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健康管理を頑張りすぎると、人生まで在庫になる

Apple Watchとオーラリング、それにリブレ(血糖測定器)。全部つけて、毎朝その数字で一日の気分を決めていた時期がある。

・朝のレディネススコア(心身の回復度)が低いと、朝からテンションがガタ落ち。
・ぐっすり寝て体調がいいのに睡眠スコアが悪いと落ち込む。
・血糖がちょっと高いと、昨晩の麺類がダメだったとか色々考えてしまう。

医者としていつも色々偉そうに書いてしまっているけど、自分が一番踊らされていた。妻にそれ病気だよ、と言われたこともある。

体を整えているはずなのに、体の数字に一日を決められている。

これは、健康なのか?

自分は、この問いをずっと考えている。


数字を増やすほど、毎日が採点になっていった

数字そのものは大事だ。血圧も血糖も睡眠も心拍も、体感だけでは見えない部分がある。医師として、そこを軽く見たことはない。

やっかいなのは、数字が増えたあとだ。

今日はいい体。今日は悪い体。今日はイケる。今日はもうダメぽ・・・。

起きて数分で、自分の体に点数をつけて仕分けていた。読むために増やしたはずの数字が、いつのまにか裁く側に回っていた。

体を24時間営業の社員みたいに使っていた

忙しい人ほど、体を「もっと使えるもの」にしようとする。自分もそうだった。

睡眠時間は翌日の稼働のために確保する。食事はその日の必要タンパク質を達成するために選ぶ。筋トレは数字を伸ばすために組む。気づけば全部、明日の自分を働かせるための前工程になっていた。

体を、24時間営業の社員みたいに使っていた。しかも社長も自分のワンマンだから、誰も止められない。

高校の倫理で聞き流したハイデガーが、いま刺さっている

ハイデガーっていう哲学者が、近代技術の怖さを「世界が使えるものとして見えてくること」だと書いていた。

川は水力になる。森は木材になる。土地は開発用地になる。

高校の倫理の授業で読んだときは、何の話だか全然ピンと来ていなかった。同じことを自分の体にやっていたと気づいたのは、ごく最近だ。眠りは回復資源で、食事は栄養入力。カフェインはブースターで、サプリは性能補正。

便利な見方ではある。ガジェットもサプリも、ぜんぶこの見方の上に乗っている。自分もこれで長いこと動いていた。

ただ、この見方だけになると、一日が丸ごと明日の準備になる。体から人生の手触りが消える。

「何のために健康管理してたんだっけ」

眠る前にスコアを心配する。旅行中も歩数と睡眠を気にする。旅館の朝食バイキングを前に、こっそりリブレの数字を確認していた朝もある。会食が始まる前から、血糖値と翌日の回復コストを計算していた。

このへんで一回「いや、何のために健康管理してたんだっけ」になった。

友人と酒を飲みながらくだらない話をする。
家族と団欒を過ごす。子どもと楽しくスマブラをする。
好きな人と歩く。旅先の景色を、ちゃんと味わう。
疲れた日に、ちゃんと「疲れた」と気づける。

健康管理は、たぶんこういうことのためにやっていたはずだった。数字を捨てる必要はない。ただ、やりすぎると人生のほうが在庫管理になる。

外来でも、数字に押し潰されかけている人をよく見る。健康管理を頑張っているのに、なぜか少し苦しくなっている人に読んでほしい。

睡眠スコアより先に、朝の体の声を聞く

自分は一時期、朝起きた瞬間にオーラリングのアプリを開いていた。レディネススコア(心身の回復度)が80を超えていたら、その日は「イケる日」。65以下なら「ダメそうな日」。寝た時間も体感もほぼ関係なく、画面の数字で一日のテンションが決まっていた。

振り返ると、これは結構やばい状態だった。スコアが低ければダメな1日、高ければよい1日。いい1日にするために役立てるためのアプリに、毎日を左右されていた。

だから途中から、まず朝の体に聞くようにした。起きた瞬間に体が重いか。人の話を落ち着いて聞けるか。いつもの階段が重く感じないか。家族への返事がそっけなくないか。

最後のは、わりと効く。

家族とゆっくり過ごせるか。患者さんの話を最後まで聞けるか。看護師さんの説明を途中で切らずに待てるか。これは体調のバロメーターになる。

HRV(心拍変動)は、体からの短いメッセージ

HRVは面白い。心拍と心拍の間隔がどれくらい揺れているかを表す数字で、自律神経の状態を映す。

一般には、揺らぎが大きいほうが体に余裕があると考えられている。飲酒でも寝不足でもストレスでも、強い運動のあとでもHRVは動く。スマートウォッチやスマートリングで手軽に見られるし、便利な数字だ。

ただ、これまた振り回されないのが肝心だ。HRVが低いからダメ、高いからサイコー。これまた自分が一番やっていた読み方で、体調がいいけどHRVだけ悪い時にどう解釈したらいいのか迷っていたことがある。

今の自分はHRVを単独で判断しない。HRVが悪化している。これだけなら気にしない。けれど、HRVの悪化に加えて、安静時心拍が上がっている。睡眠の質も悪い。体もだるい。このあたりが重なっているのなら、体の余白が減っているというメッセージだと受け取る。

HRVとの付き合い方は別記事に細かく書いた。HRVが低い朝に休むかどうかで迷っている人は、そっちのほうが実用的だと思う。

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