今、故郷は少しずつ、かつて僕が知っていた場所ではなくなり始めている。
各地の熊出没地域を取材する中で、僕はある疑問を抱くようになった。
熊が市街地へ現れる最大の理由は、個体数増加だと語る研究者もいる。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
むしろ熊たちは、“奥山より人里の方が生きやすい”ことを学び始めているのではないか。
人が減った集落。
放置された畑。
果樹。ゴミ。
野生の側から見れば、人間社会そのものが、新しい生息圏へ変わり始めているようにも見える。
今月、僕らは再び北海道へ撮影に入る。
故郷を思う。
改めて、昨年の制作日記を読み返した。
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【2025年8月24日の制作日記より】
18歳で北海道から東京へ出てきて以来、心の底から「帰りたい」と思ったことは、一度もなかった。
故郷に対して薄情な人間なのだろうか――そんなことを考える時期もあった。
だが、それは単純な薄情さとも少し違う気がしている。
もっと複雑で、言葉にしづらい感情だ。
だからこそ今は、肩の力を抜いて、フラットな視線で故郷と向き合いたいと思っている。
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【2025年12月15日の制作日記より】
11月の北海道撮影では、「山を狙ったドローン撮影」が大きなテーマのひとつだった。
だが実際には、ドローン撮影だけに丸一日を割けるほど、スケジュールに余裕はなかった。
そんな中、同行していた家人が、僕の故郷・中湧別の湧別川でドローンを上げてみたらどうかと提案してくれた。
反対する理由はなかった。
思えば僕は、自分が育った町の全体像を、一度も俯瞰して見たことがなかったのだ。
湧別川の河川敷は、僕にとって特別な場所だ。
従兄弟たちと魚釣りをし、川遊びをし、スカンポ切りをした。
そしてその場所は、人生で初めて「空の異様さ」を感じた場所でもある。
空に、太陽が二つあった。
ひとつは、いつもの太陽。
もうひとつは、眩しくないオレンジ色の光だった。
「見た」という記憶だけは、異様なほど鮮明に残っている。
だが、その光景そのものは、霧の奥に沈んでいる。
僕は大人になってからずっと、その沈殿した記憶を取り出そうともがいてきたのかもしれない。
そんな場所で、ドローンを飛ばした。
初めて見る、自分の町の俯瞰。
もしかしたら、あの時、空にあった何かも、こんな景色を見下ろしていたのかもしれない。
僕は今、新しい視点で故郷を見つめ始めている。
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