人妻コンセプトカフェ 《おかえり、あなた》 第3話
前回はこちら
○○:あぁ…、疲れたぁ…
突然のトラブルが月曜日に起きて、そこから残業続き
他の会社員たちが華金を楽しんでいる中、現在の時刻は夜8時
○○:帰ろう…
他に誰も居ないオフィスの電気を消して、会社から脱出する
駅までの帰り道、すれ違うのは楽しそうな会社員ばかりで
○○:良いな、俺も楽しみたいな…
そう思った瞬間、気付けば携帯であのコンカフェの名前を調べて、出勤表をチェックする
前回、次行く時は美羽ちゃんを奥さんにすると約束していた
○○:あ、美羽ちゃん出勤してるじゃん
癒されたい、そして美羽ちゃんもいる
この状況下で、行かない理由があるわけもなく
○○:…行くか!
楽しそうな会社員とすれ違う中、これから楽しくなるだろう時間を想像して、足取りは軽かった
慣れた手つきでエレベーターの4階ボタンを押して
エレベーター内で緊張もしなくなった
ただ無事に美羽ちゃんに接客して貰えるのかが不安なだけ
○○:指名制度とか出来たら楽なんだけどな…
ほんのちょっとした不満をぼやいて、エレベーターは4階に到着する
お店のドアを開けると
"おかえり、あなた"
○○:ただいま〜
3回目にもなれば、ただいまと返事を勝手にしてしまう
保乃:あ、○○〜!
○○:あ、保乃さん!
美羽ちゃんが来てくれるかと思ったら、まず最初に見つけてくれたのは保乃さん
保乃:保乃のことまた奥さんにしてくれるん〜?
にこにこの笑顔でどんどん距離を詰めてくる保乃さん
本来は美羽ちゃんに奥さんになってもらおうと思っていたけれど、この威力に屈服しそうになる
そんな中
美羽:だめです、保乃さん、離れてください
保乃:なんでなん〜?保乃が○○の奥さんなんやで?
美羽:今日は私が○○の奥さんなんです
保乃:○○、そうなん…?
○○:ま、まぁ…
保乃:ふーん…
今日は美羽ちゃんの為に来たことを知ると、不機嫌になってしまう保乃さん
これは美羽ちゃんだけが出勤する日に来るべきだったか…?
美羽:ってことで、○○さん、案内しますね
○○:う、うん、お願い
保乃:どーせ、保乃なんかより若い女の子が奥さんの方がええんや…
隣から聞こえてくるボヤきに耳が痛くなるが、店の奥へと案内する美羽ちゃんの後ろを着いていく
美羽:来てくれてありがとうございます
○○:いや、前約束してたからさ
美羽:ずーっと待ってました
美羽:いつ、○○さんの奥さんにしてくれるのかなって
微かに笑ってそんなセリフを言ってくる美羽ちゃんは、また他の2人とか違う威力を持っていて
○○:待たせてごめんね?
美羽:良いです、やっと○○さんの奥さんになれましたから
美羽:あと、メガネどうですか?
○○:似合ってて、いいと思う
美羽:じゃあ作戦大成功ですっ
落ち着いた雰囲気なのに、柔らかく微笑む美羽ちゃん
この姿に正直ハマりそうになっている
美羽:そうだ、お腹すいてますよね?
○○:うん、そうだね
美羽:じゃあ、夫の○○さんの為に美味しいご飯作ってきます
美羽:待っててね、○○
夫呼び、さり気ないタメ口
1つ1つの行動が全て刺さって
○○:これはこれでやばいかもな…
1人テーブルで悶絶していると、何となく視線が刺さっている気がして、ふと周りを見てみると
保乃:…
保乃さんがこちらをじっと見つめていた
恐らく、美羽ちゃんに悶絶している俺の姿も見られているであろう
そんな中、保乃さんはこっちのテーブルにやって来て
保乃:○○?
○○:は、はい
保乃:えらい美羽ちゃんに悶絶しとったみたいやなぁ?
○○:いや、そんなことは…
保乃:ずっと見とったで?
まるで不貞を働いた夫を詰めるようなこの雰囲気
変なリアルさに冷や汗がでてくる
保乃:しかも、前は愛季ちゃんを奥さんにしとったんやってな?
○○:え、なんでそれを…
保乃:愛季ちゃんから直接聞いたで?○○さんが前に夫になってくれたんですって
保乃:愛季ちゃんも奥さんにして、今日は美羽ちゃんも奥さんにするんや…?
じわじわと距離を詰めてきて、どうやってこの状況を打破すれば良いのか、頭をフル回転させる
保乃:浮気性な夫は嫌やなぁ…
○○:ちが、そこまで…
美羽:保乃さん、○○に何してるんですか?
何とか言い訳をしようとした時に、ちょうど美羽ちゃんが戻ってきて
美羽:私の夫が何か悪いことしました?
妻として夫である俺をこの状況から守ってくれようとしていて
どこかかっこよさまで感じる
保乃:ごめんごめん、うそうそ!
保乃:○○もごめんな?
○○:あ、俺は全然…
保乃:また保乃のことも奥さんにしてくれたら嬉しいなって思ってただけやねん
そう言って全力の笑顔を振りまいてくれる保乃さん
ここまでコンセプトにリアルなカフェはむしろ無いかもしれない
保乃:ほなまたね!
手を振って去っていく保乃さん
そして目の前にいる美羽ちゃんは料理が乗ったお盆を持っていて
美羽:はい、これ○○の為に作ったご飯
テーブルには豚キムチに白米の定食
至ってシンプル
けれど、男からしてこういう料理が1番好きで
美羽:美味しいと思うから、いっぱい食べてね
○○:うん、いただきます!
豚キムチをご飯に乗せて、そのまま一気にかきこむ
程よい辛さで、白米が止まらない
美羽:美味しい…?
不安げなまま、お盆を胸の前に持っている美羽ちゃん
○○:美味しいよ、美羽
美羽:ふふっ…///
美羽:やったぁ…///
呼び捨てで呼んだ瞬間、ダウナー系みたいな様子から、全力の可愛い女の子に変貌して
美羽:美羽ちゃん、料理苦手だけど頑張ったんだ…///
あの時みたいに一人称が美羽ちゃんになる
○○:ありがとうね、本当に美味しいよ
美羽:お茶も持ってくるっ…
そう言ってキッチンの方へ軽い足取りで戻っていって、お茶を持ってきてくれる
美羽:はい、お茶
○○:ありがとう、ご飯もおかわりもらっても良いかな?
美羽:うん、ご飯ついでくるね
お茶碗を手渡して、またキッチンへと戻っていく美羽ちゃん
ただの食事のやり取りだけど、でもやっぱり夫婦のような感覚に陥ってしまう
これがこのコンカフェの恐ろしいところ
美羽:はいっ、いっぱい食べてね
○○:ありがとう!
それからも豚キムチ定食を全力で味わって
お腹はいっぱい、幸せな気分
美羽:幸せそう
○○:そりゃ、こんなに美味しいご飯食べれたらね
美羽:美羽ちゃん、奥さんとして合格?
○○:合格どころじゃないよ、本当に奥さんにしたいぐらい
美羽:っ…///
その瞬間、美羽ちゃんは俯いてしまう
本当に人妻であるキャストに、流石に素直に言い過ぎたと思って、焦ったものの
美羽:…嬉しい
美羽:○○の奥さんにちゃんとなれてるか不安だったから
○○:美羽ちゃん…
落ち着いて余裕のある感じだった美羽ちゃん
けれども、実は不安を抱いていて、その人間らしさにまた惹かれる
美羽:じゃあ、チェキ、思い出に撮りましょ?
○○:う、うん!撮りたい!
美羽:じゃあこっち
そう言うと手を繋いできて、フォトスポットまで引っ張られる
美羽:保乃さん、カメラお願いしても良いですか?
保乃:しゃーないな、撮ったる!
さっきまで不機嫌そうだった保乃さんだったけれど、今はキャストとしてちゃんと笑顔を振りまいてくれていて
保乃:なんかポーズは?
美羽:したいポーズある?
○○:えっと…
突然言われても、正直浮かばないもので
悩んでいる俺を見かねたのか
美羽:じゃあ…
その瞬間、美羽ちゃんは俺の肩に頭を預けてきて
○○:…え?
保乃:…え!?
美羽:早く撮ってください
驚きのまま、シャッターを押す保乃さん
○○:ちょ、美羽ちゃん…!
美羽:奥さんが夫の肩に頭を預けるぐらいおかしくないよね?
本当の夫婦ならその理論は通じる
けれど今は特定のコンセプトの下で過ごしているだけ
美羽:ほら、早くテーブル戻りましょ?
美羽ちゃんは保乃さんからチェキを受け取って、一緒にテーブルへと着いてくる
美羽:何か書いて欲しいメッセージとかの希望ってある?
愛季さんや保乃さんと違って、美羽ちゃんはテーブルで書いてくれるみたいで
○○:美羽ちゃんの思いをそのまま書いてくれたら嬉しいな
美羽:…分かった
曖昧な返答しか出来なかったけれど、美羽ちゃんはすぐに真剣な表情でチェキにメッセージを書き始めて
美羽:…書けた、はい、これ
そう言って渡してくれたチェキには
"ずっと○○さんの奥さんでいたいです"
と書かれていて
美羽:これが美羽ちゃんの本音です
○○:…ありがとう
やっぱり美羽ちゃんは他の2人よりもどこがずるいと思ってしまう
美羽:…そろそろ帰らないといけない時間ですよね?
○○:そうだね…
美羽:…仕方ないです
気付けば君の敬語は戻っていて
それがどこがこの時間を終わりを告げる合図のような感覚がする
でも本当にそろそろ帰らないといけない時間で
美羽:じゃあレジまで来てもらえますか?
○○:うん
いつも通りクレカで支払いを済ませる
さっきまで可愛らしい姿だった美羽ちゃんも、今はまた落ち着いた雰囲気に戻っていて
店のドアを開けて、エレベーターがやってくるのを2人で待つ
ドアがしまった瞬間、美羽ちゃんが口を開いて
美羽:…また奥さんにしてくれますか?
○○:もちろんだよ、また来るから!
美羽:約束ですからね?
○○:約束する
美羽:愛季や保乃さんに負けませんから
どうやらあの2人をライバル視しているようで
そんなにバチバチにならないでよなんて言っていると、エレベーターが到着する
美羽:じゃあ待ってますね
○○:うん、またね!
そしてエレベーターの閉じるボタンを押して
ドアが閉まり始めたその瞬間
美羽:…あの!
美羽ちゃんが突如、呼び止めてきて
急いでエレベーターの開くボタンを押す
○○:ど、どしたの?
美羽:…あの
少し俯いたまま、美羽ちゃんはエレベーターに乗り込んできて
○○:え、ちょ…
そのまま耳元に顔を近づけてきて
美羽:本当は私たち、人妻なんかじゃないですから
○○:…え?
放たれた言葉の意味を理解できる前に、美羽ちゃんはエレベーターから降りて
美羽:夫なんて居ないですし、まず結婚もしてませんから
美羽:だから…
美羽:…奥さん、なれるように頑張りますね?
微笑んで、手を振ってくれる美羽ちゃん
呆気にとられたまま、エレベーターの扉は閉まってしまった
