「天使も踏むを畏れるところ」という本
読書に没入できる量感と本の柔らかさ
松家仁之著「天使も踏むを畏れるところ」。
恐れではなくて畏れ(おそれ)。
畏れは、畏まる(かしこまる)とも読む。
相手の威厳に圧倒されて恐縮する意味、なのだと。
皇居の宮殿を建てるお話なので、
そりゃ、畏まって読まなくては、と思ったけど、
とても人間臭い物語だった。
◎本の基本仕様
上巻・下巻の2冊組み
各巻545ページで、重さ500g
外形サイズが縦195×幅140×厚30㎜(おおよそ四六判)
定価2,700円(税込)
●ページ4.95円●グラム5.4円


上下巻で1,000ページを超える大長編。
1冊で3㎝の厚みがあって、重さが500グラム、
つまりペットボトル1本分なので、
持って歩くのはやや難儀だ。
表紙が柔らかいので、
電車の中でも読みやすいことは読みやすいが、
本のキャラ的には、
カウチやソファでじっくり没入したいかな。
表紙がソフトカバー。
しかし、並製本ではない。
表紙が、板紙を使う代わりに、
厚紙でくるんだ仮フランス装という装幀になっている。
これがおしゃれだ。
この装幀は、海外文学好きにはお馴染み、
「新潮クレストブックス」シリーズと同じ製本仕様。
この本も新潮社発行で、装幀も新潮社装幀室。
ブランドイメージを上手に拝借している。

文字組みは44文字×20行で、書体は明朝体の13級。
最近は14級が多いので、文字が小さく感じる。
しかし、天地に余白を取り、行間の空きも適切なので、
本気で読書したい向きには、没入しやすい組版かと思う。
映画で言えば、シネスコじゃなくて、
ビスタサイズくらいのサイズ感。
文章は、1センテンスが短めで、
描写の解像度が高いのか、
情景や心理が掴みやすくて難解なところがない。
前景から後景までクリアなパンフォーカスみたい。
章によって、人物視点を変えることで、
事実が多面的に浮かび上がり、
それがサスペンスにもなっている。

全125章で、大正時代から昭和45年頃までの
およそ60年間にわたる歴史秘話。
元は連載小説なので、1章が連載の1回分のようだ。
主な登場人物は創作だが、それぞれにモデルが存在する。
60代以上の人なら、思い当たる人物も多いだろう。
巻末に6ページにわたって、参考文献が掲載されている。
その数170冊以上。
的確な人物描写は徹底した調査によるものか。
NHKの大河ドラマにしても良さそうなくらい、
それぞれの人物がしっかり掘り下げられている。
敵役も含めていずれも魅力的だ。
読みながら、この人はあの人かな、と推理する楽しみと、
ドラマにするなら、配役を想像する楽しみもある。
美智子様を誰が演じるのか、それだけで話題になりそう。
「天使も踏むを畏れるところ」とは謎めいたタイトルだが、
冒頭に掲げられた引用文を読むと、
物語の主題が浮かんできて、期待が膨らむ。
そして、読了後に改めて冒頭の言葉を読むと、
その含意がさらに深まる。

エンタメとして、叙事詩として、文学としても楽しめる、
小説好きのための小説だという印象を持った。
当ライブラリーでもよく借りられた本だった。
骨格がしっかりしているのに、当たりの柔らかなこの本は、
車でいうと、プジョーみたいな感触だと思った。

